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第12回  研修医教育に役立つERでの訓示とは

福井大学医学部附属病院 総合診療部 教授
林 寛之 先生
(審J2005056)

瞬時に患者さんの容態を把握し、より迅速かつ適切な治療が求められるER。時間との勝負が要される現場でもあるだけに、指導医からの指示をただ待ってばかりではいられない。だからこそ、常に心に留めておくべき“心得”を訓示として伝授しておこう。まずは一日一回、呪文のように唱えること。この“救急心得”を頭にインプットしておけば、いざというとき慌てず、落ち着いて対処できるはず。

医療の中心にあるべきは患者さん

患者さんをハッピーにするための 言わずもがな。我々の医療は何のためにあるのか。それは目の前にいる患者さんを救うためのもの。中心にあるもの、見るべきは患者さんということを再認識して。

その1 「患者さんにとっての“ハッピー”を最優先」

患者さんが求めていることは何か。それにどう応えることが医者として正しいのかを考えてこそ真のプロの医者。医学的に正しいことも大事だが、患者さんのニーズを見極めてこそプロなのだ。

その2 「たとえ真夜中でも上級医を呼ぶのをためらうな」

「こんな夜中にわざわざ呼ぶのは気が引ける」。患者さんを前にそんな悠長なことを考えてはならない。 患者さんの容態に「おかしい」と疑問符を抱いたら、迷わず上級医にコンサルトすべし。患者さんにとって大事な時間を自分の無知によって奪ってはいけない。上級医に叱られるなんて大したことではない。

その3 「必要以上に患者さんのプライバシーを詮索しない」

患者さんに飲酒運転の気配を感じたら、あなたはどうする?治療に必要な情報として得る必要はあるけれど、深追いはNG。事件性があるものは警察に任せるべき。刑事気取りはいけないよ。

その4 「深夜患者のキーワードは“重症”“わがまま”“ワケあり”」

真夜中にやってくる患者さんのパターンは大体決まっているもの。重症患者に対してはもちろん、患者さんの性格や裏事情も察しながら冷静な対処を。

救急の基本は“バイタルサイン”
患者さんが発するあらゆるサイン。その最たるものである“バイタルサイン”をどう判断するかで、その後の容態や治療が大きく左右されるのだ。どんな些細な予兆も見逃してはならない。

その5 「バイタルサインを侮るな」

バイタルサインが悪いまま患者さんを帰すべからず。バイタルサインが不安定のまま帰宅させてしまうような危ない橋を渡ってはいけない。「ホラ、やっぱり」と悪化したのでは目も当てられない。またたとえ来院時バイタルサインが悪くても、帰宅時によくなっていれば、必ず「良くなった証拠としてのバイタルサイン」をカルテに記載しておくべし。

その6 「最悪のシナリオは常に意識せよ」

死に至る頻度の高い疾患、見逃してはならない危険な病態の両面からのアプローチをしよう。鑑別診断は3つずつぐらいあげられれば良い。それでも常に最悪の事態に陥るシナリオを念頭に診察するのが救急の鉄則!

その7 「オーバートリアージもときには必要」

乳児や超高齢者、アルコール中毒、精神科疾患などの患者さんの診断はベテランでも難しいもの。家族の「いつもと違う」に耳を傾け、オーバートリアージするくらいがちょうどいい。

その8 「患者さんの痛みは“第五のバイタルサイン”」

患者さんが訴える痛みには敏感になるべし。痛みはできる限り早く取り除いてあげること。痛みに共感する声かけも忘れずに。

目指すのは、“重症になる前に助ける”医療

病気の情報共有をしよう 重症者を助けることに留まらず、重症になる前に助けてこそ本物の医師。達人への道は一日にしてならず。日ごろの心がけ、意識が重要。

その9 「焦点を絞った身体所見を心がけよ」

大まかに“異常なし”と記載するのはただのサボリ。見逃すことのないように、確実な身体所見を行なうこと。目や口腔、皮膚所見、神経所見は見逃されやすいのでご注意を。

その10 「重症になる可能性をいち早く見極めろ」

“重症患者は救急車でやってくる”。そんな思い込みは今すぐ捨てて。一見、重症者に思えない患者さんでも重症の可能性を見つけ出し、いち早く同定できる目を養うことが“医療の達人”の一歩に。0.2~0.7%の患者さんは「歩いてきたのに、急にバッタリ」となるのだ。

その11 「経時的変化の重要性を患者さんにも伝えること」

AMI、虫垂炎、頭部外傷の遅発性出血など経時的変化をみないと判断がつかない疾患があることに加え、悪化した際の対処法の共有を患者さんにも認識させること。我々の敵は医者でも患者さんでもない 、そう、病気が共通の敵なのだ。

その12 「飲食できない患者さん、身寄りのない患者さんを安易に帰さない」

自分で食べたり飲んだりできない患者さんや看病してくれる家族のいない患者さんを安易に帰宅させてはならない。容態の急変に備え、まずは救急での経過観察を優先し、入院の必要性を決定。必要に応じて早期にソーシャルワーカーの関与をお願いしよう。

その13 「疑問符が浮かんだら迷わずコンサルト」

“緊急を要さなそうだから診断がつかなくてもいい”だなんて思ってはダメ。腑に落ちない診断は必ず上級医にコンサルトを求めて。意外に、腸間膜動脈閉塞症、一酸化炭素中毒、腎梗塞、腸腰筋膿瘍、肝膿瘍、肺塞栓などの疾患だったということも大いにありうるのだから。「思い浮かばなかった」という言い訳で患者さんを危ない目に合わせるのではなく、こういう時こそ上級医の経験や勘を見せてもらおう。

身につけるべきは知識、技術、そしてプロフェッショナリズム

百聞は一見にしかず まずは患者さんを診よう! 医療人としての知識や確かな技術は身についていて当たり前。その先のプロフェッショナリズムを極めてこそERで活躍できる真の医師。

その14 「患者さんを前にしたら“若葉マーク”は取り外せ」

患者さんにとっては若手もベテランも通用しない。ACLS、JATEC、PALSは特に重要。いつどんなときにも対処できるよう日ごろから勉強を怠ってはならぬ。髄膜炎や肺炎など治療の遅れが予後に関与する場合があるので、検査後の抗菌薬の早期投与は常に意識すること。

その15 「アドバンストリアージはより冷静に」

診察、鑑別診断、処置、方針決定といったアドバンストリアージが冷静にとれるよう、日ごろから意識すること。自分の対応できる領域や限界を真摯に受け止めて、無謀な冒険はしないこと。

その16 「診察に対する患者さんの理解度を深める努力を」

勝負は診断後。診断に対し、本当に患者さんが理解し、納得したかがその後の治療を左右する。患者さんの理解度が期待のもてる治療の足がかりに。患者さんが納得していない治療は、意味が無い。医学的に間違った期待をされている場合は、きちんと正しく教育するのが我々の仕事。説明が邪魔臭いからなどと言って手抜きはいけない。

その17 「腕を上げたいなら、まずは患者さんを診るべし」

机上の勉強では医療の腕は上がらない。百聞は一見にしかず。できるだけ若いうちに症例をたくさん診なければ知識は何の役にも立たない。数をこなしつつ、机上の勉強もする。そんな絶妙なバランスが良医を生むのだ。

その18 「患者さんにも上級医にもパラメディカルにも敬意をはらってこそ一流」

対患者さんはもちろん、頼って当然と思いがちな看護師や放射線技師、救命士などにも感謝し、心優しい医療ができてこそ、真のプロ。

その19 「服装の乱れはそれだけで“ヤブ”」

たとえ研修医でも患者さんにとって医者は病院の“顔”。初対面で悪印象を抱かれてはよいことひとつもなし。服装などプロとしてのいい意味での気位はもつべき。

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