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第6回  ハイリスク患者はトリアージランクをひとつ上げるべし!

福井大学医学部附属病院 総合診療部 教授
林 寛之 先生
(審J2006105)

すべての患者さんが医者をありがたがってくれる時代はもう終わり。なかにはトンデモ患者が御託を並べ、敵対心をむき出しにしてやってくることもあるくらいだ。「イヤなら帰れ」と言いたいところだが、それはもちろん無理。本当に患者さんを帰らせて、「実は重い病気だった」なんてことになったら、それこそ取り返しのつかないことにもなりかねない。「自分はこんなに心配だから助けてほしいのに、どうしてわかってもらえないの?」という患者さんの心の叫びが出ているだけで、医学的に見たら実はあわてる必要はないことも多く、患者さんの主観的切迫感と医療者の医学的客観的判断との乖離が、クレームとなっていることが多い。患者さんはプロではないのだから、医学的に正しいかどうかよりも、その訴えを真摯に受け止めてあげる余裕を持ちたいね。どんな場面でもどんな患者さんでも、心を平静に保ちながら対応できてこそ、プロだと心得て。

ハイリスク患者には指導医が早く対応すべし

軽度から重度まで、あらゆる疾病のあらゆる症状の患者さんがひしめき合うERの現場。重症疾患を見落とさない、待たせないといったことが重要となるERでもっとも肝心になるのがトリアージだ。トリアージは本来、患者さんの訴え、バイタルサイン、解剖学的異常、患者さんの基礎疾患、そして外傷なら「いつ、どこで、どんなもので、どのように」受傷したかといった受傷機転などを考慮して、治療優先順位を素早く決定するもの。このトリアージで、ひとつ頭に入れておいてほしいことが「ハイリスク患者」の存在だ。医者が心してかからなければならないハイリスク患者には以下のような人たちも含まれることをご存じだろうか?

ハイリスク患者

これらの患者さんはほかの患者さんの診療を妨げたり、果ては病院全体に影響を及ぼす可能性が高いといえる。そんな患者さんの対応を研修医に任せるのは、それこそリスキー。火に油を注いでから対応するのは大変で、ぼやの内に消し止めたい。予測されるリスクを回避するためにも、ここはベテランならではの冷静さで的確に対処しなくてはならない。もし、ほかに最重症患者さんがいない場合は、これらの患者さんのトリアージをワンランク上げ、指導医が率先して診察にあたるのが望ましい。この辺りのトリアージはベテランのナースの方がはるかにうまく、やっぱり救急はナースで持っているんだねぇ。

怒っている患者さんに効き目バツグン!?「こうもりの術」「責任転嫁の術」

怒っている患者さんには「こうもりの術」「責任転嫁の術」 受付で、待合室で、診察室で、「いつまで待たせる気だ!」などと怒鳴り散らす患者さんっているよね。とはいえ、「そんな患者、放っておけ」なんて決して言えないのがここ病院。そもそも患者さんの苦情処理は健全な病院運営においては非常に重要なことなんだ。医療者側の都合を患者さんに押し付けることだってできないしね。そこで、明らかな言いがかりや因縁を円満に対処するマル秘対応術をお教えしよう。まず患者さんに言いたいことを十分に話させ、その要求がどんなに理不尽であっても「あなたの立場なら、そう感じるのは当然ですよね」などと同意すること。「同意するなんて無理!」といった内容であれば、「なるほど、そういう意見もありますね」と相手の意見を確認しながら話に耳を傾けよう。「しかし」「そうは言いましても」「決まりでは」などと相手の意見を否定する言い方をしてはいけない。ひたすら最初は聞き役に徹する。こうして相手の意見を尊重し、同意し、確認をするこの技は、名づけて「必殺!こうもりの術」。人というのは、自分の意見に同調する者に対しては、それ以上は攻撃してこないもの。うんうんと頷いているだけで、相手のボルテージは徐々に下がってくるはずだ。

「相手に同調するだけでは、まるで問題の解決にならないじゃないか」って?それならば、次なる策が「必殺!責任転嫁の術」だ。現場でできることにも限界があるし、時間だってそうとれるものでもない。長期戦になりそうだったら、それ相応の方に立場を譲ってしまおう。それ相応の方というのは…交渉ごとに長けた事務職やおエライ管理職の方々のこと。きっと現場のペーペーと同じことを言ったとしても重みが増すだろうし、さらに気の利いた言葉で相手の怒りを静めてくれるに違いない。

クレームは「業務改善提案」と言い換えて聞いてみよう。確かにクレームには一理あることも多く、病院の経営方針を良くするための提案と思って耳を傾けるといい。「ご指摘いただきありがとうございます」という心を持って聞くことが重要だ。クレーム処理を最優先に行うことがサービス業の鉄則だ。

もちろん、患者さんに対してすべて現場で問題が解決できることが一番だ。そのためにも、僕たち医者は患者さんの満足を最優先に考えた診療、丁寧な診察を心がけることが重要だ。一方、悪質クレーマーは話が違う。悪質クレーマーの場合は、患者サービスではなく、リスクマネージメントの対応に素早く気持ちを切り替える必要がある。悪質クレーマーは金銭での解決、人間性を否定した謝罪の要求などに至り、医療者の仕事のモチベーションも下がってしまう。悪質クレーマーは即断即決を求めてくるので、決してその場で問題を解決せず、念書は決して書いてはいけない。素早いお詫びに続いて、それなりの正確な実態把握が必要であり、専門部署・専門担当官が対応することを告げるべきである。忙しい外来で決着をつける必要もなく、時間をかけた組織的対応に持っていくほうが賢明だ。

診療拒否患者には同意書の作成を。「せん妄」の疑いも見逃すな

診療拒否同意書作成はステップに沿って 明らかに疾患が見つかっているのに「絶対に治療は嫌だ!」とゴネられたら、アナタだったらどうする?もちろん、治療の選択権は患者さんにあるのだから、精神状態が正常であれば無理やり医療行為をすることはできない。同意も無いのに針を刺したら、「傷害罪」になってしまうのだ。患者さんにとっては命よりも大事な事は実際ありうるのだ。医療が絶対無二の正義という考えを持ってはいけない。だからといってすんなり引き下がって、患者さんを帰してしまっては後々取り返しのつかないことになりかねないからご用心を。

万が一、「今治療しないのは悪いとは聞いたが、死に至るまで悪いとは聞いていなかった」などと言われては元も子もない。患者さんの自主性を重んじる上でも、必要十分な説明をした上で、診療拒否同意書にサインをもらって帰宅させるプロトコールをしっかり事前に確立していくことが肝要だ。以下のステップに沿って診療拒否同意を取り付けよう。

(1)せん妄などの見当識障害を必ず否定する
患者さんの中には、診療を拒否しているように見えて、実は疾患などによって意識が混濁する“せん妄”状態にあるケースもあるのだ。言動、態度に疑わしい面が見受けられたら、口頭による名前や生年月日の確認だけではなく、今日の日付、現在の場所、引き算問題などMMSEテストを実施すること。意識レベルに変動が見られる、バイタルサインに異常が認められる、新しい記憶の障害などはせん妄である可能性が高いので、ゆめゆめ安易に患者さんを帰宅させないように!

見当識障害がないこと、自殺企図がないことを確実にはっきりさせた後、診療拒否同意書作成に入ろう。

(2)患者さんも自分の状況を納得し、かつ理解したという状況をカルテに記載する
患者さんに対してのインフォームド・コンセントをしっかりと行うことが第一。その際には、治療のメリット、デメリットのほか、患者さんの意向に沿うようなオプションも提示し、そのオプションが必ずしも医者の最善策ではないことも説明した上でカルテに記載する。もし、このまま治療をせずに放置した場合、死に至る可能性がある場合は、明確に「死ぬこともありうる」と説明するべきで、その説明内容もできる限り具体的にカルテに残しておこう。とにかくカルテ、カルテ、カルテだ!

(3)可能な限り、患者さんの家族にも状況を理解してもらう
「死んでもいい」と患者さん本人が言ったとしても、患者さんが最悪の結果になった場合、訴えるのは家族であることを忘れてはならない。だからこそ、家族にも連絡をとって状況を説明し、家族から本人に説得してもらうよう協力を促そう。また、自分だけで対処するのではなく、看護師や年配の医師などにも説得をお願いし、できる限りを尽くそう。

(4)証拠となる同意書とカルテなどの書類を確実に残す カルテはもちろんのこと、「診療拒否同意書」もしっかりと残すこと。同意書には診療を拒否したことによって将来起こりうる危険性や合併症について医師から説明を受けたことについて本人から署名をもらい、また担当医師のほか、証人となる複数名の署名をもらう。本人に一部、カルテに1部残す。原本はカルテに添付し、コピーを本人に渡す。

そして患者さんが心変わりして医療の助けを求めた場合は、いつでも受け入れる用意があることを記載しておくこと!「医者の言うことを聞けない奴は二度と来るんじゃねぇ!」なんて口が裂けても言ってはいけない。

暴れる患者さんへの身体拘束、薬物拘束

“暴れる患者”、“診療拒否の患者”の中には、言葉による鎮静が難しい場合がある。つまり、自傷、他害の恐れがある患者さんや見当識障害のある患者さんだ。この場合は患者さんの意思を無視してでも治療を継続しなければならない。このときに何より最優先すべきは患者さんの安全だ。そのためには、身体拘束や薬物拘束も必要な手段となってくる。ただし、患者さんの家族にはこれらの拘束が治療を円滑に行うために必要なことだと十分に説明し、同意書をとるのは必須。

実際に身体拘束をする場合は、最低でも四肢の大関節を押さえるのに各1名、頭部に1名と計5人の力は必要なので人員の確保もさることながら、事前にだれがどの部分を担当するかの打ち合わせもしっかりと!また、ときとして患者さんが噛んでくることもあるので頭部を押さえつける人はとくに注意しよう。もし、頭を壁やモノにガンガン打ち付けるようであれば頚椎カラーの着用もOK。さらに、患者さんの必死の抵抗として見受けられるのがツバによる攻撃。そのときには、患者さんにマスクを着用し、防御しよう。

身体拘束の際に気をつけなければならないのが胸部の圧迫。身体拘束後、呼吸困難による死亡例が海外で報告されているのでバイタルチェックやモニタリングは頻繁に行う。

身体拘束をしてもなお患者さんが暴れてCTが撮れないなど、診察に支障が出る場合は、鎮静の筋肉注射でアプローチを。静注は即効性があるが、暴れる患者さんの静注は難しいだけでなく、暴れた拍子に針刺し事故につながることがあるので、できるだけ筋肉注射で対応できるように準備しておくほうがいい。

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