TOP 指導医向け、研修医向けコンテンツ 悩める指導医へのあるある辞典 第20回 愛の傾聴

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第20回  愛の傾聴

福井大学医学部附属病院 総合診療部 教授
林 寛之 先生
(審J2005064)

一味違うコミュニケーションでロールモデルになろう
~「愛のあいうえお」~

大学のOSCE(Objective Structured Clinical Examination)ではお作法にのっとった魂の抜け殻のような病歴聴取で何を聞いたかどうかが試される。でも実際の医療ではいかに患者さんの心をつかむか、いかに患者さんに心を開きたいと思わせるかが重要だ。いい病歴聴取が出来れば診療能力そのものも向上する。うわべだけの共感テクニックなど簡単に見透かされてしまうものだ。医者が患者さんを診断するのは意外に時間がかかったりするのに、患者さんは医者がいい人かどうかは3分で見抜くと言う・・・とか言わないとか。

医者はついつい一生懸命説明をしようとするが、それがまるで外国語のように響けば意味がない。同じ土俵でわかりやすい言葉で語りかけなければ伝わらない。その上、医者が話しまくっていたのでは全然患者さんの満足度は上がらない。患者さんの話をよく聞く事(聞く:話す=7:3)、聞きながら反応すること(「聞いていますよ」というメッセージを発する)、心情を察すること(「心に訴えられた」というメッセージを発する)の方がより重要だ。そう、病歴聴取の主役は患者さんであることを忘れてはならないよね。

Dr.林の愛の傾聴テクニックを紹介しよう。(表)

Dr.林の愛の傾聴・共感テクニック

まずは「あいうえお」のうち「あい」から、「あいさつ」、「アイコンタクト」と「あいづち」

あいさつ

そんな当たり前のこと、と言うなかれ。電子カルテに向かったまま患者さんを迎え入れる医者の多いこと多いこと。必ず患者さんの方を向いて、まずこちらから声をかけよう。そして患者さんが話し始めたら「半歩前!」で前傾姿勢だ。この半歩前に前傾姿勢は「あなたの話に興味がありますよ」サインなんだ。これって家でも使える。えっ?奥さんから話しかけたら、いつも半歩引くって!そりゃまずい!

アイコンタクト

目をじっと見ようというものの、まじまじと目を見ていると気恥ずかしくなってくる。そういう時は患者さんの鼻の頭をじっと見つめよう。患者さんにしてみれば、じっと顔を見られているように感じるのだ。これでアイコンタクトはバッチリ。

あいづち

愛のソナタ 「話を聞いてます」メッセージとして重要。「なるほど、なるほど」と同じ相槌を繰り返していてはかえって聞かれていない感が出てしまう。私など「なるほど」ばかり言っていたら、「なるほど先生」と言われて、「何も話聞いてないね」と言われてしまったことがある・・・不覚!そこで、「愛のソナタ(ソ:そうなんですか、ナ:なるほど、タ:確かに)」をうまくローテーションして相づち名人になろう。また、「ハ行」を伸ばして言えば、感動を伝えることができる。そう言っているうちに、本当に相手の話に興味がわいてくるから、アラ不思議。行動を変えれば心も変わるのだ

うなずき

うなずきは早すぎてもいけない。相手のペースに合わせたうなずきを心がけよう。自分よがりのペースだと急かされているように感じてしまう。ゆっくりと話す高齢者には、ゆっくりとしたペースで対応しよう。医者が一生懸命説明しても、医者の独りよがりなペースで話していたのでは、患者さん自身が話す機会が少なく満足度は低くなってしまう。
うなずきながら相手のしぐさを観察しよう。もし可能なら同じ動作をしてみてもよい。鏡の中を見ているような動作は相手の共感を得られる。良識の範囲で真似をしてみようね。

笑顔

笑顔は万国共通の言語だ。訴訟も減るし、太らない。診察開始時にはまず医者側から笑顔で挨拶し、目線を合わせることから始めよう。10年来の友人に会ったときのような笑顔、そんな気持ちで接すればいい。おぉ、アメリカ人になった気分で演じてみよう。

「オーム返し」

「聞いてますよ」メッセージを送るには非常に有効。相手の話を聞いているだけでなく、話をサマライズして聞くことで相手と自分の理解のギャップを埋めることも出来る。あなどりがたし、オーム返し。

感動や驚きの反応

感動や驚きを伝えてこそ、会話が弾むものだ。表情やしぐさなど非言語的要素がより重要なのは言うまでもない。患者さんがつらいと言ったら「つらいですね」と悲しい顔をし、患者さんが驚いたと言ったら、こちらも眼を丸くして驚きを伝える。こんなこと全然、難しくない。真剣に患者さんの話にのめりこんで聞けばよいだけである。「白血球は・・・CRPは・・・ですから特に問題は無いですね。」などと小難しい医学用語を並べて説明しても素人にはわからない。「良かったですねぇ!血液検査の結果は100点でした。では細かく説明してみますね・・・」とまず結果を、感動を持って伝えることから始めたほうが患者さんは聞き入れ易い。

「聞く・聴く、訊く」

「聞く・聴く、訊く」 聞き方ひとつとっても患者さんの話の内容は変わってくる。まずはオープンクエッションで患者さん自身の心配や病気へのとらえ方を患者さん自身の言葉で語ってもらえるような質問をしよう。Yes、Noだけで答えるようなクローズドクエッションは誘導尋問と同じだ。的が絞れてきたら、初めてクローズドクエッションに切り替えていくといい。患者さんが語り始めたらのめりこんで聴こう。そして効果的な質問(訊く)は会話が弾むだけでなく、診断能力も増す。

敬意

すべての患者さんに敬意を払おう。会話の端々に「自分は医者だから偉いんだぞ」オーラは出ていないだろうか?セルフチェックしてみよう。患者さんが年下であっても対等に扱うことが基本。子供だって対等に扱ってもらえると嬉しいもの。また人生の先輩である年配の患者さんには敬意を払って当然だ。命令口調、やけに馴れ馴れしいなどの口調は御法度だ。自分を大事に扱ってもらえて嫌に思うわけもないではないか。患者さんが自分の健康に気を配っていることをしている場合、家族の気配りが温かい場合など、褒めるチャンスを見たらすかさず褒めよう。些細なリップサービスで円滑な会話が弾むならそれもいいではないか。また、患者さんの名前を意識して多く呼ぶようにするといい。人にとって最も心地よい言葉は実は自分の名前であるという。ね、○○さん!。

肯定・承認

たとえ患者さんが医学的に間違ったことを言っていても、「きちんと聞いていますよ」というメッセージを発するために重要。すぐに医学的には間違っていますと否定したのではいただけない。オーム返しやあいづちのテクニックを使いながらとりあえずは「聞いていますよ」と承認していき、患者さんの話を最後まで聞くことが大事。患者さんの思いを十分引き出し、十分聞き届けたというメッセージを発してから、医者としてのアドバイスを言う方が受け入れられやすい。

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