TOP JBファーマシストプラザTOP 救急集中治療薬剤師 SPECIAL CROSS TALK 第1回テーマ『救急・集中治療に関わる薬剤師が目指す姿』

2023年4月掲載
(審J2303646)

救急・集中治療領域では、重症度の高い患者に対するハイリスクな薬剤の使用が多く、薬剤師に期待される役割が増えてきています。日本臨床救急医学会による救急認定薬剤師の誕生で、救急や集中治療に従事する薬剤師も増えていますが、まだまだ少ないのが現状です。今回は「集中治療室における薬剤師の活動指針」をとりまとめた、「日本集中治療医学会 集中治療における薬剤師のあり方検討委員会」の委員でもある前田幹広先生(聖マリアンナ医科大学病院)と座間味義人先生(岡山大学病院)をお招きし、救急集中治療に従事している今井徹先生(日本大学医学部附属板橋病院)と、活動指針の作成に関する話や薬学生・若手薬剤師の教育について議論いただきました。

TALK2の閲覧にはJBスクエア会員登録が必要です。
JBスクエア会員登録はこちら

TALK1 集中治療を教育の必修に
人材育成と自己研鑽への先行投資を

集中治療に関わる薬剤師の活動指針の作成に際して

今井先生 司会を務めさせていただく今井です。前田先生と座間味先生は、2020年に作成された「集中治療に関わる薬剤師の活動指針」にも携わられていますが、どのようなことを意識して作成したかお聞かせいただきたいです。

前田先生 集中治療に関わる薬剤師はどのような業務をすればいいか、薬剤師が目指すべき姿などを意識して作りました。各施設では試行錯誤しながら薬剤師が業務を行っていて、私自身も相談に乗ることが多くありました。米国ではすでにポジションペーパーが存在していたので、ある程度こうした指針のようなものがあったほうがいいと考えたのです。

座間味先生 この活動指針を作成するにあたり、日本全国の集中治療のエキスパートが集まりました。集中治療の現場は、多くの職種が関わり、各職種の専門性が発揮される場だと思います。そのため、私はこの活動指針を薬剤師だけではなく、医師やその他の関係職種の方々が集まって作成したことが、非常に有意義なものであったと感じています。また、個人的には「米国では1年目のレジデンシープログラムの多くが集中治療を必修としている」と書かれていた部分には強く共感しました。これは日本と大きく異なっており、我々の今後の大きな目標としていきたいところですね。

今井先生 ありがとうございます。一方で、作成時に悩まれたことはありましたか。

前田先生 米国でも日本でも、いわゆる三次救急病院と二次救急病院の集中治療の役割が違うように、病院の規模や機能により、薬剤師の役割も変わってくると思います。活動指針を作る際にも、大学病院に従事する薬剤師が多く集まっていることもあり、どこを標準にするかは悩みました。

今井先生 活動指針にも、あくまで「活動目標であり、業務上の必須事項ではない」と書いてあります。各施設の特徴や状況を踏まえて、活用してほしいですね。

集中治療に関わる薬剤師の役割、患者の全体像を知り総合的に判断すること

今井先生 活動指針のなかでも薬物療法への関与に関する内容があります。特に我々の専門性を生かして介入していくところだと思いますが、普段お2人はどのようなことを意識して薬物治療にあたっておられるのでしょうか。

前田先生 いつも意識しているのは、まずはその患者さんの全体像を知ることです。集中治療はある一部分だけ切り抜くのではなく、トータルで考えるところが大きいと思います。医師や看護師、他職種などの情報を共有しながら、患者さんが今どういう状態で、今後どうなっていきそうなのかを把握する。そして薬物動態や薬理作用、コストやエビデンスなどさまざま考慮した上で、患者さんにとっての最善を総合的に判断していくことが重要だと考えています。

今井先生 医師は治療に熱心に取り組み一目散になるところもあるので、我々が全体のバランスを見ることが重要なのではないかと思います。座間味先生はどうでしょうか。

座間味先生 集中治療では、患者さんごとに病態が多種多様で、薬物動態も不安定ななかで薬剤を使われるわけですから本当にスーパーオーダーメイドですよね。ひとつも同じ症例はなくて、そこに他職種と一緒に立ち向かっていく。チーム医療で各職種が専門性を発揮して関わっていかないと、なかなか治療成果があげられないところだと思います。

今井先生 特に集中治療では、スペシャルポピュレーションを薬剤師が意識していくことがすごく大事ですよね。ここは我々の専門性として積極的に関わっていきたいところです。

プレアボイド報告、職場の雰囲気がポジティブに変わる、若手薬剤師にもいい介入例を知る機会に

今井先生 集中治療において薬剤師が行うプレアボイド報告について。これも大事なことだと思いますが、実際どうでしょうか。

座間味先生 プレアボイド報告は、毎月行われる病院の教授会で行っています。意外と評価もいいですよ。例えば、事例とともに向精神薬で起こる高血糖などの特徴的な副作用について補足すると、勉強になると言ってくださっています。医師でも特徴的な副作用をすべて知っているわけではありませんし、薬剤師がどのように介入しているか知らない人もいらしたので、これに関しては薬剤師の役割のアピールにも繋がっています。

今井先生 薬物相互作用による副作用なども、医師が知らないところでもありますよね。しっかりフィードバックしていくこと、なおかつ院内にアピールすることもすごく大事だと思います。

前田先生 うちも何年か前から「グッジョブレポート」といって、いわゆる医療安全のインシデントレポートのような、未然に防いだことも良い報告として病院にレポートをあげる取り組みをしています。しかも、月に1回は病棟担当薬剤師がいくつかグループにわかれてグッジョブ事例を共有する時間と、レポートを書いてまとめる時間を設けていて、かなりポジティブな雰囲気で盛り上がっています。

今井先生 文化としてかなり熟成していますね。ただ書けばいいというわけではなく、ちゃんと書く時間も集まる時間も与えていると。

座間味先生 集中治療ではやはり事故は起こりやすいですし、患者さんの生死に直結しますから、現場の雰囲気としては殺伐としているところもあります。そういったなかでもポジティブに考えるきっかけ、習慣があるというのはすごくいいですね。

前田先生 薬剤師はインシデントやアクシデントが起これば責められることが多く、何かを未然に防げたとしてもあまり気づかれない、褒められない職種だと思います。それなら、薬剤師同士で褒めればいいとなったわけです。若手薬剤師もこういう視点で薬剤師が介入できるのだと知るいい機会になっています。

薬学生や若手薬剤師に対する、現場で患者さんをみていくOJT教育の重要性

今井先生 集中治療の話をすると、薬剤師の教育とか人材育成の話に行きつきます。例えば、薬学生や若手薬剤師の教育において、お2人が考えていることはありますか。

前田先生 究極を言えば、OJT教育で一緒に患者さんを診ることが必須になるのではないかと思います。総括的なことは講義などでも教えられますが、いわゆるスペシャルポピュレーションとして、これだけ患者さんごとに違いがあって、考えなければいけないことが多いと、いつも同じように対応できるわけではありません。プラスαで目の前の患者さんを評価してどうしていけばいいのか考えていくには、やはり現場で毎日患者さんをみていくしかないでしょう。これが集中治療において必須の教育だと思います。

今井先生 現場での生の教育が必要ということですね。ただ、日本の薬剤師だと薬剤業務が忙しすぎて、集中治療室に何人も薬剤師を置けないという状況もあるかと思います。こうしたマンパワーや教育リソースが不足している悩みはよく聞きますよね。

前田先生 そうですね。院内にそういうリソースがあればいいですが、ない場合には、院外の研修に積極的に参加していくなどしていかないと、独学では限界が来ると思います。そのため、いきなり薬剤師を配置するのではなく、1時間でもいいからICUに行ける時間を捻出することで、そこからいろんなことに繋がっていくこともあります。医師や看護師と連携できるかもしれないし、それによって薬剤部のアピールが院内にできて何か広がる可能性があるかもしれません。少し話は広がりますが、特に今は多様な働き方も増えてきて、ひとりだけその仕事ができる形をつくるのではなく、できるだけいろんな人ができるような薬剤部内のタスクシェアも必要になってくると思います。

座間味先生 いいですね。最近私はデジタル教育に興味がありまして。例えば、マンパワー不足に関しては、動画や遠隔デバイスを使ったコンテンツなどが、もっと活用しやすくなる時代になっていくのではないかと思います。その場にいなくても、OJTを疑似体験できるようなコンテンツがあると、マンパワーや教育リソースが不足している集中治療の分野でも教育の質を向上させる手助けになるでしょう。最近はオンラインディスカッションもできるようになっているので、教育効率をあげていく、追求していくことで教育もまた面白いことになるのではないかと思います。

今井先生 なるほど。ひとりのスペシャリティーを教育するのではなくて、組織全体でやっていこうと。しかもデジタルを活用していく、それがマンパワーや教育リソース不足に対するヒントにもなるわけですね。

自施設の教育体制、具体的な指導方法や指導に際して意識していること

今井先生 具体的に自施設の教育体制、具体的な指導方法についてお聞きしたいです。

前田先生 私たちの施設では救急や集中治療を担当している薬剤師と一般病棟を担当している薬剤師と若干わけています。それでも一般病棟の人たちにも知ってほしいことがたくさんあるので、集中治療に関する勉強会などは定期的にやっていますね。OJTに関しては、最初の2カ月は一緒に回診に入り、私が患者さんや他職種と話をしている場面を見てもらっています。その後の2カ月は、私はそばにいるけど、基本はその指導を受けている薬剤師が行うようにしていて、わからないことがあったらその場で聞いてもらう形にして、徐々にフェードアウトしていくような感じでやっています。

座間味先生 私は薬学部にいたので、主に薬学生に対して救急・集中治療の教育をしていました。メインは講義形式で症例を出しながら全身管理についての授業を。学生も興味を持ってくれる人が多かったです。ちょうどドラマの『アンサングシンデレラ』で興味を持って薬剤師を志す人もいたようです。7~8年くらい前と比べると、今はもう当たり前のように病院実習でICUにもまわるようになりましたからね。

今井先生 ありがとうございます。特に後輩指導などで意識していることなどはありますか。

座間味先生 薬剤師の仕事に対してやりがいを持ってほしいと思いますね。仕事をする上での倫理観の延長線上で、患者さんのために仕事をする、こうしたやりがいを持って仕事が趣味になるくらいになれば、どんどん学習にも繋がります。あとは、メンタルサポートも大事だと思っています。うちの病院でもメンター・メンティー制度はありますが、薬剤部長を担当している私でさえも気持ちの浮き沈みがありますから、若手薬剤師だとそういうことがもっと多いかもしれません。そうしたときは、あなたの仕事は患者さんの治療に役立っていると励ますこと、小さなことは気にしないこと、後に残さないように気持ちの切り替えも大事だと伝えていますね。

前田先生 私がここ数年すごく考えているのは、本人たちのキャリアをどのように考えさせていくかということですね。今は病院の薬剤師のキャリアは多様化していて、認定や専門薬剤師も増えてきて、そのなかでもスペシャリストや管理職になることに興味がない人もいます。病院薬剤師をしていくなかで、どういうキャリアを目指したいのだろうと、本人たちと話をすることもすごく重要で。自分が実現したいこと、何かのためにこういうことをやろうというモチベーションが自発的に出てくるように意識して関わっています。

集中治療に関わる薬剤師の自己研鑽

今井先生 これから救急・集中治療の領域で働きたい薬剤師に対して、どのように自己研鑽していったらいいか、アドバイスをいただけたらと思います。

前田先生 集中治療に限らず、いろんなものに興味を持ってほしいですね。集中治療は、本当に何がヒントになるかわからないので。がん領域だから関係ないではなく、別の領域で無関係と思っていたものが、「あのとき、あの人がこう言っていたな」と繋がることもあります。今は情報が溢れているなかで、あえて絞らずに自分が興味を持つものから手をつけて、「これって何かに使えないかな」と常に考えながら情報をみていくと、自然と自己研鑽になっていくのではないかと。アンテナを張り巡らすことが重要だと思います。

座間味先生 私ははじめてERやICUに行ったとき、そこに薬剤師が関われる可能性が広がっていて、本当に魅力的に感じました。そうした現場を通しての学び、自己研鑽というのは、今でも少しずつ続けていますね。先ほどのOJTとも繋がると思いますが、患者さんから学ぶことが一番の勉強で大事だと思います。また、医療人としての自己研鑽では倫理観や医療経済、国の動向についても知っていくことですね。私も遅ればせながら勉強している身です。しっかりと患者さんに貢献できるように自己研鑽を積んでほしいと思います。

学生や若手薬剤師へのメッセージ

今井先生 では、最後に学生や若手薬剤師に向けて、メッセージをお願いいたします。

前田先生 何度も言いますが、患者さんを直接みてほしいですね。目の前に患者さんがいて、目で見て確かめることのなかには、電子カルテからだけでは取れない情報がたくさんあります。それによって感じるものが自分の知識や経験に繋がるばかりではなく、自分自身のモチベーションに繋がることもあるでしょう。あるいは、そこで何か問題や課題把握ができるかもしれない、さらには研究のヒントがあるかもしれない、他職種との連携となってもっと患者さんにできることが増えるかもしれません。大きなヒントが転がっていると思います。

座間味先生 救急・集中治療は生死をさまよう患者さんを救うという、本当に医療の根幹に触れる領域でもあります。また、いろんな領域にまたがっていくものです。薬剤師が積極的にどんどん関わっていくべきだと思っています。集中治療を学べば、他の領域でも活かせることが多いので、前向きに勉強してほしいですね。そこから社会として大きな枠組みでみても、最近では薬剤師の役割や活動として薬剤師外来やフォーミュラリーなど広がっています。若い人が中心となって、一緒にこうした薬剤師の職能を広げていってほしいと思います。

  • 2006年日本大学大学院薬学研究科博士前期課程を修了後、日本大学医学部附属板橋病院に入職。現在、救命救急センター担当薬剤師として救急集中治療に従事。救急認定薬剤師、医療薬学指導薬剤師。
  • 2002年東京理科大学薬学部薬学科を卒業後、臨床薬剤師を目指して米国に留学しPharm.D.を取得。帰国後は集中治療薬剤師として集中治療室(ICU)と高度治療室(HCU)での業務を担当。
  • 2008年岡山大学大学院薬学研究科博士課程を修了後、徳島大学大学院医歯薬学研究部で講師から准教授として従事。同大学大学院薬剤部の副薬剤部長も併任。2021年より現職。
TALK2の閲覧にはJBスクエア会員登録が必要です。
JBスクエア会員登録はこちら

JBスクエア会員

JBスクエアに会員登録いただくと、会員限定にて以下の情報をご覧になれます。

  • 最新情報をお届けするメールマガジン
    (Web講演会、疾患や製剤コンテンツ等)
  • Web講演会(視聴登録が必要)
  • 疾患や製剤関連の会員限定コンテンツ
  • 薬剤師向けの情報
JBスクエア会員の登録はこちら
領域別情報 製剤情報 関連疾患情報
お役立ち情報・患者指導箋など JBファーマシストプラザ JBスクエア会員 講演会・学会共催セミナー
エキスパートシリーズ 情報誌など お役立ち素材 その他コンテンツ 新着情報