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第25回  レベルに合わせた指導を~ちょいつら楽しい研修を~

福井大学医学部附属病院 総合診療部 教授
林 寛之 先生
(審J2005069)

どうも一律の教育というのはうまくいかない。指導医も十人十色であるように、研修医のレベルも様々。感染症もひとつの抗菌薬だけでいいわけではなく、原因菌や宿主のディフェンス能力、そして感染部位によって治療選択を選択していくではないか(?)研修医も様々、指導医も様々、教える環境も様々な中で、テーラーメイドに指導できるように気を配ればあなたも指導医マスターだ。楽過ぎる研修では決していい医者は育たない。「ちょいつら」がキーワードだ。能力に合わせた「ちょいつら」研修を提供できるようになれば、あなたも指導医マスターだ。研修医にもいろんなタイプがいるからこそ研修指導は楽しい?・・・のかも。

臨床能力の違いで指導法を変える

能力にあわせた「ちょいつら」研修を 研修医も飲み込みの早い者から遅い者までいて当然だ。一律に教育法を統一しても必ずしも同様な伸び方はしない。初学者に近い相手に根掘り葉掘り質問しても針のむしろに座らせているに等しい。よくわかっていないプレゼンテーションしかできない研修医には手取り足取り、思考過程を教えるようにしてあげるとよい。”Why”よりも”How”という質問を多用するといい。

一方、デキル研修医に最初から教えるのは得策ではない。デキル研修医にはある程度自分の判断で検査などは出させないといけない。遠巻きに見守る姿勢が指導医には必要だ。または少し宿題や課題を与えて発表させるなどの負荷をかけるとより効果的であり、自信にもつながる。

楽ばかりさせてはいい医者なんてできるわけがない。どんなに疲れていても、身を粉にして働かないといけない日は遠からず来るのだ。各研修医のレベルを見極めて「ちょいつら」ぐらいの負荷をかけて、それを達成した時にタイミングよく褒める、認める作業を行うのが指導医の大きな役目であり、喜びと言えよう。

やはり患者さんへのプレゼンテーションを見れば、どれくらい研修医がわかっているのかがよくわかる。救急勤務の最後にみんなで振り返る場を作るのが大事だ。デキル研修医のプレゼンテーションを聞くことも、みんなの勉強になる。症例をみんなで共有することで、進みの遅い研修医もより多くの患者さんのマネージメントを効率よく学ぶことができる。あくまでもこのミーティングは建設的な意見が出るようなもので自由意見を尊重しないといけない。

引っ込み思案な研修医

消極的な研修医はやらせようと思っても逃げてしまう事がある。「そんなので医者になっていいのか」という声が聞こえてきそうだが、それは成長が多いだけ、慎重派ということだけで、自信が持てるようになれば案外すぐに手が出るようになるものだ。そんな場合には、「手伝ってくれる?」と話しかけるといい。手伝うのなら気軽にできると、付き合ってくれるようになる。いきなり手技をさせようとしても、見たことのない手技には手を出せない。なるべく様々な病態に接することができる様に気を配ってあげよう。慎重派が育つには他の人の3倍ぐらいの時間がかかるものだと思って指導すればいい。

将来進む専門科疾患にしか興味のない研修医

将来、自分の進む科以外には興味を持てない人がいるのも事実だ。しかしながら、中核病院で勤務する機会は必ずと言っていいほどあるし、大学病院に勤めていても外勤、当直は当たり前でもあり、一人で日直や当直を乗り切らないといけない日は必ずやってくる。自分の専門科以外の患者さんも診ないといけない事態が近い将来必ずやってくる。その時に、真面目に初期臨床研修のローテーションを行っていると患者さんのみならず自分を救うことができる。初期臨床研修医制度の本来の目的である「プライマリケアの充実」は確実に研修医の医療レベルを上げていると実感できる。

医療訴訟は実は高度救命救急センターというような最重症の患者さんを扱う場面ではなく、「歩いてきたのに実は重症」という落とし穴ケース、つまりは2次救急の場面に潜んでいることが多い。多くの医者は当直を免れることはできず、そんな時に自分を救うのは様々な科の基礎を学ぶことができる初期臨床制度であることを認識して研修を受けないと、将来とんでもない痛い目に合うことになってしまう。自分の専門科に興味が高いのは結構、その将来を棒に振らないためにも、なるべく自分の専門科に関係のない科の落とし穴と基礎を学んでおくと得であることを伝えておきたい。

ドライバー研修医

研修医 大工道具のドライバーにはプラスとマイナスがある。研修医の中には患者さんの所見を「+」か「-」でしか判定しないコンピューターのようなプレゼンテーションをする人がいる。それではまるでコンピューターさえあれば診断ができそうな勢いだが、かの有名なDr.Houseも言っている通り、”everyone lies”「人(患者さん)は嘘をつく」如く、医者が知りたい情報を適切に表現できる患者さんは少ないのも事実。各症状一つ一つに重みづけをする、患者さんの解釈の症状を客観的なものに落とし込む、そんな作業を臨床家はしているのだ。その点をきちんと教えてあげたい。くれぐれもプラスマイナス君のコンサルトを受けて、患者さんも診ないでそのまま指示を出すようなことを指導医はしてはいけない。患者さんを見れば一目瞭然。プラスマイナス君は比較的真面目に勉強していることが多く、間違いをことさら指摘して自尊心をぶち壊さないように配慮して、指導医は実際に患者さんを見に行き目の前で所見の重みづけと症状の解釈の仕方を「現場」で教えないといけない。きっとそのプラスマイナス君は伸びるはず。

指示待ち君

自分から積極的には動かず、指示をもらわないと動けないタイプの研修医。慎重派と考えればいい。患者さんの経過や予測がつかない点に対して臆病になっているだけなので、全体像が見えるように指導していくとよい。機械的な内容に関してはチェックリストを作らせて順守するようにさせる。「次は何をしたらいいと思う」というように具体的な方策を口に出して確認作業をしてあげることで自信を持ってくれる。どんな馬鹿なことを言っても頭ごなしに怒らないのが重要だ。怒ってしまうと、余計引っ込み思案になってしまう。

EBM君

聞きかじったEBM(Evidence Based Medicine)を振りかざし、指導医の揚げ足を取ろうとする野心家。数個の論文をあたかも世の中のアップデートと勘違いして上級医に意見を言ってくる。ここで切れては指導医の名がすたるというもの。実臨床はEBMや教科書的な典型例で来ないことも多い。新しい論文に少々載ったぐらいですぐに臨床応用ができるはずもない。しかしながら、EBM君は勉強が好きなのは間違いなく、そのやる気をそぐことなく指導していけばいい医者に育つはずだ。また上級医に自由に意見を言える環境を提供している指導医の懐が広いということでもある。EBM君がいる職場の上級医はいい環境を提供しているいい指導医という点に注目してみよう。

残念ながらEBM君には、勉強は好きだが患者さんを診るのは苦手、という輩もいる。患者さんを診ずしていいEBMは使いこなせない。EBM君の自尊心をくすぐりながら、実際の患者さんはいかに多様な訴えでやってくるのかを肌で感じ取らせることが大事な教育になる。コンサルトを受けたら、必ず一緒に患者さんの診察をしていきたいものだ。

たかが臨床君

臨床を馬鹿にする者は臨床で痛い目に合う。それが訴訟にでもなろうものなら目も当てられない。研修マインドと言いながら、実際の臨床研修をさぼっていてはいい医者にはなれない。本来の素晴らしい臨床スタディは、腕のいい臨床家が集まってデータを集めなければ、意味のあるデータは取れない。

また患者さんは教科書的な典型例で来院することは少なく、そんな非典型例こそ典型的なのが救急医学診断の醍醐味ともいえる。リサーチマインドを大切にする「たかが臨床」君だからこそ、臨床の腕を上げておかないと将来いいリサーチはできないことを教えてあげよう。臨床的に意味のあるいい臨床上の疑問を考え出すには、いい臨床を常日頃しておかないといけない。

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