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多発性筋炎・皮膚筋炎

皮膚科医からみた多発性筋炎・皮膚筋炎治療
ガイドラインの特徴

名古屋大学大学院医学系研究科
運動形態外科学講座 皮膚結合組織病態学分野
准教授
室 慶直 先生

2016年7月掲載
(審J2006180)

はじめに名古屋大学皮膚科の概要についてお聞かせください。

室先生:
当科は、1905年(明治38年)8月に名古屋大学医学部の前身に当たる愛知医学専門学校に皮膚病花柳病科として開講し、110年の長い歴史と伝統をもつ教室です。現在、第9代の秋山真志教授のもと、愛知県内外を含めた約30の関連施設と約100名の医局員が在籍する医局となっています。各種遺伝性皮膚疾患の研究においては世界のリーダーシップをとっている高いレベルの教室で、膠原病に関しては第7代の大橋勝教授、私の入局当時助教授であった安江隆先生のご専門であったため、私も膠原病の臨床と研究をライフワークとして取り組んできました。「現代皮膚科学大系」(1984年)の皮膚筋炎の項は大橋教授が執筆されたのですが、2002年に「最新皮膚科学大系」という新シリーズが出版される際、皮膚筋炎の項を私が担当することになり、これも何かの縁かなという印象を持っています。
現在、当科の診療する膠原病には強皮症が一番多く、次にエリテマトーデス、皮膚筋炎の順で、東海3県から膠原病及び膠原病類縁疾患の患者200名以上が通院しています。

先生の研究テーマを教えていただけますか?

室先生:
我々の研究室では、様々な自己抗体の膠原病発症における役割の研究や診断用自己抗体の測定キットの開発等を行っています。特に膠原病患者の血清中に認められる様々な種類の自己抗体についての研究が中心です。
臨床上重要でかつ保険未収載の種々の自己抗体の測定系を確立しており、その中には筋炎と関係の深い抗体も多く存在します。当研究室では希少な抗体でも測定可能なものもありますので、ご興味のある先生はメールで私に直接ご連絡いただければ抗体測定に関する情報をお渡し致します。
(問い合わせ先:ymuro@med.nagoya-u.ac.jp)

多発性筋炎・皮膚筋炎治療ガイドライン(2015)の特徴について

初めにガイドラインが作成されるに至った経緯について教えてください。

室先生:
多発性筋炎(polymyositis: PM)及び皮膚筋炎(dermatomyositis: DM)は、主に膠原病内科、神経内科、皮膚科の3科で診療が行われ、小児では特に小児科が重要な比重を占めます。複数科で診察するため、疾患概念や治療内容に違いが生じ、患者間、医師間において混乱が生じる原因になっていました。
そのような実情の中、東京医科歯科大学 膠原病リウマチ内科学 上阪等教授が、筑波大学医学医療系内科教授の住田孝之先生班長率いる厚生労働省「自己免疫疾患に関する調査研究班」の中に3科の専門家が揃うPM/DMの分科会を結成され、3科の専門家が同意し広く臨床医が活用できる治療ガイドラインの作成を目指しました。
班全体の同意を得た後、日本リウマチ学会、日本神経学会、日本皮膚科学会の3学会の承認を得て、2015年12月に刊行されました。

各薬剤の評価についてお聞かせください。

室先生:
作成開始が2011年であったため、エビデンスレベルの分類、推奨グレードは「Minds 2007」に準拠しています(表1、表2)。通常、ガイドライン作成の際には治療に関する多くの論文を解析し、各論文にエビデンスレベルを付与します。PM/DMの場合、希少性疾患であるため、ランダム化比較試験(RCT)を見つけること自体が困難で、エビデンスレベルⅡ以上の論文から推奨する治療法を決定することができず、多くの推奨文がB、C1のグレードとなりました。一部のクリニカルクエスチョン(CQ)に関しては、“回答”と表記したものもあります。ただ推奨する治療法は日本における現状の治療法を反映するものであり、本ガイドラインを用いてどの分野でも共通の原則の上で治療が行われることへの期待が含まれています。

表1 エビデンスレベルの分類

システマティック・レビュー、ランダム化比較研究のメタアナリシス
ひとつ以上のランダム化比較試験
非ランダム化比較試験
Ⅳa 分析疫学的研究(コホート研究)
Ⅳb 分析疫学的研究(症例対照研究、横断研究)
記述研究(症例報告、ケースシリーズ)
患者データに基づかない、専門委員会や専門家個人の意見
Minds診療ガイドライン選定部会・監, 福井次矢ほか・編:Minds診療ガイドライン作成の手引き 2007,
医学書院, p.15, 2007
表2 ガイドラインにおける推奨グレード
A 強い科学的根拠があり、行うよう強く勧められる
B 科学的根拠があり、行うよう勧められる
C1 科学的根拠がないが、行うよう勧められる
C2 科学的根拠がなく、行わないよう勧められる
D 無効性あるいは害を示す科学的根拠があり、行わないよう勧められる
Minds診療ガイドライン選定部会・監, 福井次矢ほか・編:Minds診療ガイドライン作成の手引き 2007,
医学書院, p.16, 2007
<副腎皮質ステロイド>

いくつかCQがありますが、例えばCQ4「PM/DM治療の第一選択薬は何か」では、副腎皮質ステロイドが第一選択薬 [推奨度B]と記載されています。多くの専門家がプレドニゾロンを第一選択薬として使用していますが、あくまで経験に基づくもので、RCTがないためBとしたのが実情です。同様にCQ5「妥当なステロイドの初期投与量はいくらか」についてもRCTは存在せず、専門家の推奨に従って、慣習的に体重1kgあたりプレドニゾロン換算0.75~1mgで治療が始められている[推奨度C1]と記載されています。
副腎皮質ステロイドの減量の時期についてもRCTはありませんが、ステロイド筋症を生じる可能性があるため、2~4週間の初期投与量での治療後は治療効果によって週に5~10mgの減量を行っていきます。筋炎の場合、原病の炎症に起因する筋力低下、入院治療による廃用性萎縮、そこにステロイド筋症が加わるため、全体の疾患活動性が落ちついた後でも筋力低下が患者のQOLを低下させることが現調査班の疫学調査でも明らかになっています(図1)。投与方法については、1日3分割の連日投与が一般的であるとして、低用量まで減量した場合には、朝1回投与や隔日投与を考慮すると記載されています。

図1 2009年度医療費助成登録者の臨床調査票から調査した疫学実態(抜粋)

図1 2009年度医療費助成登録者の臨床調査票から調査した疫学実態(抜粋)
Tomimitsu H et al.:Mod Rheumatol 26(3):398-402, 2016.より作図
<副腎皮質ステロイド以外の薬剤>

副腎皮質ステロイド以外の薬剤として、免疫抑制薬が使われたり、大量免疫グロブリン静注療法(IVIg)が施行されています。最近は日本でも種々の免疫抑制薬が普及し、免疫抑制薬を併用することで副腎皮質ステロイドの初期投与量をより低用量から開始することも選択肢の1つとなってきています。
具体的な薬剤として、アザチオプリン(azathioprine: AZA)[推奨度B]、メトトレキサート(methotrexate: MTX)[推奨度B]、タクロリムス(tacrolimus: Tac)[推奨度B]、シクロスポリンA(cyclosporin A: CyA)[推奨度B]、ミコフェノール酸モフェチル(mycophenolate mofetil: MMF) [推奨度B]、シクロホスファミド(cyclophosphamide: CPA)[推奨度C1]があげられております。ただし、半数ほどに保険適用がないため、その点は留意していただく必要があります。ガイドラインでも保険適用の有無については、それぞれの箇所で記載されています。

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