TOP 指導医向け、研修医向けコンテンツ 悩める指導医へのあるある辞典 第26回 感情におけるコミュニケーションスキルのTips

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第26回  感情におけるコミュニケーションスキルのTips

福井大学医学部附属病院 総合診療部 教授
林 寛之 先生
(審J2005070)

研修医はとにかく早く一人前になりたく、知識やスキルの修得に貪欲になるのは好ましいことであるが、実際の臨床では患者さんはあくまでも疾病臓器ではなく、病いを持った人であることを忘れてはならない。知識も技術も優秀な研修医が「なぜか急に患者に切れられた」と訴える場合、疾患探しに夢中になるあまり、患者さんの心の動揺や心配に無頓着になり機械的に対応していることが多い。「病気を見ずに人を診ろ」というのはたやすいが、実際の外来診療では患者さんの人生そのものを把握するだけの時間は確保されていない。OSCEで培っただけのそらぞらしいうわべだけの「共感」では患者さんにも足元を見られて当然。医学的知識が患者さんよりあるのは、医師として当然のことであり、患者さんが医学的に間違ったことを言っても、まずそれを受け止めるだけの余裕がないといいコミュニケーションは取れない。まず目の前の患者さんに人として興味を持って接することから始めるように指導したい。

患者さんとの対話を重視したコミュニケーション

物語と対話による信頼関係の構築 患者医師間の信頼関係を構築するためのNarrative Based Medicineが提唱され、よくEvidence Based Medicineと対比されるが、実際には両方が診療をするうえでは必要である。患者さんの物語を聞き、患者さん自身が心配していることを掘り下げて理解し、その意見を尊重する。その上で医師の物語を重ね合わせて、対話を形成していく手法である。

Narrative Based Medicineの6つの「C」構成要素は以下の通り。

Conversations 会話 会話のプロセスを重視する。疾病をすぐに治癒することはできないが、患者さんの疾病に対する受け取り方を理解する。発展的会話をするようにする。
Curiosity 好奇心 患者さんの物語に興味を持って話を聞く。知的好奇心というより、むしろ情緒的に迫ることも重要である。医学的な知識から上から目線で判断するようにしてはいけない。Non-judgementalな態度が重要。
Circularity 循環性 会話には終わりなく繰り返される。その中で患者さんの家族関係、社会背景などもおさえていく。むしろ繰り返される物語の中に患者さんの内包する価値観が潜んでいることがある。
Contexts 背景 「人に歴史あり」生活史や人生観、それぞれが患者さんの病に及ぼす影響力を持っている。
Co-creation 供創 患者さんと共に医療者も協力して物語を発展させていく。医者が主導になってもいけないし、患者さんだけの話で終わっては治療に結びつかない。両者のバランスが絶妙であってこそ、患者さんの満足度が上がる。
Caution 慎重性 医者は万能ではない。たかが短い診察時間で患者さんの人生をすべて知ったような態度に出てはいけない。あくまでも聞かせてもらうという態度が必要。患者さんによっては語りたくない物語もある。医師だからと言って踏み込んではいけない領域もあることを理解しておきたい。

上記を意識して患者さんと会話をすると、実に人間というものは面白い存在だろうか、と考えさせられる。これを一度に全部外来の短い診察時間でできるはずもなく、継続的診察のできる患者さんは細切れに、一期一会の患者さんはどれかひとつでもうまくいくように心がければよい。結局は患者さんの語る物語に興味を持ち、いい聴き手になって話を発展させ、医療者の物語とうまく融合させて、最終的には患者さんに「十分理解してもらえた、来て良かった、治療内容にも同意した」と言ってもらえれば合格だ。

研修医へのフィードバック

診断や治療だけでなくコミュニケーションに関してのディスカッションやフィードバックを 上級医は単に手本を見せればいいのではなく、上記を研修医に教えるのみならず、研修医達の修得度を測らなければならない。できれば各診療の最後に振りかえりのフィードバックをするといい。通常、疾患の診断や治療に関してフィードバックが行われるが、コミュニケーションに関してはむしろうまくいかなかった症例・重大な出来事を取扱い、医療者としての葛藤や対処の仕方をディスカッションできるようになりたい(これをSignificant Event Analysis:SEAという)。研修医も様々なストレスにさらされ、その上すべての患者さんとうまく人間関係ができるかというと、そうそう最初からうまくいくはずもなく、うまくいかない症例こそ成長の機会ととらえて教育のチャンスとしたい。医者だって感情を持った人間である。上級医が「イラッ」と来てしまうことだってある。ただ研修医がそれを見てストレスに思うことも多い。患者さんや上級医やコメディカルの人達への対応で感情をコントロールしないといけない時もある。そんなストレスをきちんと同僚と共有し、どう感情をコントロールしていくかディスカッションしていくことは、医者を続けていく上には非常に重要な糧となる。「怒らない選択」の利点をディスカッションするいい機会となる。

SEAでフィードバックする際の注意点として、決して非難しないこと、Non-judgemental attitudeで臨まなければならない。個人攻撃を目的とするのではなく、研修医の感情そのもののありかたを受け止め、自由に話すことができる雰囲気を作らなければならない。発言したが最後、つるし上げにかかる様では決して発展していかない。また解決法をさぐる点よりも、そこに至った過程・プロセスを重視し、多くの同僚である研修医と感情を共有するといい。

フィードバックは上級医から話すのではなく、(1)まず研修医に自分でうまくできたことを話させる、次に(2)上級医がいい点を評価する、(3)研修医が次にどう改善してみたいかを話す、(4)上級医が具体的にどう改善策があるかアドバイスする、という手順を取るといい。一方的に上級医が評価するのは好ましくない。またあくまでもネガティブなフィードバックにせず、前向きの建設的で具体的なアドバイスになるように心がければ、おのずと研修医のmotivationも向上してくるだろう。

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