Inputとoutputのバランスが質の高い勉強を支える
その(1) Inputの強化
後期研修医になると、なかなか教えてくれる人はいない。初期研修医ほど知らないわけでもないし、ウンチクをたれると上級医に嫌われるし、プライドも手伝って自分で調べないといけないし、となかなか楽して勉強する道はなさそうだ。そう、後期研修医こそ自分達で勉強しないといけないのだから。アップデートされた医療情報をどう集めるかが、みんなの悩みだよね。これには近道はないんだよ。しかし訓練で情報収集の速さ、正確さは格段に上がり、効率が良くなる。そして10年先の自分の勇姿を見据えて、自分のデータベースを作成することだ。情報収集力の強化だ。
これは2つに分けて考えるとよい。
1)review articleの収集
2)自分の専門分野のoriginal articleの読破
私自身は、毎月最初の2週間は文献集めの期間と決めている。ひたすら文献を集めるのだ。ただし、質のいい論文には時間をかけ、無駄な論文には1秒たりとも時間を割いてはいけないと言っても過言ではない。「いや1秒じゃ判断できないでしょ」って、その通り。すみません。言い過ぎました。review articleを集めて読んでおく事は、スタンダードな広い知識を得るのに有用であるだけでなく、初期研修医を教える際に有力な資料になる。初期研修医の指導の際にすぐに取り出せるようなファイリングをしておく。最近はPDFで落とせる論文も多いのでコンピューターで管理すると便利だ。
UpToDateは忙しい臨床医にはありがたいreviewだ。教育病院でUpToDateを購読していないのはやや○○だ(おっと、F県立病院もそうだったぁ・・・)。ならば仕方がない、自腹を切りましょう。家庭医学のAmerican Family Physicianもわかりやすく解説してあることが多く、他科の知識を仕入れるにはいいとっかかりができる。昔はフリーだったが、今はお金を払わないと読めない。
四天王ジャーナルは必ず目を通しておこう。ただし自分に興味のない論文は読み飛ばしてしまえばいい。病院で医学雑誌をとってくれない場合は困るが、大学病院だと多くの文献がひける。コモンな症例は少ないが勉強環境の整った大学病院で勉強するか、論文は十分そろわないが実践で数多くの症例と対峙して腕を磨くか、悩むところだが何事もバランスだよ。バランス感覚も磨かないとね。
また自分の専門分野のoriginal articleは他科の医者には興味がなくとも、専門医になるからにはおさえておきたいものだね。専門科の雑誌は最低5年分は読破してoriginal articleに強くなる。最近の流れがわかれば記憶の定着も早くなる。勿論、過去の雑誌を読むのではなく、これから読んでいけばそれでいい。
10年先を見据えたデータベース作成はコツコツとした地道な努力が必要だ。自分でテーマを決めてコツコツと論文を集めるようにしよう。少ない労力、最大効果を目指して勉強する心がけも大事であり、無駄な論文に時間をかけていては嫌になってしまう。いい二次資料を利用できるといい。例えば、ステップビヨンドレジデントとか・・・(笑・拙著です)。PubMedで検索してもなかなかいい論文はヒットしない。むしろいいreviewから孫引きした方がいい論文にヒットしやすい。MD consultでClinics of North Americaシリーズをチェックすると、いいreview論文が見つかる。Dynamed、ACP journal club、InfoPOEMs、Clinical Evidence、Attractなどいろいろ有用な情報を得ることができる。
ガイドラインもチェックしておきたいところだが、そこは医学雑誌のサイトや学会のサイトに直接アクセスした方がいい。National Guideline Clearinghouseというものもあり、メールアドレスを登録しておけば情報が入ってくるが、興味のないものや少し古いものまで送られてくるので、取捨選択しないといけない。
ブロードバンド環境さえあれば、世界の標準レベルにキャッチアップし続けるのは可能なのだ。もっと詳細を知りたければ、私と一緒に働いてよ!待ってるよぉ~!
その(2) Outputの強化
Inputのみ強化して頭でっかちになっても「嫌味なウンチク上級医」になってしまうだけ。オタクっぽい論文大好きドクターになっても仕方がない。初期研修医、後輩、看護師、そして患者さんに有益な情報をうまく噛み砕いて発信する能力を身につけたい。実はOutputがうまくなれば、それだけInputの情報が自分の中で整理され、覚えやすく、より深い勉強につながる。
Dr林のOutput強化の道その1 教えすぎ病に陥らないようにする
どうしても「あれ知ってるか、これ知ってるか」となりやすい。あくまでも聴き手の立場に立って、内容をそぎ落とさなければならない。患者さんに難解な医学用語がダメなように、看護師に治療薬の構造式や処方量など細かく教えても意味がない。難しいことを難しく教えるのは誰でもできる。難しいことを簡単に教えることができるのは、本当にわかっている人だけなのだ。
Dr林のOutput強化の道その2 聴き手を飽きさせない
内容が素晴らしくても、相手に感動を与えないのでは効果的な教育にならない。ドクターとはラテン語で「教える」という意味であり、我々は教育する仕事についていると考えなければならない。聴き手が眠いとなるのは、教え方が悪いだけだ。ではどうしたらいいか?簡単!自分がワクワクドキドキするようなプレゼンテーションになるように、作る時から気を配ることだ。
そこには意外性、ストーリー性、具体性、うならせる確固たるエビデンスなどを盛り込み、ビジュアルに写真や動画も含めたプレゼンテーションを作っていく。もっとも大事なのは「サービス精神」であること。
Outputの目的は「自分が賢い」ことをひけらかすことでは決してない。聴き手が十分に受け取りやすくなり、ひいては聴き手が今後積極的に勉強してくれ、自分を超えるまでに育つのが最終目標なのだ。「青は藍より出でて、藍よりも青し」
その(3) Time Managementの強化
時間がないから勉強できない。これは言い訳に過ぎない。本当に仕事のできる人は、患者さんの容体の今後の予測がつくので、用もないのに病院にダラダラ残らない。急変患者がいなければさっと帰るのも本当に優秀な臨床家には必要な技術である。
以下の3つを守ると、時間の捻出は飛躍的に伸びる。
・テレビをやめる
・お酒をやめる
・文献には自腹を切る
テレビをダラダラと見たり、お酒を飲んで寝てしまうのでは、勉強を続けるのは土台無理。ストイックなまでに時間を自ら作り出す努力を是非とも後期研修医のうちから頑張ってもらいたい。飲みニケーションも勿論大事だが、毎日飲み歩く必要はないだろう。自宅に帰った時ぐらいお酒を飲まずにしっかり勉強する時間を作ろう。
自分のToDoリストを作るようにしよう。緊急性の高いもの低いものを縦軸に、重要度の高いもの低いものを横軸に四分割表を作ってみよう。ToDoの内容を優先順位をつけて「見える化」するだけで仕事のはかどり方が違ってくる。人にまかせられるものは任せてしまうのも大事。毎日この四分割表をまずにらめっこしてから一日の行動を計画たてると、勢いで飲み屋に行くことはなくなる・・・はず。世の中の人すべてに平等なのは「時間」なのだから、その活用法を意識した者が10年後に自分の思い描く理想像に近づけるのだ。
また経験則的に、論文は病院がとっているものでは土台自分の財布は痛くないので、興味のあるものしか読まなくなる。自分の専門分野の医学雑誌ぐらいは数冊自腹を切って購読することをお勧めする。「今月はこんなに読んでいなかったぁ」と後悔すれば、いやでも少なくともアブストラクトぐらいは目を通しておく習慣がつくってものだよ。