TOP 指導医向け、研修医向けコンテンツ 悩める指導医へのあるある辞典 第24回 ERのチームビルディング

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第24回  ERのチームビルディング

福井大学医学部附属病院 総合診療部 教授
林 寛之 先生
(審J2005068)

救急なんて忙しくて私生活が無くて、他のコンサルト医からはさげすまれて、なんて思って救急医になることに二の足を踏んでいる若先生はいないだろうか?アメリカではテレビ番組の「ER」も手伝ってER救急は大人気だ。格好いいから?それは言えている。テレビの中ではロマンスあり、毎日のように多発外傷が起こり、「コードブルー」のドクターヘリに至ってはヤマピーなどいい男いい女が目白押しの世界ではないか・・・(あ、現実はそんなに甘くないってわかった?)。でも実際は、1次から3次までの救急を担ってみると、実に軽症患者や真夜中の酔っ払いのようなわがまま患者も相手をしないといけない(それも笑顔で、平静の心で!)。夜中に働くのが当たり前だから、体内リズムも狂ってしまう。「そんなの無理だよ」という軟弱者にはお勧めできない科であることも間違いない。しかしながら、それでもお釣りがくるぐらいERにはドラマがあるのだ。人間臭い、泥臭い人間ドラマが好きな人は、ERは向いている。そしてそんなドラマを目の当たりにしているのが研修医であり、ER整備がいかに研修医達にとっても重要であるかがわかるだろう。

ERで初期診療に当たる研修医は病院の顔であると言っても過言ではない。この初期研修医を手厚く大事に教育する場こそがERであり、入院患者の多くがERを経由して入院してくるのだから、ERをないがしろにする病院はいい臨床研修病院とは言えない。

ERのチームビルディングのストラテジー

(1)病院を変える

ER成功の秘訣として、「救急患者は病院全体で支える」という気持ちを職員全員が持つことが必要である。北米型ERはあくまでも病院の窓口で効率の良いリソースで治療を行うのであり、臓器専門医の介入が必要になった場合は、患者を快く臓器専門医が引き受けていくシステムとなっている。各臓器診療科のバックアップなしでERは決して成功しない。患者の入院治療までの流れをシームレスにつなぐためにも、ERと臓器専門医が共同作業をしなければならない。そのためにも病院長のトップダウンの指揮命令系統の確立は必須だ。

ER医も最初から有能な人材がいるはずもなく、病院全体でER医を育てあげるつもりでいなければならない。ER医を育てるには最低10年かかる。この10年の苦労の末、臓器専門医が時間外に呼ばれる回数は格段に減って楽ができるのであるから、将来を見越したうえでは悪い投資ではない。

ER先進国のアメリカでもER医はバーンアウトしてやめていく人が多いと予想されたが、実はやめる人は少ない。ER専門研修を終えて、自分には合っていないとやめていく者以外はほとんどが引退するまで仕事を続けていることがわかった。こんなに毎日が新しい患者でエキサイティングな科はないのだから、きちんとした体制さえできればER医は職務を全うするのだ。日米の大きな違いはその働き方にあり、外来専門でシフト制を常とする科となれば、ER医の成り手は多い。一部を除いて多くの日本のERではいまだにシフト制が導入されていない。外来も入院もみて、36時間労働というスタイルではなかなか後継者が育たなくても当然だ。やはり真夜中もカバーすることを考慮すると、いち早くシフト制を導入する必要がある。夜中に機嫌のよいER医がいることは、患者にとっても安全だが、研修医にとっても非常に安心を与える。シフト制を常とすれば、時短勤務やパートタイムも可能であり、子育て世代の女性ER医が仕事ができるようになる。北米のER医の半数は女性である。また、北米型ERの魅力のひとつは柔軟な勤務体制とオンオフのはっきりしたライフスタイルにあることである。夜中に働き、バイオリズムを整えるためにもオンオフをきちんとした勤務体制を提供することが必須であろう。そのためにも院長をはじめとした救急の勤務体系に対する病院全体の理解が必須である。24時間をカバーするシフト制を導入しない限り、心も身体も病んだER医ができあがり、いいERはできない。

(2)学ぶ姿勢のER医を育てる

ER医は肉食系ではなく、草食系の医師の方が断然うまくいく あくまでもERは病院にやってくる救急患者のコンダクターであり、効率の良い患者の流れを生まないといけない。振り分けだけをしている様ではER医は成長しない。骨折があるから整形外科を、胆石があるから消化器内科を呼ぶというような丸投げをするのではなく、初期治療はきちんとできるようにしたい。ER医がいるために臓器専門医が夜中に中等症ぐらいではあまり呼ばれないようになることに意義がある。そのためにはコンサルトをした際には、ER医は常に謙虚に臓器専門医から学ぶ姿勢を持ち続ける必要がある。決して臓器専門医と喧嘩をしている様ではいけない。学問的議論を交わすのはいいが、患者を差し置いて喧嘩をしている様ではいただけない。ER医は肉食系ではなく、草食系の医師の方が断然うまくいく。

ER医は一生懸命に初期救急を研修医に教えることで自分も成長できる。また将来研修医が臓器専門医になった折には、いい人間関係が構築できる。今のうちに救急の好きな臓器専門医を増やしておく作戦だ。その上で病院の癖をよく知り、温厚で決して患者ともコメディカルや同僚とも喧嘩しない、そして教育熱心な研修医を一本釣りして、ER医に育て上げる方が病院にとって最も効率的なER医育成法である。

(3)患者を育てる

ERのコンビニ外来化に関する批判が出現して久しいが、実の所、軽症患者がたくさん来たところで救急混雑の原因にならないことは多くのスタディであきらかである。むしろ救急外来から入院できない患者が救急外来混雑の原因を作っているのであり、ベッドコントロールや入院連携のマニュアル化をしっかりさせておく方がいい。

患者教育は忙しいERにあっても重要な仕事であり、診察終了し、患者が安心したところで患者教育を行う。予防接種(破傷風など)、飲酒運転、うつ病、コンビニ受診の予防など一般の外来には受診しないで、医学的対処が未熟な患者がいかに多いことか。医師が患者とコミットすることで、ERで患者教育ができるのである。いい患者教育をするERは、いい患者の流れができる。

ERのもうひとつの成功の秘訣は「ER」を宣伝しないことにある。来院する患者はすべて診察するが、本当のコンビニのように「いつでもどこでもすぐに診察してもらってすぐに帰宅できる」、そんな場所ではない。ERを宣伝すると勘違いして患者が押し寄せてくるので要注意だ。

一見元気そうに見えても歩いて来院する患者のうち0.2~0.7%は重症患者である。患者が自己申告で「救急」と思ったら自由に受診できるシステムを作っておかないと、一瞥だけのトリアージで診療拒否をすると必ず痛い目にあう。また研修医教育のためにも軽症で一般的な救急疾患を研修医にたくさん診せるいい機会である。「玄関をまたいだ患者はあきらめて、快く診察する」というのがERの鉄則である。

(4)ER教育プログラム

まずはマンパワーを充実させ、次に臨床に根差した教育を行うことで、臨床能力の高いチームができる 教育はERの重要な仕事の一つでもあり、コメディカルを含めてトレーニングコース(心臓救急や外傷、小児救急、症例検討会、Morbidity & Mortality conferenceなど)を定期的に開催し、研修医や看護師、その他コメディカルを養成することをしなければならない。「ただでさえ忙しいのに、教育はお金にならないし、やってられない」という批判もあるが、人を育てることの方が、最新機器をそろえるよりもはるかに大事で有効なことである。コメディカルが元気なERは元気で活気が出る。

まずはマンパワーを充実させ、次に臨床に根差した教育を行うことで、臨床能力の高いチームができる。臨床能力の高い人が集まれば臨床研究も可能になってくる。マンパワーも教育も充実していない時期に臨床研究を行うと片手間のつらい仕事になってしまう。まさしくアメリカのERはまずマンパワーを充実させ、次に教育、そして臨床研究へと発展していった。日本も今は過渡期であり、性急な変化を求めてはうまくいかなることを理解し、じっくりとまずは人を育てることから始めれば、きっといいERシステムができるであろう。

つぶれないERを組織するためのヒントを列記したが、最も大事なものは喧嘩をしない草食系シフト制ERの構築だ。一朝一夕にできるものではなく、各々の病院の文化として浸透する必要があり、数年~10年は必要になる。性急な変化を望むと潰れてしまうので、じっと我慢していいチームを作ってほしい。そこの人のいいあなた、そう、そこの研修医、あなたが日本のERの未来を背負っていくんだよ。さぁ、一緒にERをやってみないか?楽しいよ!

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