TOP 指導医向け、研修医向けコンテンツ 悩める指導医へのあるある辞典 第30回 次世代をになうのは草食系指導医

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第30回  次世代をになうのは草食系指導医

福井大学医学部附属病院 総合診療部 教授
林 寛之 先生
(審J2005074)

倍返しは必要か?

現代が求める医師像とは? 「強く、正しく、賢い」というと一般には凛々しくて素晴らしい医師像を思わせるが、現代の医療において本当に必要な姿なのだろうか?「やられたらやり返す、倍返しだ!」と敵を作ったところで、局地戦には勝てても大局的には損をすることが多い。我々の敵は患者でもなく、他科の医師でもなく、共通の敵は病気なのだから、対人関係において「倍返し」は敵を増やすだけになる。いろんなストレスもあるだろうが、局地戦で勝つことを目指さず、大局を見て、最終的に患者のメリットになるのであれば、その場では「やられたら、倍ふっとんでやる」ぐらいのやられ上手が対人関係をうまくしていく。最終的に患者のメリットになっているかどうかが一番のカギなのだから。

自分が一番賢く強ければいいと思っていると、世の中上には上がいて、人を批判していては決して成長することもなく、井の中の蛙に他ならない。むしろ「優しく、低姿勢で、患者目線」の医療が本当の患者の利益を考慮している医者の姿勢だ。「怒り」は常に自分が賢く一番と思っていることから発せられることが多い。むしろ常に切磋琢磨して成長を目指す謙虚さこそ、日進月歩の医療の中では本当に必要な姿勢なのだろう。草食系で思慮深い医師像が現代は求められているのだ。

武士道精神

昔の武士道は潔く、美しかった。そのわけは「死」を意識することに始まる。

我々医師は多くの「死」に直面するが、果たして自分の「死」は意識したことがあるだろうか。今、自分が最も大事にしている人や物を3つ思い浮かべてみよう。その3つのものが自分の死を迎えることにより一瞬のうちに失われるのだ。誰も三途の川まで何も持って行けない。そう考えれば人間の生き死になんてちっぽけな事なのだろう。多くの人が死の間際に「もっと冒険をしておけばよかった」と語るという。人生は一度きり。これは研修医だって上級医だって同じこと。そうであるならば、もっと挑戦的なことをしておけばよかった、肩書など気にせず自分の信念を貫けばよかったと思うだろう。肩書などただの紙切れ、収入など多くてもあの世までは持って行けない。福利厚生?休みの数?さて、あなたの人生を燃やす生きがいはどこにあるのだろう。

あなたの知識や技術を後進に伝えることはまさしく「つなぐ」工程なのだ。何のインセンティブもつかない医学教育は実はあなたの想いをつなぐ次の世代を育てている事に他ならない。死んでも残せるものはまさにその教育の中にある。「死」を意識したらあなたは何を残したいだろう?今の指導医としてのあなたの努力は大変有意義な使命なのだ。

新世代の踏み台になる

医療は利他主義であるべきで、患者さんの幸せこそが自分の幸せに直結してくる仕事である。研修医が将来自分と同じ科を選ぶか選ばないかで、指導の熱心さが異なるなど笑止な事。患者さんにいいことができるのであれば、研修医の最終選択専門科など関係無しに、自分の目の前に来た研修医には一生懸命に惜しげもなく指導すればいいだけだ。そうすることで自分の今までの技術や知識が新しい世代を通じてより多くの患者に役立つことになる。「すべては患者さんのため」という理念さえ外さなければ、研修医教育の根幹は揺るぐはずもなく、自分達指導医を踏み台にして若者達は旅立たねばならないのだ。

「本物」の力は大きい。これからはclinical educatorとしての医師が必要な時代だ。実臨床で、臨床を大事にしてきた医師こそが研修医教育を成功させる大きな力の担い手であることを自覚し自分自身を鼓舞してもらいたい。

新世代とのコミュニケーション

研修医の声にしっかり耳を傾け相互理解ある教育を! 上から目線の教育は実に研修医の耳に届かない。ここはひとつ研修医の声にもしっかり耳を傾けよう。真摯に傾ければなかなかどうして面白い話が聴けるばかりか、本当は同じ志を持った仲間だとわかるだろう。年を取るとどうしても年配の自分が話す機会が多くなってしまい、若者達の声を聴く機会が減ってしまう。ここはひとつ我慢して若者達の声に耳を傾けよう。

あなたの有用な指導も研修医の血となり肉となるには、十分研修医が納得しなければならない。説得では人は動かない。お互いの声を聴かない人には心を開くはずもない。相互理解なくして教育はなりたたないのだ。研修医の声を聴くのはそれほど難しくない。すぐに口をはさむのをやめればいいのだ。そして研修医は自分の子分ではなく、将来の同僚として扱おう。「実るほど首(こうべ)を垂れる稲穂かな」の如く、できる指導医は相互に敬意を払うすべを知っている。

草食系の指導医が新世代の心を開く。人生が終わるその時、あなたの想いは次世代に伝わっていると思えば、もう思い残すことは無いはず。

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