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第2回  困った研修医に対して

福井大学医学部附属病院 総合診療部 教授
林 寛之 先生
(審J2005049)

みんな素直で優秀で気の利く研修医だったら、こんなにラクなことはない。そんなことは、もちろんあるわけない!

研修医もデキのいいのから悪いのまで多様性に富んでいるからこそ面白いもの。もし、あなたが昔ながらの“厳しくてなんぼ”のスパルタ教育がしみついて、「最近流行の指導法なんてさせられて、なんだか腑抜けになってしまった」と嘆いていたら…。決して腑抜けになる必要はない。ぐっとこらえて優しく指導した方が学習効果は高いのだ。自分が気分良く怒鳴り散らすのは、学習効果も低く、ただのマスターベーションにすぎない。・・・とはいえ、理不尽なことをしでかした研修医には、きちんと叱ることが必要。今回は、その“より効果的な叱り方”をレクチャーしよう。

年長の研修医には相手の人生に対するリスペクトを忘れずに

年長者へのリスペクト 最近では、一度社会人を経験した後で医学部に入り、医者を目指す人も少なくない。そういった年長者の研修医の場合、フレッシュな若手研修医に比べて、早く収入を安定させたいがための必死さ、年齢的なプライドがあるゆえの身構えをひしひしと感じるときがある。それだけに、まだ幼さの残る年少組に比べて独立心や自己顕示欲、責任感も強いのだ。その強い意志とプライドが邪魔をするのか、自分で納得のいく命令でないと無条件で動くことが少なく、ましてそれが自分より年下からの命令ともなると受け入れるのが難しいらしい。

実際に、指導する側の自分よりも研修医の年齢が上の場合、いったいどう接すればいいのだろうか。気にしなきゃいいなんて、僕はそんな冷たいことは言わないよ。まず心がけて欲しいのが、相手をリスペクトする思いだ。研修医といえども人生の先輩であることは確かで、その経験は尊敬に値するもの。それまでの経験や異なる知識を最大限に生かしつつ、それに上乗せする形で研修を行うことこそ、有意義な研修になり、結果、研修医と指導医との良好な関係が築ける結果になる。また、自分の将来像を描ききれていない若葉マークの研修医に比べて、目的意識がはっきりしている彼らには自分の意見を述べる機会をできるだけ多く与え、議論を重ねることで理解を深めるようにするといいだろう。

一方、指導医側も「オレが指導する側だ」と虚勢を張るのではなく、分からないことは分からないと素直に表明することも必要。そもそも無理に背伸びをしても、しょせん足をすくわれるハメになるしね。もし、質問されて分からないことがあれば、無理に知ったかぶりをするよりも研修医に調べさせる方が得策。そうすれば彼らのプライドがくすぐられ、きっとこちらが思っている以上に勉強し、双方にとっていい結果を生むことになるはずだ。プライドと対抗しないで、プライドをくすぐろう!

指導医が陥りがちな「瞬間湯沸し症候群」と「星一徹症候群」

瞬間湯沸し症候群 行き過ぎた指導者 あなたは医療人として、自分の技術、信念に自信はあるかな?もし、「もちろん!」と即答できたら、ちょっと注意が必要。得てして、自分に確固たる自信を持っている人は“分からない人の気持ちが分からない”、教え下手が多いからね。それに、短気ときたら大変だ! 研修医に質問されると、「そんな簡単なこといちいち聞くな!自分で調べろよ!」と、つい邪魔臭くて怒鳴ってしまう。なかには、自分が分からないと余裕を失って相手を突き放してしまったり・・・。そんな症状を僕は「瞬間湯沸し症候群」と呼んでいる。「分かりません」と自分にすがってくる弱き研修医に対して、イラッときたら、言葉を発する前に、まず深呼吸して気持ちを落ち着かせて。そして、この言葉を念じて欲しい。「研修医に質問されるということは、頼りにされているということ」と。考えてもみて。人間頼りにされなくなったらオシマイなんだよ。頼られているということに、まず感謝しなきゃね。

もうひとつ、僕がよく出会う指導医特有の症状に「星一徹症候群」というのがあるんだ。知っているかな?星一徹。息子の飛雄馬を一流のプロ野球選手にするべく、常軌を逸した特訓を与え続ける父親だ。もともと自分の果たせなかった夢を息子に託すといった話なのだが、「子どもをエリート選手に育てようとするあまり、無理難題のいじめに近い教育を施してしまう父親」の代名詞になっている。「教育」の名のもとに、行き過ぎた指導が「虐待」だとわかっていない病識欠如の人格だ。

昔気質で一流の技は持っているが、その技を伝授するのが苦手。「技は盗むものだ」と公言する。一方的なスパルタ方式で自分の考えを押し付ける。そんな症状には、“教える”という行為を楽しんで欲しいとアドバイスしたい。人に教えて、相手がそれを理解してくれてはじめて自分の知識も定着したと言えるのだ。教えることは、自分自身が2倍勉強したと同じこと。ぜひ、教えることを惜しまない指導医になって欲しい。

「強い、偉い、上手い」が医者の真の姿と思っている人こそ「星一徹症候群」に陥り易い。「強い、偉い、上手い」医師ほど、患者の心が読めず医療訴訟に最も近い位置にいる医師になってしまうのだ。相手の心が分かる優しくて「低リスク、低姿勢(謙虚)、低依存」の「3低」の医師こそ時代に求められているのだ。これって現代の理想の結婚相手のキーワードと一緒なんだって。自分が出来るから、「研修医もできて当然」と考えてはいけない。厳しい医師の元には少数の根性のある研修医しかついてこられない。いつまでたっても小数精鋭部隊では自分の仕事はいつまでたってもつらいままなのだ。自分だってかけだしの頃は出来なかったはず・・・若い医師の成長を優しいまなざしで見守れるようになれば、多くの研修医がロールモデルとして自分の後を追いかけてくれ、かつ彼ら彼女らが指導医の仕事を助けてくれ、自分はどんどん楽になっていくのだ。さて、つらい老後か、楽な老後か、どちらにしたい?

教育は子育てと同じ。“愛”のある叱り方を心得よ

なんだかこうやって話をしていると、「研修医には優しく、叱ってはダメ」って思われてしまうかな? いやいやそういうことではないんだ。僕は、「教育は子どもを育てること」と同じと思っている。重要なのは「叱り方」。参考として、僕が叱るときに気をつけていることを紹介しよう。

“愛”ある叱り方のポイント

とくに、叱るときには“YOUメッセージ”ではなく、“Iメッセージ”が肝心だ。YOUメッセージとは、「お前はダメだ」「キミはバカだ」「お前って奴は!」という、主語を相手にした表現。上級医の単なる意見なのに、「お前は○○だ」と決め付けることで、言われたほうにとっては立ち直りの機会が失われてしまう。これでは誰だってへこむし、そこから立ち上がるには相当な時間がかかる。それよりも「私は○○だと思う」と主語を自分にした“Iメッセージ”で相手に伝えるべき。また、「私は、君がこうした点がよくないと思う」と、主語を人にするのではなく、行為にすることで表現がやわらかくなり、相手にとっても受け入れやすいものになるはず。人格を否定することはせず、相手の行為を改善することを中心にした指導をぜひ、心がけて欲しい。続いて、どうしたら良くなるかを聞いて、弁明の機会を与えよう。人に命令されると反発しやすいが、自分で「次回はこうすれば大丈夫」と宣言させることで、自分で次回の行動変容を約束することになる。

叱りとは、「行動改善計画案」と言い換えてみよう。あなたの「叱り」が、将来この研修医の行動変容につながるようなアドバイスの仕方を工夫しよう。

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