多忙な指導医を救う教育法「5micro-skills」
時間のない臨床の現場でなかなか的を射ないプレゼンテーションを投げかける研修医。それに対して誰もが、結論となる「答え」をすぐに教えたくなるもの。ただ、これでは未来には繋がらない。結局は指導医が考えて指示を与えているのでは研修医はただのロボットに過ぎなくなってしまう。研修医の思考過程を明らかにしてはじめて効果的な指導ができるというものだ。同じ主訴でも様々な疾患にたどり着く守備範囲の広い考え方を指導しないと意味がない。そうかと言って、長々と説明していたら外来が回らず、外来看護師に睨まれてしまう。
そこで短時間に研修医を指導する簡便でかつ有効的な教育法として知られる手法が「5micro-skills」だ。これは、(1)結論を聞く (2)根拠を聞く (3)出来たことを褒める (4)改善点を提示する (5)一般論を提示する 以上の5つのステップからなる教育法で、短時間で効果的なフィードバックを行うことができる。
ステップ1:結論を聞く(研修医の考えた診断・鑑別診断を聞く) 「キミはどう思うの?」
ズバリ!まずは研修医本人が考える結論(診断)から述べさせる。周りくどく話す研修医であれば焦点を絞らせて結論を導くのがミソ。結論がまったく導きだせない研修医に対してはイライラする気持ちをグッと堪え、相手が1年目ならここは指導医から答えを教えてあげるのが賢明。2年目ならヒントを与えて「キミはどう思う?」と自分で結論にたどり着けるチャンスを与えて研修医の自信につなげよう。
同時に鑑別診断も挙げさせよう。突拍子もない鑑別診断を挙げるようならよくわかっていない証拠。反対に稀だけど見逃してはいけない鑑別診断をきちんと挙げさせるのも大事。
ステップ2:根拠を聞く(研修医の思考過程を紐解く) 「なぜそう考えたの?」
指導をする側がいちばん知りたいのは結論に至った思考過程。根拠、論理を述べさせると研修医のレベルがわかり、判断違いもここで修正可能!効率のよい指導につながるのだ。症状や身体所見の疾患に対する感度・特異度を考慮して診断まで導いているかどうかがわかる。「首が硬くないので髄膜炎はありません」などととんでもない根拠で、人生最大の頭痛を伴う熱発患者に対して髄膜炎を否定しているなんて場面に出くわすこともある。項部硬直は特異度は高い(あれば有意に髄膜炎)が、感度は低い(首の硬くない髄膜炎など山ほどいる)のだ。ここでミスを見つけても、すぐに訂正しないでグッとこらえて研修医に最後まで話させるようにしよう。すぐに研修医の話をさえぎるようでは、研修医は自由に話をしてくれなくなってしまう。
また、ここで気をつけたいのが研修医への尋問口調。事前情報が少ないと、つい尋問したくなるがそれはナンセンス。研修医の話す情報が不足し、その判断が正しいかどうか判定しかねる場合は、後で一緒に患者さんのもとへ足を運んで診察に行くべし。
ステップ3:出来たことを褒める 「その考え、いいじゃない」
誰だって怒られるのはイヤだよね。研修医だって自分を否定されながら物事を覚えるよりは褒めてもらえた体験を糧にしてこそ前向きになれるというもの。ただし、その褒め方もなんとなくでは意味がない。その研修医がうまくできたことに焦点をあて、「その点、なかなかいいんじゃない?」と具体的に褒めて。いい体験というのは手ごたえとして身に残るもの。その点を刺激して学習意欲をかきたてるテクニックも指導医には必要なのだ。粗探しは得意だけど、褒めるのはちょっと・・・なんて言ってられない時代になったんだよ。
ステップ4:改善点を提示する 「今後はここを注意してやってみよう」
いい点を褒めて気分を良くしてあげてからが本番。誤った点を将来につながるようにきちんと修正しよう。これ、かなり大事。同じミスを繰り返すと、誤った経験が誤ったエビデンスをつくりあげ取り返しのつかないことになりかねない。改善すべき点があれば臨床上の問題を明らかにし、現実の患者に対応する学習課題を提示すること。このときは研修医にメモをしっかりとらせて。
ステップ5:一般論を提示する 「一般的にはこの症候、疾患の要点というのは○○だね」
実際目の前にした症例と一般論がセットになると知識というのは定着しやすい。同じ疾患や同じような症状で来院するほかの患者さんにも適応できるような指導を盛り込んでこそ、一流の指導医。もちろん講義ではないのだから長々と話す必要はない。もっとも伝えたいことを簡潔に指導するのがコツ。
以上の5つのステップは臨機応変に順序を変えてもOK。適切なタイミングで具体的なフィードバックをし、次の学習につなげていくことが重要なのだ。