TOP 指導医向け、研修医向けコンテンツ 悩める指導医へのあるある辞典 第18回 研修医の尻拭いのためならば・・・怒った患者さんの対応

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第18回  研修医の尻拭いのためならば・・・怒った患者さんの対応

福井大学医学部附属病院 総合診療部 教授
林 寛之 先生
(審J2005062)

「研修医になんて診てもらいたくない」と怒る患者さんの対応

怒った患者さんの対応こそ研修医教育の絶好のチャンス 医療訴訟は後出しじゃんけん当たり前、確率論で勝負する実際の臨床の難しさを尻目に、結果論で攻めてくる昨今の風潮にぎすぎすした隙間風が吹くのを感じている人も多いはず。研修病院を受診したのに、「研修医になんて診てもらいたくない」と堂々と怒りをあらわにする患者さんもいる。医者だって必ずしもみんながみんな仏様のような人物ではないように、患者さんだって勝手気ままな人もいるのが現実なのだから仕様がない。ここは指導医として、研修医を守るつもりで、そんな患者さんを説得するのではなく、さっさと診察してあげよう。指導医がでてくるタイミングが遅れれば遅れるほど話がこじれることになる。研修医に試練を与えるのもいいがあくまでもテーラーメイドで。また「研修医の試練だから」と言って、患者さんの感情を高ぶらせるだけ高ぶらせるようではプロとしていただけない。

怒る患者さんとは、医学的に正しいとか、倫理的に正しいとか、そんなレベルの話が通じないことが多い。そこをあえて戦うのが正しいのか?いや、ちょっと待って!医者の敵は患者さんだったっけ?否!我々の共通の敵は病気なのだ。患者さんをやり込めたところで、嫌味な医者とみられるだけなのだ。医療は勝ち負けではない。患者さんを満足させてナンボなのだ。

ここはひとつ視点を切り替えてみよう。ちょっと後ろを見てみよう。ホラ、不安そうな、または不満そうな研修医が見ている。研修医は指導医の背中を見て育つもの。ここは患者さんの我儘もすべて許して懐の深い医師を演じて見せてあげよう(勿論、そんなフリをするまでもなく、皆さんは心の広い医者であることは言うまでもないが・・・)。怒る患者さんに対して、指導医が安易に喧嘩をしてしまうと、将来患者さんと平気で喧嘩をする医者が育ってしまう。研修医がドジったおかげで患者さんが怒って収拾がつかないこともある。しかしここは素直に頭を下げよう。怒った患者さんの対応こそ、研修医教育の絶好のチャンスなのだ。研修医の尻拭い上等。指導医が頭を下げる回数の分だけ研修医が良医に近づくことにつながると信じて疑わない確固たる妄想体系を持ってしまえばいいのだよ。仏のような医者を量産するのは我々指導医の大事な仕事だと割り切ろう!

「怒らない選択」のメリット

自分の怒りをコントロールすることで多くのことが見えてくる 実は怒りに対して怒りで返すのは比較的簡単だ。誰でも防衛本能があるもの。しかしながら、医療はいろんなところに落とし穴がある。医療訴訟が多い昨今、「実はこんな事情が・・・」と後で様々な事情を明かされても、ひどい態度を取ってしまったら引っ込みがつかず、人間関係が悪化した後は詳細な病歴も取れずにすなわち見逃しにつながってしまう。実は一見軽そうに見える重症だったなんて後でわかったら、最初から研修医に診せている場合じゃなかったはずと法廷でいじめられる羽目になる。ここでまたひとつ視点を変えよう。たとえ世の中が理不尽だったとしても、自分の行動は自分でコントロールできる。怒った患者さんに対して、瞬間湯沸かし器のように怒り返すのは思慮深くない。怒らない選択もありうることに気付こう。怒らないことでいろんなことが見えてくる。怒る患者さんにも一理あるものだ。患者さんがうまく自分の心配や病状を訴えられないもどかしさが怒りとなって出ているだけかもしれない。身内に不幸がありそれがきっかけで必要以上に心配しているのかもしれない。自分の怒りをコントロールすることで多くのものが見えてくるものだ。人間怒りがそうそう持続するものではない。Dr林の「叱られ20分の法則」をためしてみて欲しい。どんなに怒っても20分続けて怒るのは相当エネルギーがいる。20分間患者さんの思いのたけを受け止めてあげると、患者さんはすっきりするものだ。

それでも理不尽な場合はどうするのか?確かに理不尽極まりないこともある。きっと時間が解決してくれる。またはこんなことがあったとネタ帳に書き留めておこう。書くことで客観的に物事が見えることもあるし、後日勉強会のネタになるではないか。現場では、淡々と患者さんをよくすること、患者さんをハッピーにすることに専念しよう。医療は感情労働だ。Do no harmの原則で患者さんの命に危険を及ぼさない限り、患者さんの要望をかなえてあげよう。患者さんを喜ばせてナンボと割り切ることも重要だ。

カスタマーサービスとリスクマネージメント

中には「誠意を見せろ」「土下座しろ」などもう医者患者さん関係を大きく踏みにじるような行為に及ぶこともある。そうなったらもうカスタマーサービスではない。リスクマネージメントと頭を切り替えて対処する必要がある。ここが中々経験が必要だが、犯罪まがいの脅迫には決してひるまず、また戦わず、すぐに警察の応援を呼ぶといい。警察を呼ぶタイミングが遅ければ遅いほど、恫喝はエスカレートする。器物破損や暴力には断固として、我々は戦わず、すぐに警察に戦ってもらうべし。警察を呼ぶ法律をしっかり押さえておくことも大事だ。以下を参照して欲しい。また警察の初動をよくしてもらうには普段からの付き合い方がものを言う。常日頃、交通事故などで警察が出入りすることもあるだろうが、顔の見える関係をきちんと築くような努力を常日頃心がけたい。いざという時にやっぱり警察は役に立つんだから!

カスタマーサービスとリスクマネージメント

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