TOP 指導医向け、研修医向けコンテンツ 悩める指導医へのあるある辞典 第19回 バーンアウトしないために

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第19回  バーンアウトしないために

福井大学医学部附属病院 総合診療部 教授
林 寛之 先生
(審J2005063)

臨床だけをしていればよい時代は終わり、患者教育、看護師教育、それに加え、研修医にもしっかり教育しないと病院自体が生き延びられない世の中になった。時間外の仕事もなかなかストレスが多く、疲労と仕事量のプレッシャーから、「ほら、だんだん人格が崩壊してくる」と感じることもあるとか、ないとか・・・

バーンアウト(燃え尽き症候群)とは・・・

・情緒的消耗感

・脱人格化

・個人的達成感の低下

バーンアウト(燃え尽き症候群)とは・・・ 疲労が蓄積してくると、くよくよして精神的に追い詰められてくる。優しかった人格もちょっとしたことで爆発しそうになってしまう。爆発するのは簡単だが、周囲のスタッフからの信頼をなくすのは一瞬だ。信頼を再度勝ち取るには並々ならぬ努力と時間が必要になってくるから、そのしっぺ返しは大きい。今までは困難な症例を救命することに生きがいを感じていたのに、患者さんの言い分を遮って、つい怒ってしまい、仕事がつまらなく感じるのは危険信号。医者としての生きがいを失ってきていることになる。疲れすぎた医者は集中力も失い、患者さんのために働いているはずなのに、患者さんを憎く思ってしまうこともあるなんて、最も患者さんにとって危ない存在になってしまう。寝不足の医者が診察するのは酔っ払いが診察することに匹敵する注意力しかないというから空恐ろしい。疲労が慢性化し、バーンアウトしかかると、自分のコンディションにも疎くなってしまい、自分が肉体的にも危険な状態かどうかも気づかないで働いてしまい、しまいには医療事故につながってしまうので、くれぐれも自分のストレスには敏感になるようにしておきたいものだ。

えっ?仕事が趣味だから休みなんていらない?でもつい皮肉を言ってしまって患者さんに優しくできない?家族と過ごす時間もない?同僚は別に友達じゃない?研修医指導なんて面倒くさい?飲酒も増えた?ン~・・・危ないなぁ・・・

バーンアウトの危険因子

救急医の半数以上が仕事に満足しているものの、約1/3は日々の仕事に非常なストレスを感じているという。

バーンアウトの危険因子として、個人の性格・生活要因や社会的要因が関与してくることがあるものの、仕事の要因は大きい。

<仕事の要因>

・日夜を問わず続く勤務

・シフト制でも時間どおりに終わらない

・暴力の危険

・感染の危険

・救急外来の混雑

救急では毎回新患ばかりであり、仕事内容が予測不能である。計画的に同じような患者さんが来るわけではないことが、救急という仕事を面白くしているわけだが、疲労が重なってくるとそれがストレスになってくる。非常に重症ならアドレナリンがでるのだが、コンビニ代わりに救急を利用され、酔っ払いに絡まれると気持ちがなえてくるのも理解できる。夜中のシフト勤務、16時間勤務は当たり前で、過重労働から疲弊すると正常な判断をするのが難しくなってくるだけでなく、訴訟が増えてきた昨今「完璧」を求められるとたまったもんじゃない。常に複数の任務を与えられ、サービスもよくなんていうと、こりゃぁしっかりとした体力が保てる余裕のあるシフトを組んでもらわないといい仕事をするのは無理というものだ。

患者さんを入院させたくても、平気で「これはうちじゃない」と断ってくる臓器専門科とのつばぜり合いも精神をすり減らす。勿論各科の医師も日中働いているわけであり、夜中にまでいい顔をしろというのは無理というもの。ここは夜当番の各科医師は、日中は休むというようにシステムを変えればいいのだ。だけど夜に働きたい医者ってそんなにいるわけじゃないんだよねぇ。医師同士が夜中に喧嘩するのはみっともない。プロ意識を持って、ここは仕事に頭を下げると考えて頭を垂れよう。夜中に心を折る必要はない。自分が誇りをもった仕事に頭を下げるのだから、いいじゃないか。頭を下げて気持ち良く患者さんを引き継げれば、患者さんもいい治療を受けることができる。患者さんのため、仕事のために頭を下げると考えれば、夜中のつまらないつばぜり合いも起こらない。引き受ける各科専門医だって疲れているんだ。優しく接するのがプロというもの。

体や心がすり減っても頑張れるのは、お金のためではなく(夜中の割に大して給料もよくないけど)、志の成すものであり、患者さんからの感謝こそ一番の元気をもらうのだが、体力が尽きれば最善のサービスもできず、患者さんから感謝される機会も減ってしまうという悪循環に陥ってしまう。

個人の献身的努力に頼るのではなく、政府や病院管理者はどのようにして仕事の要因を減じることができるかを、社会全体でその対策を講じる必要があるだろう。

危険信号をつかめ

自分がストレスで疲弊しきってきているかどうかを早めにキャッチしてリフレッシュすることが大事だ。危険信号がでてくると、怒りっぽくなり、皮肉とため息が多くなる。仕事に責任感を持たなくなり、遅刻するようになる。食生活や飲酒も乱れてくる。不定愁訴の体調不良を訴えるようになる。これは自分も敏感になる必要があるが、同僚も気を付けてお互いを助けあわないといけない。自分のストレスに敏感になったら早めに休む、とにかく休む、何もしない時間を作るのは再度エネルギーをためるには是非とも必要であり、仕事場もそれを許容する雰囲気を作らなければならない。

<危険信号>

・3つの兆し:自己懐疑、罪悪感、誇大義務感

・リラックスできない

・休暇をとれない

・慢性的な不満足

・限界を設定できない

・罪悪感があり、自己満足と自己中心とを混同してしまう

・責任に対する不十分な感覚

・家族関係が不安定

救急医って脱落率が高いの?

Galleryらの報告によると、救急医は1年以内に12.4%がやめ、5年以内に26.7%がやめたいという。今後10年は続けるつもりというのは42.9%しかいなかった(Ann Emerg Med 21: 58-64,1992)。こんな報告をするもんだから、救急医なんてなるもんじゃないという風潮ができてしまったのではないかしら?でもこれはあくまでもやめたいという願望であり、ストレスが多いんだという愚痴を集めたに過ぎない。本当にやめたかどうかを表したわけではない。

Gindeらによると救急専門医の87%が仕事を続けていた。救急をやめる時期は2つのピークがあり、専門医取得後2年以内(6.5%)と、卒後20年以降(卒後20年で18%、卒後30年で25%)であった(Ann Emerg Med. 56:166-171,2010)。明らかに卒後20年以降はリタイアであり、これは普通に全うしたと言える。卒後すぐに去るのは救急という仕事が肌に合わなかったとやめていくだけでそれほど多くはない。他の時期は一定の離職率があるもののそれほど高くない。つまり救急という仕事は、ストレスが多いものの、思いのほか離職する人は少ないということだ。そりゃそうだ、こんなにチャレンジングでアドレナリンが放出しエキサイティングで、テレビのERのようにロマンスあふれる(嘘)仕事場を離れたい人はそんなに多くはないのだ。

ERでのストレスマネージメント

ERでのストレスマネージメント 自分の行動をコントロール:頭でわかっていても行動を生まなければいい循環には入っていかない。とにかくいい行動に出ることだ。ストレスは必ずしも自分のコントロール下にあるわけではなく、約8割は避けることができないことが多い。人の行動をコントロールすることはできないが、自分の行動はコントロールできる。つらい時こそ笑い、笑顔を作ろう。明るい言動を心がけよう。体調管理に気を付け、睡眠を十分にとり、定期的に運動し、趣味を持つ。健全な体を作るのが一番なのだ。

コンサルト医が気難しい場合:ストレスの対象の見方を変えよう。ストレスを与え、怒りっぽい人は「かわいそうな、憐みをかけるべき人」であると見てあげよう。相手の怒りが私生活や仕事に由来するのであれば、それもある程度は理解できるだろう。「怒らないといられない状況にあるんだ。大変だなぁ。怒ってばかりいるとストレスがたまって大変だろうな」と見てあげよう。相手がストレスで怒っているからと言って自分も怒る必要はないのだ。自分がコントロールできないストレスにはケセラセラ!Who cares?の精神も大事。誰も自分の人生を思ってアドバイスしているわけではない。心にため込まないようにさらっと流してしまおう。偏屈なコンサルト医に頭を下げることに卑屈になる必要はない。患者さんのために頭を下げるのだから、いいじゃないか。プロは自分の仕事に誇りを持ち、仕事のために頭を下げるのは美しいのだ。

対応困難な患者さんの場合:自分の患者さんに対するネガティブな感情を認識し、偏見なく患者さんを受け入れるようにする。ひとそれぞれ価値観が違うので、違いを認めることである。情緒をコントロールし、軽症であればさっさと治療し帰してしまうのもいい。中等症以上なら複数の医者で対応し、偏見なく診断していくようにするといい。

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