TOP 指導医向け、研修医向けコンテンツ 悩める指導医へのあるある辞典 第13回 困った患者さんは指導医の出番

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第13回  困った患者さんは指導医の出番

福井大学医学部附属病院 総合診療部 教授
林 寛之 先生
(審J2005057)

怒った患者さんの診察術・・・これぞ上級医の腕の見せ所

怒った患者さんには早めに上級医が対応すること 救急には酔っ払い、怒っている人などいろんな人が錯綜しているから面白い。でもすべての人が医療者を敵だと思って来ているわけではなく、助けを求めて来ていることを忘れてはならない。症状をうまく表現できないストレスが募る場合、自分の認識ではすごく緊急を要すると思っているのに待たされてしまう場合、とにかく不安を怒りという形でしか表現できない場合などいろんな事情で爆発してしまう患者さんがいるのも現実の問題だね。

医学的に正しい判断をしてきちんと説明することによって多くの患者さんは納得していく。とにかく不安が怒りに変わってテンパっている場合は、研修医に対応を任せているのではいけない。研修医が点滴を数回失敗したと怒った患者さんへは謝るしかないのだが、そんな危険な空気を感じたら、早めに上級医が登場し事前にトラブルを防ぐことも重要だ。早めに上級医が登場することで、患者さんを安心させるだけでなく、研修医や他の医療関係者を守る必要がある。診察前には耳も貸さずに怒っていたとしても、診察が終了し安心できれば、医療者の説明にも得てして耳を貸してくれるものである。

いかに救急外来が混雑し、重症患者から優先して診察しないといけないという正論をぶつけても、焦って怒っている患者さんの耳には届かない。医学的知識がきちんとないので、自己申告で「救急」と思っているわけだから、むしろ「あなたは緊急性が低い」と言われているような気になり、余計に怒りに火をつけるだけだ。

上級医が出ていって、いきなり殴られることもある。診察時には多くの医療者、または事務員も含めて多くの人員を集めて、まず暴れても身体抑制ができるような人数を集める。応援部隊には診察室の出入り口からすぐに見える所に立っていてもらう。いざという時の自分の逃げ道を確保するために、自分は出口に近い側に位置するように配慮する。診察室には武器になるようなものは置かない。

とにかくまずは相手の言い分を聞き、相手が心配していることに同意する。同意できないような内容の場合は、相手がそのように感じている心情はわかると承認する。とにかく話を聞いて、相手の不安を吐露させることが肝要だ。十分話ができれば、落ち着いてくる。20分も怒りを持続させるのは至難の業であり、じっくり聞き役に回ろう。よくよく話を聞くと、実は重症だったというのでは、目も当てられない。重症を待たせていたとなれば、クレームを訴えるのは至極当然なのだ。傾聴、共感は患者さんの怒りを鎮めるだけでなく、医療者のクレーマーに対する偏見も取り払ってくれ、より正しい判断へ導いてくれるものだ。

怒りを増幅させないような話し方を心がけたい。怒りを鎮める話し方10ヶ条を表1に示す。傾聴と共感・承認が最も大事だ。だがなれなれしくする必要はなく、あくまでもプロとして事態に動じない。恫喝に対しては、あなたを助けたいと思っているのに、脅かされて恐い思いをしては診療が継続できないと、毅然と、そして素直に伝える。勿論、危害を加えるような恫喝や行動に対しては、断固としてすぐに警察に助けを求めること

表1 怒りを鎮める話し方10ヶ条

1) できるだけ穏やかな声で話す
2) 低いトーンで、短い簡潔な言葉で、淡々と
3) 相手の主張をよく傾聴する
4) 相手の態度を言語化する
5) 恐いときは恐いと伝える
6) あなたを助けるためにいることを伝える
7) 事態に動じない
8) 個人攻撃を真に受けない
9) 友人・家族を味方に引き入れる
10) 相手が寡黙になったら危険信号!

カスタマーサービスからリスクマネージメントの転換へ

クレーム まずは素直に聞いてみよう 「ちゃか(鉄砲)ぶっ放すぞ」「殺すぞ、ワレ」など明らかな恫喝には素早く屈して警察を呼ぼう。殺されてまで仕事をする必要はない。もっと多くの命を助けられるのだから。

一方、まったく入院適応がないにも関わらず「入院させろ」と居座ってしまう患者さん、理不尽な要求をして絡んでくる患者さんの場合は、なかなか対応が難しい。誰かが怪我をする、器物破損などの明らかな犯罪行為と異なり、警察も簡単には動いてくれないような困った事例に出くわすことがある。いわゆる悪質クレーマーの場合、患者さんサービス精神(カスタマーサービス)からリスクマネージメントへのスイッチを切り替えないといけない。あくまでも現場の判断だけで早期の事態解決を図らないこと。お金で解決することを要求すれば恐喝になるが、悪質クレーマーは、そこは慣れたもので「誠意を見せろ」と言ってくるだけ。そんな場合は「精一杯誠意は見せていますが、これ以上何を要求されますか?」と聞けばよい。リスクマネージメントでは、院内の部署がきちんと後で対処することを伝えて、あえて結論を急がない。安易に念書も書かない。理不尽な要求に対しては積極的に結論を引き伸ばし、クレームに対して同意も反論もしない。「メディアに流すぞ」と言われても、ビビッてはいけない。相手の口に蓋はできないのだから、「メディアに流すかどうかはあなたの自由です。しかしながらそのことで当方に実害が及ぶようなら、司法の上で解決します」と言えばいい。

では物を壊したり、人を傷つけない限り、警察は来てくれないのか?否、そんなことはない。警察に助けを求めるための法律はきちんとあるのだ(表2)。悪質クレーマーの言動や行動は詳細にカルテ記載し、目撃した人もきちんと記録しておく。後で誰が関与したのかということを追跡できるようにしておく。リスクマネージャーには早期に連絡して組織的に対応してもらうようにしておく。当方に落ち度がある場合は、(1)素早いお詫び、(2)確実な実態把握、(3)組織的対応が重要なステップになる。

クレーマー対応は心も体もヘトヘトになり、大変なものだ。しかしいい組織というのはクレーム対応を大切にし、最も素早く行うものだ。クレームは見方を変えれば、「病院改善計画提案」とも言える。クレームは「面倒でダメなもの」と決めつけず、まずは素直に聞いてみる心がけも大切だ。病院が変わればもっといい病院に変われるかもしれないのだから。

表2 警察に助けを求める

威力業務妨害罪 「大声を出す」「ナースコールを鳴らしまくって仕事ができない」
恐喝罪 「診断もまだしてもらっていないのに金なんか払えるかぁ」
強要罪 「医師の説明が悪いと言って罵声を浴びせ、土下座を強要する」
暴行罪 「殴られた」「蹴られた」
器物損壊罪 「ドアを壊された」

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