GBSの予後予測と治療~今後の展望~
埼玉医科大学総合医療センター 脳神経内科 教授
海田 賢一 先生
(審J2502350)
埼玉医科大学総合医療センター 脳神経内科 教授
海田 賢一 先生
―GBSの予後予測に関する国際共同研究、International GBS outcome(IGOS)についてご概説ください。
海田先生:
GBSの臨床像(サブタイプ、経過、治療反応性など)には人種差、地域差があります。しかし、これまでの予後予測関連因子に関する解析は地域ごと、研究グループごとで行われていました。そこで、こうした問題を考慮し、国際末梢神経学会(PNS)とその一組織である炎症性ニューロパチー会議(INS)が2012年からスタートさせたのが多施設共同による国際的前向き観察研究のIGOSです。その目的は、地域・研究グループを超え、GBSの発症後早期に臨床経過と予後を予測できる臨床的・生物学的因子を同定することです。当初、1,000例を目標に開始されましたが、その後2,000例に拡大され、2021年5月に目標を達成しました。最近、その中間報告がいくつかpublishされています。
例えば、1年以上観察できた最初の1,000例(うち75例は除外)を対象にした中間報告では、1年後の独歩不能率が14%(図2)と16)、これまでの前向き治療介入研究とほぼ同じ結果であることが明らかにされています。GBSの治療内容に関する中間報告では、ピーク時独歩不能の重症GBSに対する初期治療は、IVIgが100%であった日本とベルギーをはじめ、多くの国でIVIgが90%以上を占める中、イタリアはIVIg71%、PE30%、ドイツはIVIg75%、PE8%、免疫吸着療法8%、米国はIVIg82%,PE15%で、バングラデッシュにおいては83%が無治療であること17)が示されました。
こうしたことからバングラデッシュを除く1,023例での解析が行われており、それによれば初期治療として84%が発症後平均4日以内にIVIgを、7%が発症後平均6日以内にPEを受けていることが分かりました17)。PEは70%が5回実施されていました17)。また、重症GBS743例の32%は初回治療が無効で、そのうち追加の免疫治療を受けたのは35%で、59%は無治療で経過観察という状況でしたが、初期免疫療法に反応しても再度悪化する治療関連変動(TRF)GBS50例では6割がIVIgの再投与を受けていました(図3)17)。
図2:GBSの重症度の推移
図3:IGOS中間報告:重症GBSとTRF-GBSにおける治療の実際
※警告・禁忌を含む注意事項等情報は電子化された添付文書をご参照ください。
―初回IVIg治療に不応なケースに対して、どのような治療が行われていますか。
海田先生:
GBS患者さんの3割は、初回IVIg治療に反応していないことが報告されています18)。初回IVIg治療で十分な効果が認められなかったケースにおいて、IVIgの再投与や他剤の追加治療が有効であることが報告されていますが12)19)、至適な治療法はまだ確立されていません。
そうしたなか、独歩不能でGBS発症2週以内の患者さんを対象として、IVIg再投与の有効性を検討したSID-GBS試験の結果が報告されました20)。IVIgの投与開始から7日目にmEGOS6点以上であった症例を、投与終了後24時間以内にIVIg再投与群またはプラセボ群に無作為に割り付けて、4週後にGBS disability scoreを評価しました。その結果では、IVIg再投与群において、プラセボと比較してGBS disability scoreの有意な改善は認められず、再投与後30日間における重篤な副作用の発現は、IVIg再投与群はプラセボ群と比較して多い(35% vs 16%)という結果でした。
―SID-GBS試験の結果を踏まえて、IVIg再投与についてのお考えを教えていただけますか。
海田先生:
SID-GBS試験は、初回IVIg投与終了から2~3日に再投与を行った結果、有効性は得られず、血栓塞栓症を含む有害事象が増加したという報告です。ただ、SID-GBS試験では、IVIg初回投与終了から再投与までの時間が2~3日と短く、初回治療の効果が十分現れる前に2回目が投与されている可能性があります。日常臨床では、IVIg初回投与終了後1週間前後で反応性を評価する場合が多いと思います。その時点で症状悪化や治療関連変動(TRF)が確認された場合には、再投与を検討しています。
GBSの一部に、治療によって症状が改善、あるいは安定が得られた後に再び悪化するTRFが見られ、GBS-TRFに対してIVIg再投与が一般的であることが報告されています17)。今回のSID-GBSはTRF発現前にIVIg再投与が行われており、GBS-TRFに対するIVIg再投与の有効性を否定するものではありません。SID-GBSのプロトコールでTRF発現を抑制できたかどうかは不明です。
IVIg再投与を検討する際には、患者背景を考慮することが重要です。高齢者、虚血性心疾患、脳梗塞の既往、Dダイマー高値、静脈血栓症のリスクが高い症例では注意を要します。
―IVIg以外の治療法について教えてください。
海田先生:
人工呼吸器の装着によりIVIgの効果判定が難しい場合や、TRFの有無の確認ができないケースでは、PEも選択肢の一つです。また近年、補体阻害薬の開発が進んでおり、いくつかの治験が進行中です。今後、これら新規薬剤がGBS治療の選択肢に加わることによる、予後の改善に期待したいと思います。
【topic】コロナウイルス感染症とGBSの関連に関する最近の知見21)
2020年1月30日から5月30日の期間、神経症状発症後2週以内のGBS患者49例を繰り入れ、コロナウイルス感染症の先行感染の有無を調査したIGOSの前向き観察研究の結果が最近報告されました。その中で、①コロナウイルス感染GBS患者は、他のウイルス感染後のGBS患者と同様の神経学的特徴を有していたこと、また②登録患者中のコロナウイルス先行感染頻度は22%であったことが示されています。パンデミック期間における登録患者数は例年に比べて増加していないことを踏まえ、GBSとコロナウイルス感染症の強い関連性は考えにくいことが示唆されています。
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