TOP 指導医向け、研修医向けコンテンツ 悩める指導医へのあるある辞典 第11回 研修医教育は邪魔臭い?

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第11回  研修医教育は邪魔臭い?

福井大学医学部附属病院 総合診療部 教授
林 寛之 先生
(審J2005055)

研修医教育って邪魔臭いという意見がちらほら聞かれる。地方はどこも医師不足でそんなこと言わないで喉から手が出るほど人手が欲しいのに、なんと贅沢な・・・という人もいれば、以下のように初期研修医教育とはまったくかけ離れたスタンスをとっている人もいる。

ある指導医
「だってさ、外来もあるし、入院もあるだろ。その上、地域は医師不足でピーピー泣いて、中間管理職の俺達はもう身も心も削って働いてるわけよ。なのに、世間や家族は同情してくれても、実働時間は減らないんだよね。そこに全く使えない初期臨床研修医が来て、金魚の糞のようにくっついたって、気は落ち着かないし、一休みすらできないよ。それでいて教えたって、打っても響かないだろ?『こうやるんだ』って教えても、『それ、エビデンスあるんですか』なんていわれた日にゃ、興醒めするってものでしょ。『じゃ、お前やってみろ』と言ったってできもしないのに、偉そうに言いやがって。そして文献ひとつ読んだだけでエビデンスエビデンスなんて言われた日にゃぁ教えるのも嫌になっちゃうよ。どうせ俺の科の同僚になるわけでもあるまいし、一生懸命教えても何の得にもなりゃしない。あぁ、初期研修医なんていらない。教えるのはホント邪魔臭いしなぁ。せめて後期研修医が来てくれればなぁ・・・」

他の科に行っちゃうしな この指導医の言い分、確かにある程度理にかなっていて、涙すら誘うような気になるのは私だけ?でも病院を一番牽引している中間管理職のバリバリの上級医こそ本当の意味で指導医になってくれるのが一番理想なのだ。では視点を変えて見てみよう。

「森林証券修正度?」、森林組合の証券を見直す制度かと思いきや、なんだ「新臨床研修制度」かぁ。コンピューターも悩ませるこの制度、指導医だって頭を悩ませっぱなしだ。臨床研修病院はこの制度に振り回され、医者を非人間的に扱ってきたツケを棚に上げ、医者不足をこの制度のせいに押し付けている感があるが、確実にこの制度以降の研修医の質は向上しているのをひしひしと感じる。「それってうちじゃないですから~。診断は・・・とにかくうちじゃないですから、さようなら」などという無責任な専門バカを笠に着て逃げることが許されないのが、この制度卒業生に課せられた枷(かせ)だからだ。「当直で逃げない医者を作る」「救急車のたらい回しをさせない」「専門に関わらずまず患者を診察する能力をつける」という大命題の下に始まった制度であり、短期間とはいえ、医者になってから多くの科をローテーションして得るものは大きい。ちょっとした取っ掛かりで継続して勉強する機会が与えられているのだ。社会のニーズにマッチした素晴らしい制度の中で研修できる今の初期研修医は非常に得していてうらやましい。

一方、指導医の方から見れば、自分達は手取り足取り教えられた経験が無く、むしろストレート研修だったがために、将来同じ釜の飯を食う同胞として、先輩が子分としてこき使いながら見よう見真似で徒弟制度ヨロシク教え込むというスタイルだったから、この森林・・・いや新臨床研修制度の研修医は自分の子分でもなく、世代も違い、なんとなく教えにくく感じるのも無理はない。

また、この初期研修医への指導法を教える「指導医講習会」なるものがある。なんとも眠いカリキュラム(睡眠導入剤か!?)だが、なんとか研修医をゴミではなく、人間扱いして教える合理的な術を学ぶのだ。教える側には「未知との遭遇」=「新臨床研修制度下の初期研修医」に他ならない。昔の「飲みニュケーション」が通じる古き良き時代は過ぎ去ったのだ。

視点を変えてしっかり教え込もう!

初期臨床研修制度のおかげで守備範囲の広い医師が養成されるのは社会のニーズにも沿っていて重要なのは前述した。では指導医にとってメリットはないのか?いえいえ、実はメリットがたくさんあるんです。

1)初期研修医教育をリクルートにつなげる
いくらクールな初期研修医が増えたとはいえ、既存の医局制度が崩壊し、自分の将来を不安に思っている現われでもある。今も昔も医師を目指す若者の大半は熱心な勉強家であり、いかに効率よく、有用な勉強ができるかが大事なモチベーションになっている。つまり徒弟制度ではなく、きちんとした教育を求めているのだ。昔はそんなものは望めなかったが、今はやっきになって教育に力を入れている施設も多い。

後期研修医は同じ釜の飯を食うものとして教育に熱が入るのも納得がいくが、実は初期研修医をある程度受け入れないと、いい人材の後期研修医は望めない。したがって、初期研修医をしっかり教えることで質のいい後期研修医のリクルートにつなげるという思惑がわいてくる。後期研修医が増えれば、指導医の雑用は減り、教育に力を入れる時間ができてくる。夜中の急患は後期研修医は見たくてたまらなく、指導医は体力の温存ができる。家族といる時間が増える。長生きできる。あぁステキな人生。家の基礎工事が大事なように、指導医が楽をするためには、初期研修医からせっせと種をまく作戦が一番効率がよく、質のいい後期研修医をゲットできるのだ。邪魔臭くても初期研修医への教育投資は、将来の自分の生活をよくするための布石と思うべし。ウッフッフ・・・

良いロールモデルとしての心がけ 2)病院の質の向上につながる
教えないといけない人がいれば、指導医もアップデートした知識を仕入れ勉強しないといけない。金魚の糞よろしく、後ろにくっついてくるものだから、常にロールモデルとして患者サービスをよくして臨床のできる医師を演じるよう気を張っていなければならない。実はこれはどれも病院や医療の質を上げる方策ではないか。 後ろに初期研修医がいるだけで、いばれる・・・のではなく、病院の質向上(医学レベルの向上、患者サービスの向上)につながっているのだ。

3)エビデンスに惑わされるな
世の中エビデンス流行だが、実際にエビデンスのある治療なんて4割ほどしかない。むしろエビデンスが確立していない方が多いのだ。研修医が本当に望んでいるものは、「早く一人前になりたい」それだけなのだ。特に初期臨床研修では最低限の知識や技術を身につけなければならず、必死なのだ。ここが指導医の太っ腹の見せ所。手技はなるべく指導医の責任でさせてあげよう。いきなり患者さんを実験台にしてはいけない。しっかりシミュレートし、合併症や禁忌を教えて、手取り足取り教えてあげる。なんと簡単な手技でもさせてもらえると非常に喜ぶから初期研修医はとてもかわいいものだ。EvidenceよりもExperienceを重視した教育、ひいては臨床力を今までどおりのやり方で見せることが一番大事であることを認識したい。自信を持って、自分の背中を見せる勇気を持ちましょう!知識や技術をやってみせ、させてみて、誉めながら教え込むことの方が、エビデンスのウンチクをたれるより、ずっと研修医は満足してくれる。有名であることや、インパクトファクターの高い論文数が多いということは、研修医の指導医に対する評価とは無縁であり、実臨床のできる患者に優しい指導医にこそ研修医の高い評価は集まるものだ。

そして「その気にさせる教育」こそが次世代の良医を育て、社会に貢献するのだと思いましょう。

初期研修医教育を邪魔臭がってはいけない

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