TOP 指導医向け、研修医向けコンテンツ 悩める指導医へのあるある辞典 第21回 カンファランスの進め方

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第21回  カンファランスの進め方

福井大学医学部附属病院 総合診療部 教授
林 寛之 先生
(審J2005065)

研修医の顔は青ざめて… 「カーン!始まりました!緊張の一瞬です!」
「おっとここで上級医から質問が来た!そう来たかぁ!」
「どうしてこの検査をしていない?どうしてこんな処置をした?どうしてここでこの薬を処方した?・・・追及の手がやみません」
「おぉ、発表者の研修医の冷や汗はすごいものですねぇ。発表者自身が心筋梗塞、低血糖、はたまた有機リン中毒になったのかと思いたくなるぐらいびっしょり冷や汗状態ですねェ。服を着替えないと風邪をひきますよと声をかけてあげたいぐらいです」
「おぉっと、ここで『こんな処置をしたのはどこのどいつだ』発言が出ました。上級医から厳しい犯人追及の要求が出ました」
「なかなか自首しませんねェ・・・ぶるぶる・・・カンファランスルームの空調が壊れたのでしょうか?思わず20℃ぐらい室温が下がったかと思うぐらいの凍りついた空気です。」
「おぉっと!自首しました。勇気ある行動です」
「『お前ってやつは』『いつもお前は』とどんどん人格を否定していきます。追及の手がやみませんねぇ。大丈夫でしょうか?研修医の顔は青ざめてどんどん血の気がなくなっていきます。あっ!」
(ポキッ)
「ついに折れました。今回も上級医の圧勝でした。」
「これで○△病院つるしあげカンファランス、もとい症例検討会からの実況中継を終わります」

カンファランスひとつするだけでこんなに緊張するものなのか。建設的医学的ディスカッションなんてそっちのけで、質問に対する恐怖心が空気を凍りつかせるカンファランスをいまだにしているところがあるという。まるで処刑台に上がった囚人のよう・・・いわゆる「つるし上げカンファランス」はいつの世も人格否定ボッコボコカンファランスであり、知識も経験も少ない研修医が、上級医に勝てるはずもない。わからないなりに一生懸命に、的外れなプレゼンを行い、上級医が息の根を止める。犯人探しになってしまうと最悪だ。研修医からは自己保身的発言しかでず、創造的な意見は皆無になってしまう。医学的に正しいことを厳しく教えること自体は悪いことではない。しかしながら、厳しい指導はお互いの人となりがわかって、自分のために言ってくれるという信頼関係(ラポール)が築かれてこそ有効になる、もろ刃の剣なのだ。ましてや「お前って奴はいつも」などという人格否定系の指導法では、表面上従うだけで、決して納得はしない。研修医の行動変容は説得ではなく、研修医自身が納得することから始まる。一方、満面の笑みでおべんちゃらいっぱいのいわゆる「成人教育」という教育手法も、お尻がくすぐったくてキモい・・・。研修医に合わせて具体的にタイミングよく褒めないと、研修医もすぐにおべんちゃらと見ぬいてしまう。

指導の観点からの質問は「How」がいい。「Why」は単純に質問しているだけでも問い詰められているように聞こえることがある。特に○○先生の様に普段から仏頂面で笑わない場合は、特に・・・。「どうして・・・したんだ?どうして・・・しなかったんだ?」という質問はNG。「どうしたら・・・を回避できたと思う?」「次どうしたら改善できるかな」と聞くと未来志向でポジティブになれる。また、意見を述べるのも「自分なら・・・するな」などと言うと受け入れやすい。「I」メッセージ、つまり主語を自分にするのだ。「お前が・・・したからダメなんだ」という「you」メッセージは責めているようにしか聞こえない。「I」メッセージは指導医の意見なので、研修医にも受け入れやすい。このようにするとうまく恥をかかせずに行動変容に持って行ける。

「人間褒めて育てよ」というのは正しい。いい記憶は定着しやすいからだ。では叱ってはいけないのか?否、状況次第では叱った方がいい場合もある。勿論、人格を否定しないで、その行動を特定して指導するようにする。ただその叱りによって、叱られた研修医が自ら気づいて行動変容し、よりよい臨床につなげていけるかどうかがカギなのだ。「将来につながる」指導なら、叱るのも大いに結構。

将来につなげるための叱り方は、
(1)叱る前にいい人間関係ができていること
(2)「研修医の尻拭いは私がする」と指導医が腹をくくって後見する気概があること
(3)研修医の性格を十分理解していること
の3条件が必要だ。

甘い指導も厳しい指導もテーラーメイドにバランスよく使い分ける必要があるのだ。指導法は何であれ「研修医のドジは俺のドジ」を合言葉に、研修医の成長に責任を持つ指導医こそ本物なのだ。

自由に意見を言える雰囲気を… ここでひとつアドバイス。ゆとり世代に真の力を発揮させたければ、リラックスして自由に意見を出せる空間を演出するといい。ゆとり世代はガッツがないのではなく、空気を読み臨機応変に変化に対応する能力が高い世代だ。進化とは変化に対応する能力を言うらしい。ガラパゴス世代の我々とは違うのだ。研修医が自由に意見を言える雰囲気を作っておくことは非常に重要。自由な意見は議論を発展させる。的外れであっても意見を言えるというのは、まさしく指導医がいい雰囲気を作っているという証拠なので、たまに的外れな発言があっても叱ってはいけない。ここはぐっとこらえる方が明日につながる。カンファランス中に笑いが出ないようではまだまだだねってことになる。

どうしても興奮しやすい人のために、カンファランスルームの前にホワイトボードを一つ置くことをお勧めする。そこには大きな字でいつでもだれでも見えるように以下の様に書いておくのだ。

カンファの進め方ルール

(1)決して攻撃的な質問はしないこと

(2)本題に関係あることを議論すること

(3)笑いをとること

ボッコボコカンファなんて不毛なカンファはまさかもうしてませんよね・・・アレ?

ボッコボコカンファ禁止令

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