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JCOM 2024 (Japanese Conference on Myositis 2024)
GREAT DEBATE―筋炎特異自己抗体には病原性があるか―

開催日:2024年6月15日
(審J2409147)

演題1 Myositis-specific autoantibodies are pathogenic! 日本医科大学附属病院 リウマチ・膠原病内科
准教授 五野 貴久 先生

【学位・専門医認定資格】​
信州大学大学院 医学博士取得、日本内科学会 認定医・総合診療専門医、日本リウマチ学会専門医 指導医・評議員、日本神経学会 専門医・指導医、日本臨床免疫学会 評議員・免疫療法認定医

はじめに

抗体の機能は大きく3つに分けられる。1つ目は、抗原結合部を介した微生物や毒素の中和作用、2つ目は補体の古典経路活性化による細胞傷害や抗体依存性の細胞傷害、3つ目は細胞結合部を介した細胞貪食作用である。筋炎特異自己抗体の場合、対応する自己抗原への結合による機能制御や、自己組織における補体介在性の細胞傷害、好中球やマクロファージのFc受容体を介したサイトカイン産生亢進などを引き起こすと考えられる。筋炎特異自己抗体濃度と疾患活動性の関連性も報告されており1)、筋炎特異自己抗体が筋炎の病態形成に関与している可能性は高い。ここでは、筋炎特異自己抗体に病原性があるという仮説を支持するいくつかの根拠を紹介する。

筋炎特異自己抗体は補体依存性の筋傷害を惹起する

特発性炎症性筋疾患(IIM)の病態における筋炎特異自己抗体の役割を検討した研究は、これまで複数報告されてきた。Berguaらは、抗SRP抗体または抗HMGCR抗体を有する免疫介在性壊死性ミオパチー(IMNM)患者血清を野生型マウスに投与することで筋炎が再現される一方で、補体C3欠損マウスに投与した場合には筋炎が再現されなかったことを報告した2)。この結果は、抗SRP抗体あるいは抗HMGCR抗体陽性患者における筋傷害が補体依存性であることを示唆している。補体の活性化は、補体の結合により傷害された筋組織の再生過程において筋組織表面のSRP及びHMGCR発現が増加し、そこに自己抗体が結合することで引き起こされると考えられている3)。さらにJulienらは、補体C5欠損マウスにIMNM患者由来の抗HMGCR抗体とヒト補体を投与し、胎児性Fc受容体(FcRn)阻害薬を投与した群と投与していない群で血清および筋組織におけるIgG濃度を比較した4)。その結果、FcRn阻害薬を投与したマウスでは、血清(p<0.0001、2-way ANOVA)および筋組織(p<0.001、Mann–Whitney U検定)の両方において抗HMGCR抗体濃度の有意な低下が認められ、筋機能の改善が得られた4)。FcRnはエンドソームに取り込まれたIgGと結合することでリソソームによるIgGの分解を回避し、再度血漿中にIgGを放出する作用を有する5)。FcRn阻害により筋機能の改善が得られたという研究結果は、筋炎特異自己抗体に病原性があることを示唆していると考えられる。

好中球細胞外トラップ(NETs)の形成と自己抗体の筋組織内への内在化による機能傷害

NETsは好中球内の殺菌蛋白やDNAを細胞外に放出して微生物を捕捉・殺菌する免疫機構である一方、多くの疾患において組織を傷害することが知られている。Setoらは、健康者由来の好中球にIIM患者から単離した抗MDA5抗体を添加し、血中NETsを定量した。その結果、抗MDA5抗体投与群では非投与群に比べて好中球におけるNETs形成が有意に促進された(p<0.01、Kruskal-Wallis検定または1-way ANOVA)6)。抗MDA5抗体陽性のIIMでは、抗MDA5抗体によるNETs形成の促進が肺や筋組織の炎症を誘発していると考えられる。抗MDA5抗体がNETsの形成を促進する機序は不明だが、好中球上のFc受容体と抗MDA5抗体の相互作用が関与していると推測される。
また、Pinal-Fernandezらは、筋炎特異自己抗体陽性の筋炎患者から採取した筋組織を用いて免疫蛍光分析を行い、自己抗体が筋組織に内在化していることを示した7)。また、同研究では筋炎特異自己抗体を添加した筋芽細胞のトランスクリプトーム解析を行い、筋組織に内在する自己抗体が自己抗原の生物学的機能を破壊し、筋傷害や自己免疫反応を引き起こしている可能性があると結論付けている7)

まとめ

筋炎特異自己抗体は、対応抗原への結合、補体活性化の誘導、好中球やマクロファージなどの貪食細胞との相互作用により病原性を示し、自己免疫性筋炎の病態において重要な役割を果たしていると考えられる(図1)。

図1 筋炎特異自己抗体の病原性 図 筋炎特異自己抗体の病原性 ご提供:五野 貴久 先生
【出典】
  1. Aggarwal R et al. Rheumatology (Oxford). 55: 991-999, 2016.
  2. Bergua C et al. Ann Rheum Dis. 78: 131-139, 2019.
  3. Allenbach Y et al. Nat Rev Rheumatol. 16: 689-701, 2020.
  4. Julien S et al. Rheumatology (Oxford). 62: 4006-4011, 2023.
  5. News medical life sciences. FcRn and its role as a therapeutic target(https://www.news-medical.net/whitepaper/20211110/FcRn-and-its-role-as-a-therapeutic-target.aspx)(2024年7月22日閲覧)
  6. Seto N et al. JCI Insight. 5: e134189, 2020.
  7. Pinal-Fernandez I et al. Ann Rheum Dis. ard-2024-225773, 2024.

演題2 筋炎特異自己抗体には病原性がない~T細胞性~ 東京医科歯科大学(現・東京科学大学)大学院医歯学総合研究科 皮膚科学分野
教授 沖山 奈緒子 先生

【学会活動】​​
日本皮膚科学会 皮膚科専門医・指導医、日本アレルギー学会アレルギー 専門医・指導医、日本リウマチ学会 リウマチ専門医、日本臨床免疫学会 免疫療法認定医、日本皮膚科学会 代議員・理事、日本研究皮膚科学会 評議員・理事、日本臨床免疫学会 評議員、日本アレルギー学会 代議員​

はじめに

国内のIIM患者を対象とした研究では、筋炎特異自己抗体の抗体価は死亡例であっても治療すれば下がっていた一方、血清interleukin (IL)-18は治療効果を反映するバイオマーカーとして有用であることが報告されている1)。加えて、非担癌患者と担癌患者を対象に、抗TIF1γ抗体の抗体価と筋炎病理像重症度の関連を検討したZhangらの研究では、非担癌患者においては抗TIF1γ抗体の抗体価と筋炎病理像重症度との間に相関が認められたものの、担癌患者では相関が認められなかった2)。これらの結果は、筋炎特異自己抗体そのものに病原性があるわけではないことを示唆していると考えられる。ここでは、筋炎特異自己抗体には病原性がなく、自己免疫性筋炎はT細胞性であるという立場から意見を述べていく。

自己免疫性筋炎患者の筋組織にはT細胞の集積が認められる

近年、シングルセル(sc)RNAシークエンスが普及し、筋組織のT細胞解析が進められている。Argyriouらが行ったIIM患者の筋組織を用いたscRNAシークエンスでは、筋組織内において細胞傷害性T細胞やエフェクターメモリーT細胞、レジデントT細胞などを含むT細胞クラスターが構成されていることが示された3)。さらに、同研究では、IIM患者の筋組織において、CD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞のクローンが認められることも示されており(図23)、非特異的にT細胞が集積しているわけではないと考えられる。また、若年性皮膚筋炎(JDM)患者を対象にscRNAシークエンスを行ったHuangらの研究では、I型インターフェロンシグナルが活動性JDMにおけるCD8陽性T細胞の異常分化を誘導し、細胞傷害を促進させる可能性が示された4)。この結果から、JDMの病態には特に細胞傷害性T細胞が関与していると推測される。

図2 炎症性筋疾患症例の筋組織内T細胞クローン 図2 炎症性筋疾患症例の筋組織内T細胞クローン Argyriou A et al. EMBO Mol Med. 15: e17240, 2023.
【対象・方法】A. 特発性炎症性筋疾患患者の筋組織内(左)および末梢血(右)における患者ごとのT細胞クローンの頻度を示す。B. 患者ごとのT細胞クローンを筋組織(〇)と末梢血(□)で表示したネットワークプロット(茶色:CD4陽性T細胞、薄茶色:CD8陽性 T細胞)。2つ以上の細胞間の連結線は、CDR3配列の共有を示す。CM:セントラルメモリー、EM:エフェクターメモリー、TRM:組織常在メモリー、IMNM:Immune-mediated necrotizing myopathy(免疫介在性壊死性筋症)、DM:Dermatomyositis(皮膚筋炎)、ASyS:Anti-synthetase syndrome(抗合成酵素抗体症候群)、 IBM:Inclusion body myositis(封入体筋炎)、IIM:Idiopathic inflammatory myopathy(特発性炎症性筋疾患)

筋炎特異自己抗体の標的分子に対する自己免疫が筋炎を惹起する

筋炎特異自己抗体が標的とする抗原の1つであるTIF1γは、転写伸長、DNA修復、細胞の分化などに関与する分子であり、悪性腫瘍など細胞増殖の活発な細胞に多く発現している。抗TIF1γ抗体陽性の皮膚筋炎(DM)患者では、悪性腫瘍内に発現するTIF1γを自己抗原とした自己免疫を誘導し、筋炎を引き起こしているのではないかと考えられているが、その機序は未だ明らかになっていない。そこで我々は、TIF1γを免疫した新規DMモデルマウス(TIF1γ-induced myositis:TIMマウス)を確立し、DMの病態機序を検討した5)。その結果、TIF1γを4回免疫させた野生型マウスにおいて筋炎の発症が認められ、TIF1γに対する自己免疫を基盤としてDMが惹起される可能性が示された5)。次に、筋炎特異自己抗体そのものに病原性があるかどうかを検討するために、B細胞欠損μMTマウスにTIF1γ免疫を行ったところTIMが惹起され、さらにTIMマウスのIgGをナイーブマウスに養子移入したところ、筋炎は成立しなかったことより、抗TIF1γ抗体そのものには病原性がないことが示唆された5)。また、TIMマウス由来のCD4陽性T細胞を養子移入したマウスでは筋炎が再現されなかった一方で、TIMマウス由来のCD8陽性T細胞を養子移入したマウスでは筋炎が再現された(図3)ことから、CD8陽性T細胞が中心的な病的役割を持つと考えられた5)

図3 TIF1γを免疫した新規DMモデルマウスにおける検討 図3 TIF1γを免疫した新規DMモデルマウスにおける検討 Okiyama N et al. Ann Rheum Dis. 80: 1201-1208, 2021.
【対象・方法】野生型マウスにヒトTIF1γ全長タンパクをアジュバントとともに繰り返し皮下投与し、抗TIF1γ抗体陽性DMを模した筋炎モデルマウス(TIMマウス)を惹起した。コントロールマウスはアジュバントのみを投与している。それぞれのマウスから採取したCD8陽性T細胞、CD4陽性T細胞をナイーブマウスに養子移入し、大腿筋における筋炎の組織学的スコアを評価した。

さらに、我々はDMにおける抗MDA5抗体の役割についての検討も行った6)。MDA5はRIG-I様受容体ファミリーの1つで、ウイルスを検知するパターン認識受容体である。抗MDA5抗体陽性DMは時に急速かつ致死的な間質性肺炎(ILD)を合併することが特徴で、近年、その発症には季節性があり、呼吸器ウイルス感染症を契機に発症している可能性が報告されている7~9)。そこで我々は野生型マウスにMDA5を4回免疫した後、RNAウイルス感染症を模した免疫賦活剤*を経鼻投与し、急性肺傷害を誘発した6)。通常、免疫賦活剤*経鼻投与による急性肺傷害は1~2日程度で回復するが、MDA5を免疫したマウスでは線維化を伴う炎症が長期化し、ILD様の所見を呈する6)。我々はこのモデルマウスをMDA5-induced interstitial lung disease (ILD)マウスと名付け、抗MDA5抗体陽性DMにおけるILD成立の機序を検討した6)。その結果、MDA5-induced ILDマウスのIgGを養子移入したナイーブマウスではILDは成立せず、T細胞を養子移入したナイーブマウスでILDが成立した6)。この結果から、TIMマウスにおける結果と同様に、筋炎特異自己抗体ではなくT細胞に病原性があると推測される。また、このモデルマウスでは、CD4陽性T細胞を除去することでILDの発症が抑制されたことから、特にCD4陽性T細胞が病原性を有すると考えられた6)
*免疫賦活剤:成体における非特異的な自然免疫活性化を誘導する物質。本研究では、MDA5抗原を免疫するときに完全フロイントアジュバントと百日咳毒素を用い、急性肺炎症を起こすためには、2本鎖RNAウイルスを模したPoly (I:C)の経鼻投与を用いている。

まとめ

scRNAシークエンスを用いた遺伝子発現解析が進み、T細胞が自己免疫性筋炎に関与している可能性が示唆された。また、筋炎特異自己抗体を免疫した新規DMモデルマウスを用いた研究の結果、筋炎特異自己抗体そのものではなく、T細胞が筋炎を引き起こしていることが示された。これらの結果から、筋炎特異自己抗体に病原性はないと考えられる。

【出典】
  1. Gono T et al. Rheumatology (Oxford). 51: 1336-1338, 2012.
  2. Zhang L et al. Semin Arthritis Rheum. 55: 152011, 2022.
  3. Argyriou A et al. EMBO Mol Med. 15: e17240, 2023.
  4. Huang B et al. J Autoimmun. 146: 103232, 2024.
  5. Okiyama N et al. Ann Rheum Dis. 80: 1201-1208, 2021.
  6. Ichimura Y et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 121: e2313070121,2024.
  7. Nishida N, et al. RMD Open. 6: e001202. 2020.
  8. Toquet S. et al. Autoimmun Rev. 20: 102788. 2021.
  9. So H, et al. Front Med (Lausanne), 9:837024. 2022.

クロージング 座長:慶應義塾大学医学部 神経内科 准教授 鈴木 重明 先生

【学会活動】​​​
日本内科学会、日本神経学会、日本脳卒中学会、日本神経免疫学会、日本神経治療学会、日本頭痛学会、日本臨床神経生理学会​

【ガイドライン委員】​​​​
重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン(日本神経学会)、がん免疫療法ガイドライン(日本臨床腫瘍学会)、スタチン不耐に関する診療指針(日本動脈硬化学会)​

【専門領域】​​​​
自己免疫疾患、重症筋無力症、炎症性筋疾患、免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象

近年、筋炎の臨床分類の見直しや新たな筋炎特異自己抗体の同定が進み、その疾患概念は変化しつつある。そのなかで、自己抗体測定は筋炎の診断のみならず、病型分類や予後の推定ならびに治療法選択などに有用な情報をもたらすことから、臨床現場において重要な意義をもつようになった。しかしながら、筋炎における自己抗体そのものの病原性の有無は不明であり、未だ議論の的である。IMNMにおいては、自己抗体による補体活性化を介した筋傷害の発生機序が解明されつつあり、自己抗体の病原性の存在が示唆されている。現時点での筋炎治療は、副腎皮質ステロイドや免疫抑制剤、免疫グロブリン製剤を用いた広範な免疫抑制および免疫調節が基本だが、今後、自己抗体そのものの病原性の存在が明らかになれば、補体阻害薬やFcRn阻害薬といった分子標的治療薬が、筋炎の治療薬として新たに導入される可能性がある。一方で、自己抗体だけでは説明しきれない病態もあることから、自己抗体ではなくT細胞が病原性の要である可能性もある。その場合、副腎皮質ステロイドや免疫抑制剤を用いた従来の治療が合理的である。
結論として、筋炎の病態が自己抗体の種類によって異なるように、病原性の有無も自己抗体の種類によって異なると推測される。病態に応じた個別化治療の実現に向け、さらなる知見の蓄積が望まれる。

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