TOP 指導医向け、研修医向けコンテンツ 悩める指導医へのあるある辞典 第10回 目指せ、患者さんとハッピーコミュニケーション

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第10回  目指せ、患者さんとハッピーコミュニケーション

福井大学医学部附属病院 総合診療部 教授
林 寛之 先生
(審J2005054)

診察をしているとどうしても出てくる患者さんと医者の見えない壁。とかく、患者さんの心配は医学の非常識であり、逆に、医者の常識は世間の非常識というものだ。その点を理解し、身体だけではなく、患者さんの心もハッピーにしてこそプロの医師。患者さんにとっても、医師にとっても、病院にとっても満足度の高い医療を実現するヒントを一緒に考えてみよう。

なぜ子どもの深夜診療が多いのか?その裏に隠れた真実とは!?

保護者のおかれた状況をくみとって共感しよう 深夜に高熱の子どもを抱え、緊迫した表情で診療室に駆け込んでくる母親。子どもはワンワンと泣き叫び、母親は「熱が下がらないんです!何とかしてください!」と詰め寄る。医療現場ではそんな状況はもはや日常茶飯事だ。そのたびに「日中に連れてこないで、何で今頃…」と胸の中でつぶやきたくなるのも分からないわけではない。けれどもよく考えてみて。今のご時勢、保護者のほとんどが共働きだ。となると、会社を突然に休んで病院の診察時間内に子どもを連れて行くのはやっぱり大変なのではないだろうか。どうせ治療をするなら、イヤミは禁物!母親が抱いている心配事、生活や育児に対する不満、苦労を聞いてあげるなど、保護者のおかれた状況を汲みとって共感してあげれば診療はスムーズに進むはず

また、多くの親はfeverphobia(熱恐怖症)と思っていてもよいだろう。「体温が37℃を超えると“熱がある”」「熱と重症度は相関する」「高熱は脳がやられてしまう」「熱があったら即抗生物質」「熱は何が何でも下げなければ!」。以上、これらの妄想こそが熱恐怖症の症状である。もちろん、すべて答えは「NO」である。それだけ保護者とは過大な不安を抱いているものなのだ。その不安を丁寧に解きほぐすことが大切。小児医療は、患者さんがふたりいると思って間違いなし!

難解な医学用語は患者さんに対しては使用禁止!

研修態度も熱心で勉強も怠らないとある研修医。患者さんに対して、分かりやすく丁寧に説明しているというのに、なぜか患者さん受けが悪い。そこで彼の診察の様子を覗いてみると…。あらら、これは大変!救急外来を受診した小児の母親に対して、発熱のことを「熱発」、咳の様子を「咳嗽」、熱の原因を「細菌感染ではなくウイルス感染」と言っているではないか。上級医へのプレゼンテーションなら合格点だが、医療に対して知識のない患者さんに対してとなると残念ながら不合格。第一、言われた患者さんは頷きながらも顔は困惑した表情を浮かべているではないか。説明に必死な研修医はそれにも気づいていないようだ。実際に、こうした医者と患者さんとの認識のズレというのは、悲しいかな研修医、ベテランに限らず多いものなのだ。ほとんどの患者さんやそのご家族は医学用語をまったく知らないと心得よ。そして、半数以上の方が「感冒の治療には抗生物質が必要」などといった“非常識”を常識と思い込んでいるもの。そんな思い込みを解くためにも、説明は平易な言葉を選び、相手によって説明の仕方を使い分けてこそプロの医師。だからこそ、指導医も自らが医学専門用語を使用しないわかりやすい説明を研修医に見せることも大切になってくるのだ。説明が邪魔臭いから、風邪でも抗菌薬を出しちゃう?・・・そりゃ、医原性耐性菌産生病だ。

性格別アプローチ術を知れば、患者さんとの軋轢も激減!

いくら患者さんと医師という間柄といっても、相性というのがあるんだよね。よい関係が築けなければ、よい診察というのはできないもの。そこで、「患者さんの性格タイプ別アプローチ術」をお教えしよう。

これは内向的か外向的かといった思考、直感的か現実的かといった感情の癖をもとに、性格を4つの色(赤、黄、緑、青)に分類し、それぞれにあったアプローチ法を考えるもの。

例えば、赤のタイプの特徴は「長所:自信家、情熱的、チャレンジャー/短所:傲慢、短気、攻撃的」。それに対してのアプローチ方法は「OK:結論から話す、相手に決断させる/NG:だらだら話す、押し付ける」。前面に出たいタイプなので、褒めて育てるのがいい。理詰めは嫌うので、勢いや感情を重視しよう。尻切れトンボになってどこかへ行ってしまわないよう、定期的にフィードバックするのを忘れずに。

黄タイプは「長所:社交家、楽天的、活動的/短所:ルーズ、無計画」。アプローチ方法は「OK:スピーディー、おもしろい話、複数行動/NG:つまらない話、単独行動」。論理的に動くことができるが、命令されるのはあまり好きではない。選択枝を与えて最終決定は本人にさせて主導権を与えてあげたほうが良い。天気の話など無駄話はNGだ。

緑タイプは「長所:平和主義、温情的、人がいい/短所:事なかれ主義、八方美人」。アプローチ方法は「OK:相手のペースで、謙遜した態度/NG:せかす、強要する」。協調性を重視するタイプなので、自分の意見を持っていてもにこにこして合わせてくる。きちんと意見を引き出して聞いてあげるのも大事。結果よりも過程を重視して褒めてあげよう。勝手な行動や押し付けはよくない。協調性、協調性と唱えて接するべし。

青タイプは「長所:分析家、理論的、まじめ/短所:冷酷、つきあいにくい」。アプローチ方法「OK:十分な情報を与える、データ重視/NG:感情的な対応、コロコロと提案を変える」。勢いや洒落で物事を進めてはいけない。きちんとデータを提示し、論理的に話をすれば強力な助っ人になる。途中の計画変更はNGだ。感情よりも仕事の出来をしっかり褒めよう。

相性が悪いと決め付けるよりも、相手の性格を知った上で冷静に対応できれば、人間関係やコミュニケーションでのストレスはかなり激減しますよ

患者さんの性格タイプ別アプローチ術

時間外救急は現代の駆け込み寺。DVも見逃すな!

夜間に働いていると、本当にいろんな患者さんがやってくるものだ。中にはさまざまな事情を抱えた患者さんも。その隠れた事情を見抜くのも医師の役割なのではないかな。例えば、患者さんが「転んでケガをした」と言っても、転んだ状況があいまいだったり、目線を合わせなかったり、病歴と身体所見が合わなかったり。その患者さんが女性だった場合には「DV(Domestic Violence)」を考慮するくらい、機転を利かせてほしい。

  • ・外傷の受傷機転があいまいでつじつまが合わない
  • ・目線を合わせず、話もしたがらない
  • ・受傷から受診までの時間に開きがある
  • ・救急受診回数が異様に多い
  • ・つきそいの夫が妻の傍から離れようとしない、積極的に口をはさむなどその行動に異常を感じる
  • ・妊婦

以上の事柄にピンとくれば、DVを疑うべし。ちなみに、ご存知ない方も多いかもしれないがDVの20%近くは妊娠中に起きているのだ。もし、DVではないかと思い当たったら、レントゲン室へ移動させるなど妻を夫から隔離する状況をそれとなくつくることが大切。そして、出来る限り優しい口調と態度で「この傷は、もしかして暴力によるものではないですか?」と聞いてみて。その際には、「私はあなたが心配なのですよ」と、常に患者さんのために自分がいるのだということを強調。そして、患者さんの置かれている状況と外傷の状況を把握し、公の相談機関の連絡先を教えたり、ときには警察への通報も重要だ。命の危険にさらされるような外傷では本人の同意無しに警察を呼ばなければならない。

現状において、時間外救急は患者さんたちの駆け込み寺的存在なのだ。そして、ときには犯罪を防ぐ地域のコーディネーターとしての役割を担っていると知っておいてほしい。

効果的な患者教育の方法を身につけて満足度もアップ!

「患者教育」を効果的に と、ここまで聞いていると、「そんなきれいごと言われても、実際は」という気分になるよね。うん、分かる分かる。医者が聖職者のごとく、いつでも懐深く受け入れる準備ができるようになるには時間がかかるものだ。軽症の風邪にもかかわらず、熱が出たとなったら深夜でもおかまいなしの患者さんに対応しながら休む間もなく働いて、体も心もクタクタになって誤診を招いてしまっては本末転倒。

そうならないようにする手段として、僕たちが必要とするのは「患者教育」。

この患者教育のコツは、患者さんを持ち上げる→こちらの言い分を伝える→相手の協力に感謝の意を伝える。例えば、微熱の子どもを抱えながら「主治医に診てもらいたい」と訴える親に対しては、まず「○○先生に診てもらっているんですね。私もよく教えてもらっています」とひと言。次に「今回はいろいろなご事情があってこの時間に受診されたのでしょう。お疲れさまでした。もし、今後、同じような状況であればとくに緊急性も要しないのでひと晩様子をみて、日中の外来での受診の方が主治医の先生にじっくり診てもらえるので安心ですよ。逆に夜間は一般外来とは違って、担当の医師が常駐しているわけでもなく、本当に緊急を要する患者さん優先で応急的な診療をしているので。どうぞよろしくお願いします」と、笑顔で頭を下げればカンペキ。ただし、この患者教育、診察が終了し、患者さんも安心して帰れるとなってから話をすることがコツ。くれぐれも診察前に指導しないように。ただの嫌味にしかとられないからね。

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