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多発性筋炎・皮膚筋炎

皮膚科医からみた多発性筋炎・皮膚筋炎治療
ガイドラインの特徴

名古屋大学大学院医学系研究科
運動形態外科学講座 皮膚結合組織病態学分野
准教授
室 慶直 先生

2016年7月掲載
(審J2006180)

筋炎の主な合併症と治療法についてお聞かせください。

<間質性肺炎を合併する場合>

室先生:
PM/DMの約半数に間質性肺炎(interstitial pneumonia: IP)を合併するといわれています1)。IPが合併した場合、生命予後に直結するため、筋炎そのものよりもIPの治療を重視することが多く、本ガイドラインでもIPに関する記載は多くの比重を占めています。
IPの予後と治療反応性は、病型、画像所見、病理組織所見及び自己抗体の種類によって異なるため、可能な限りこれらの情報を集めて、総合的に判断することが必要です[推奨度B]。例えば臨床的無筋症性皮膚筋炎(clinically amyopathic dermatomyositis: CADM)は一見すると軽症のDMと考えがちですが、実は予後が悪い急速進行性IPを合併することがあります。その場合は治療初期から副腎皮質ステロイド大量療法(プレドニゾロン1mg/kg/dayの内服)とともに強力な免疫抑制薬の導入が勧められます[推奨度B]。治療抵抗性で死亡率も高いため、初期から速やかに薬剤投与を開始することが重要となります。
抗MDA5(CADM-140)抗体はCADMにほぼ特異的な自己抗体であり、陽性例の場合は急速進行性IPを合併することが多いと報告されています2)3)。年内には抗体検査が保険収載される見込みです。ただし、PM/DMに伴うIPが必ずしも急速進行性IPであるわけではなく、慢性に経過して比較的予後の良い病型もあるため、そのような場合には副腎皮質ステロイド大量療法(単独)で反応性を確認することも最初に記載されています。抗体別にみた、より詳細な薬物療法の実際や長期予後については今後のさらなる検討課題でしょう。

<嚥下障害を合併する場合>

室先生:
PM/DMの嚥下障害の治療に関する論文は、RCTや比較対照試験がなく、ほとんどがケースシリーズや症例報告です。嚥下障害は四肢筋炎の重症度と必ずしも比例せず、嚥下障害を有する患者は常に誤嚥性肺炎のリスクと背中合わせで、そこに免疫抑制療法が加わると易感染性から誤嚥性肺炎、感染症が重症化することも考えられ、ますます治療に難渋します。そのため副腎皮質ステロイド抵抗性の嚥下障害に対しては、感染症の存在が予想される場合でも使用可能なIVIg4)5)を試みることも、ガイドラインで推奨[推奨度C1]されています。

<心筋障害を合併する場合>

室先生:
症候性の心筋障害合併は約10~30%に認められ、その内訳として心不全、不整脈、心筋炎、冠動脈疾患があげられます6)7)。症候性の心筋障害合併例は非合併例と比べて生命予後が不良ですが、治療法に関する十分なエビデンスがなく、筋炎重症例に準じた治療を行います。嚥下障害と同様、心筋障害は四肢筋炎の重症度と必ずしも比例しないことも注意点の1つです。
実際の治療ですが、心筋障害が副腎皮質ステロイド療法に対して難治、抵抗性であることを示した論文はないものの、予後不良な臓器障害に対する治療法という観点から、初期から副腎皮質ステロイド大量療法に免疫抑制薬の併用を考慮する[推奨度C1]と記載されています。ただ、免疫抑制薬の選択について根拠のある論文は現状ありません。

<悪性腫瘍を合併する場合>

室先生:
悪性腫瘍合併筋炎では基本的に悪性腫瘍と筋炎の両者の治療が必要ですが、推奨文ではPM/DMの治療を待てる場合は、悪性腫瘍の治療をまず試みてよい[推奨度C1]と記載されています。待てない場合とは、高度な筋炎、嚥下障害、呼吸筋障害あるいはIPなどが存在して経過観察が難しいと判断される場合です。この場合はステロイド治療を併用します。ただ、悪性腫瘍の治療のみで筋炎が寛解した例も存在し、私自身もしばしば経験があります。
近年、DM全般に検出される抗TIF-1γ/α(p155/140)抗体が悪性腫瘍合併例で陽性率が高いことが報告され、抗MDA5抗体同様、年内に抗体検査が保険収載される見込みです。筋炎特異自己抗体は筋炎の病型、病態、臨床経過、治療反応性と密接に関連しており、可能であれば種々の特異自己抗体の検索は行うべきと考えます。

どのような症例でIVIgの投与を考慮されますか?

室先生:
ケースシリーズや症例報告では、IVIgの有効性は多数報告されています。私見ですが、IVIgは比較的即効性があり、安全性も高い、免疫抑制作用がないと考えられるという点から、ステロイド治療に抵抗性を示した以下の場合が想定されます。

  • ① ステロイド治療に免疫抑制薬を併用した場合。
     (免疫抑制薬の効果が発現するまでの併用療法の1つとして使用)
  • ② 嚥下障害が認められる場合。
  • ③ 悪性腫瘍合併筋炎で悪性腫瘍の手術が必要となり、筋炎に対しても治療を行いたい場合。
     (ステロイドの使用量を抑える目的で使用)
  • ④ 免疫抑制薬の使用により、悪性腫瘍の発症や増悪のリスクを考える場合。
  • ⑤ 感染症の合併、併存が否定できない場合。

膠原病の難治病態があるにも関わらず、日和見感染が合併しているという症例は生命予後が悪く、抗菌薬使用による薬剤性肝機能障害や重症薬疹への注意も必要になります。筋炎の治療に限らず、膠原病治療では主治医の力量が強く問われる病態といえます。

皮膚科医からみた多発性筋炎・皮膚筋炎治療ガイドライン(2015)について

皮膚科医からみたガイドラインの特徴についてお聞かせください。

室先生:
PMでは筋力低下がQOLの観点から問題ですが、DMの場合は紅斑や色素沈着などの皮膚症状が整容的なQOLの低下につながります。小児例では皮下の石灰沈着が比較的多く、慢性疼痛や潰瘍を生じ、そこが感染症の母地になることもあり、決して軽視できない症状です。
今回のガイドラインでは皮膚に特化したCQは2つあり、CQ21「皮膚症状のみのDM患者や皮膚症状のみが遷延したDM患者の治療法は何か」及びCQ22「DM患者の石灰沈着に対する治療法は何か」が記載されています。

<CADM患者の治療法>

CADM患者の皮膚症状に対する治療法は推奨文が2つあり、1つは経過観察または副腎皮質ステロイド外用による局所治療を行ってよい[推奨度C1]、もう1つは全身的な治療を考慮してもよい[推奨度C1]です。CADMでも筋症状やIPが続発することもあり、その間隔は症例ごとに様々で数ヵ月から数十年以上にまでわたるため、慎重な経過観察が必要となります。特に高齢者や成人の抗TIF-1γ/α抗体陽性例などでは悪性腫瘍合併のリスクも高いと考えられ、CADMでも悪性腫瘍の検索を怠ってはなりません。
一方、全身的な治療を考慮してもよい場合とは、皮膚症状の範囲が広く、患者さんの整容的なQOLを著しく障害する場合です。免疫抑制薬、生物学的製剤の有効例の報告8)がありますが、PM/DM自体が悪性腫瘍を合併する可能性を有する疾患であるため、慎重に使用する必要があると思います。

<DM患者の石灰沈着に対する治療法>

石灰沈着は小児DMで特に多いですが、成人例でもみられます。後遺症的に石灰沈着のみが残存したり、DMの活動性はないのに石灰沈着が増悪していく症例もあります。標準的治療後に残存する石灰沈着に対しては、薬剤の投与や外科的治療を考慮します[推奨度C1]。
実際、当科では内科的治療が奏功せず、外科的な切除治療を行うことが多いです。ただ、副腎皮質ステロイドの長期内服患者では皮膚の菲薄化や脆弱性による“皮膚粗鬆症”がみられることもあり、そのような患者においては皮下の石灰化があっても外科的対応が難しいこともあります。

PM/DMを診療されている先生へメッセージ

最後にPM/DMの診療をされている先生方へメッセージをお願いします。

室先生:
以前よりDMは皮膚症状のみで診断可能、と若手の皮膚科の先生方にはお話ししています。ヘリオトロープ疹、ゴットロン丘疹などに加えて、DMの診断基準に未採用の特徴的な皮疹も含め、同一患者に複数の種類の皮疹が存在することを確認することで、DMの診断をより確からしくしていくことが大切です。
鑑別診断は必ず念頭に置き、特徴的な発疹があっても鑑別しておきたい症例の場合は皮膚生検を行い、より診断を確実にすることが皮膚科医に求められている使命と考えています。ただ、どの部位のどの性質の発疹を生検するのが効率よく、より正しい診断につながるかは、皮膚科医の中でもしっかり議論されておらず今後の課題といえます。
2つめは新たな自己抗体検査が保険収載になり、抗体検査による補助診断が容易になると思われます。ただし、測定法の関係上、結果の偽陽性、偽陰性の問題は必ず存在しますので、各症例で臨床症状、その他の検査所見を含めて総合的な判断を下すことが重要です。
3つめは前述の通り、PM/DMに続発する合併症の発症間隔が個々の患者で異なるため、慎重な経過観察が必要ということです。PM/DMには悪性腫瘍が発症しやすい病型が存在することを考えると、合併する悪性腫瘍の検索も初診時のみならず、数年といったある程度の間隔で再スクリーニングを行うことも重要となります。
最後に今回のガイドラインは、あくまで成人発症のPM/DMを対象にしており、小児は対象としていません。皮膚症状のみが遷延化した場合の治療の選択肢については、特に小児の場合、ステロイドによる成長障害をいかに抑えて、免疫抑制薬などを上手く併用しながら疾患をコントロールしていくかが重要です。私自身としては今後、小児領域でのガイドラインの作成により、小児PM/DMの治療方針の確立や保険適用薬の拡大が進むことを強く望んでいます。

インタビュー内に記載の各薬剤をご使用の際には、製品添付文書をご参照ください。

1) Mimori T et al.: Curr Rheumatol Rep 14 : 264-274, 2012.
2) Sato S et al.: Arthritis Rheum 52 : 1571-1576, 2005.
3) Nakashima R et al.: Rheumatology(Oxford) 49 : 433-440, 2010.
4) Marie I et al.: Arthritis Care Res 62 : 1748-1755, 2010.
5) Oh TH et al.: Mayo Clin Proc 82 : 441-447, 2007.
6) Gupta R et al.: Int J Cardiol 148 : 261-270, 2011.
7) Bazzani C et al.: J Cardiovasc Med 11 : 906-911, 2010.
8) Levine TD.: Arthritis Rheum 52 : 601-607, 2005.

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