TOP 指導医向け、研修医向けコンテンツ 悩める指導医へのあるある辞典 第23回 文献の読み捨て方

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第23回  文献の読み捨て方

福井大学医学部附属病院 総合診療部 教授
林 寛之 先生
(審J2005067)

自分の臨床に役立つ文献を拾い上げる EBM全盛のご時世、PICOだのPECOだの読み方がある。P:Patient(患者)、I:Intervention(介入)またはE:Exposure(介入)、C:Comparison(比較対象)、O:Outcome(結果)をひとつずつ見ていくのは基本の基本。世界の情報をアップデートするためにしっかり英語論文を読み込むのは重要だが、実は本当に重要なのは、無駄な論文に時間をかけないこと、論文を素早く読み捨てることなのだ。実際四天王ジャーナルでさえ、本当に臨床疫学の観点から完璧なものはそうそうあるものではなく、方法論が正しくても自分の臨床に役に立つ情報でなければ、論文を読む時間は無駄なのだ。あ、言い過ぎました、ごめんなさい。無駄じゃないけど、やっぱり無駄・・・あ、ごめんなさい。

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Problem

論文のテーマは臨床に関係していることを調べているか?自分の臨床に関係のない論文は読まない。専門病院か市中病院か野戦病院か、どの場での臨床研究なのかをよく見て、特殊な状況のものを読んでも意味がない。

Patient/Population

どんな患者を選んでいるのかにも注目しよう。「あっ、きったねェ!当然じゃんか」と言いたくなるような患者だけを対象にスタディをしている時があるので、どんな患者を対象にしたのかきちんと書いていない論文の信憑性は低くなる。患者のselection biasは結構重要なのだ。

「結果が思うようにでなかったので、後ろ向きにカルテから患者を抽出したら、こんな結果が出た」というような、付け焼刃的研究は当てにならない。患者の選択を途中で変更しないといけないプロトコールの結果は信じない。

Intervention

疾患のgold standardはきちんと定まっているか?ここがしっかりしていない時も読まなくていい。介入をしても最終診断がgold standardに沿っていなければ、介入の信頼性が失われてしまう。臨床上役に立つ介入をしていないものもダメだろう。

Comparisons

介入をするのはいいが、きちんとランダム化されているか。

Outcome

結果(利点、欠点など)が患者の視点になっているか、単なる検査値の視点になっているか。患者の生死が結果になっていればそれは信頼できる(Patient oriented evidence)。病気の視点、つまり血液検査や画像所見など検査値が改善したかどうかは、直接患者の予後には関係が無い(Disease oriented evidence)。たとえば薬剤を投与して不整脈が減ったとしても、患者の予後が悪くなれば、その薬剤は役に立つとは言えないだろう。

Number of subjects

比較検討するうえで最低1つのグループに患者は400例は欲しい所。数十例のスタディでは追試をするとこけてしまうことがよくある。あくまでも多施設、多数の傷病者を対象にスタディしていないものは、いまいちなので読まない。

Statistics

Relative risk(RR)ではなくてAbsolute risk reduction(ARR)やNNT(Number need to treat:ARRの逆数)を信頼しよう。RRはあくまでも比率であり、絶対数がどれくらいよくなるかが重要であり、NNTをきちんと出している論文の信頼性が高い。NNTが10を切る治療は10人に一人効果がありなかなか素晴らしい治療であり、NNTが5以下はとんでもなく効果のある治療と言える。急性冠症候群のアスピリンなど予防効果のNNTは39もあり、ボチボチでんなって感じなのだ。

2)超簡単!文献の捨て方ABC

細かく論文を読んで批判的吟味をするのも良いが、少ない労力で最大効果を上げてみたいもの。自分の診療の規模と研究の施設との大きな開きがあったら、そのスタディは役に立たない。また興味が無ければ論文を読んでも頭に入らない。やっぱり必要な論文をちゃっちゃっと拾い上げ、無駄な論文を読み捨てる技術も必要だ。独断と偏見の論文の素早い取捨選択の極意を紹介しよう。

文献の捨て方ABC

どの科へ行っても、その専門科のmajor journalを5年分読めば何かが見えてくるはず。論文を読むのは大事だが、あまり時間をかけすぎてはいけない。Review articleは定期的にチェックし、Original articleは最低5年分読むようにしよう。タイトルや結論が面白そうなものはすぐに捨てずに、愛を持って読んでみると面白いものも見つかる。だってHIVだって最初は症例報告なんだから、review articleやRCTのみを読んでいたのでは幅広い知識にならないよ。論文の粗探しはやめて、愛を持って素早く読みましょう。

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