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第5回  ハイリスク疾患に足元をすくわれるな!

福井大学医学部附属病院 総合診療部 教授
林 寛之 先生
(審J2005051)

ハイリスク疾患とは、見逃してしまうと患者の予後を左右しかねない怖い疾患のこと。古今東西、先人達も同様の疾患に騙されて痛い目にあってきた。「騙されたぁ!」と嘆いても、患者の命がかかっているから、そうそう簡単に許されるものではない。指導医はそんな疾患の詐欺(?)の手口を知っておいて、未然に研修医が落とし穴にはまらないように目を見張っておかなくちゃね。今回は、見逃してはいけないハイリスク疾患の数例を紹介してみよう。

ハイリスク疾患

ハイリスク疾患は「非典型が典型!」

非典型にこそハイリスク疾患を疑え!! ある日、高脂血症、糖尿病にて加療中の60代の男性がひどい冷や汗をかきながら「胃が痛い」と訴えてきた。胸の痛みを訪ねても「それほど痛くはない」と言う。キミだったら、まず何を疑うかな?ある医者は迷わず胃カメラを選んだ。ところが、胃カメラの最中に患者の意識がなくなってしまったのだ。この患者が抱えていた疾患とは……。

実は、この患者、心筋梗塞だったのだ。もし、その患者が糖尿病、高血圧、肥満といった生活習慣病のオンパレードのような中年の男性で、胸をかきむしるようにもがき苦しんでいたなら、きっと誰もが胃カメラではなく、心電図の検査を選んだことだろう。ところが、こういった典型的症状で来院する心筋梗塞患者はナント25%しかいないのだ。その他75%に関しては、所見の揃わない患者を相手に医者が四苦八苦しているというのが、医療現場の現状なんだよね。そして、これこそが見逃し訴訟のナンバー1として恐れられている心筋梗塞のこわ~いところ。特に冷や汗を伴う場合はLR(Likelihood ratio)4と高いので心臓を念頭におくべし。心筋梗塞の3~4人に1人は無痛性心筋梗塞だから、とにかくつらそうな患者はまずはECGからアプローチするのを忘れないで。疑わしい所見が少しでもあれば常にハイリスク疾患の疑いをもってしつこくフォローアップをしないと、高額訴訟が待ち受けていることだってあるんだ。非典型こそ要注意という点をぜひ、頭に入れておいてほしい。

心筋梗塞

「まさか!」と思いがちな心筋梗塞の非典型例

「この患者に限って」という非典型にこそ、ハイリスク疾患を疑えという話をしたが、そのハイリスク疾患の代表格、心筋梗塞について詳しく話してみよう。「心筋梗塞=胸の痛み+中年男性+生活習慣病」という図式を頭に描いている人は多いんじゃないかな?実は胸痛などは訴えずに、「体がだるい」「息切れがする」と言って来院するケースが案外多いのだ。実際、心筋梗塞患者の30%前後、女性に至っては43%は「胸痛はなし」という所見だったというデータは意外に知らないでしょ?中には「歯が痛い」という患者だっているんだから、わからない。これら心筋梗塞の典型からはずれた「非典型」や20代、女性に心疾患はまずないという先入観が恐ろしい見逃しのパターンに陥る原因になっていることを覚えておいてほしい。また、「胃が痛い」という患者が実は心筋梗塞だったという事例は少なくない。「胃薬を飲ませて様子を見ましょう」と言って心筋梗塞を見逃したがために6000万円の訴訟に至ったという実際の事例もあるのだ。制酸薬が効けば胃・食道疾患、ニトログリセリンが効けば心疾患といった“診断的治療”は、こと心臓にはあてはならないことも、“騙されない”ためには知っておくべき知識なのだ。

さて、患者に対しての対処方をおさらいすると…

心筋梗塞を見逃さないための対処法

以上をぜひ、肝に銘じてほしい。

骨折

「見えない骨折」にもハイリスク疾患の影が!

お次は小児の事例。ある研修医が5歳の男児を診察したときの話を紹介しよう。5歳の男児が滑り台から落ちて、左肘痛を訴えて親に付き添われて来院した。診察した研修医によると左上腕にかすかな腫脹がみられたものの、X線上では骨折線は認められなかったという。ところが帰宅後も痛みが続き、近くの整形外科を受診したところ、上腕骨顆上骨折を指摘されたという。そして、憤慨した両親が来院!怖いのは親だけじゃないんだよね。上腕骨顆上骨折は、神経損傷やコンパートメント症候群を合併することがある。それが小児となるとさらに、成長に影響を及ぼす可能性があるだけに、医療者はさらに過敏になるべきなのだ。なのに、そのハイリスクな所見をこの研修医は見逃してしまったというわけ。

ここで浮き彫りになるのが小児の上腕骨X線読影の難しさだよね。この小児のX線を見てみると、研修医の言う通り骨折線は見当たらない。が、しかし!見る人が見れば出てくるんですねぇ~。骨折と言い切れる所見が。何かって?注目すべきは「fat pad sign」。つまり、脂肪織。posterior fat padは正常では見えないのが当たり前。もしこれが上腕の後ろ側に盛り上がって見えると、これはあきらかに血腫のせいで浮き上がっている証拠。骨折の関節所見と言うわけだ。

次に上腕骨前縁から上腕骨小頭に向かって補助線を引いてみる。正常であれば補助線は小頭を3等分したところの中央1/3を通るはず。ところが補助線が中央1/3からズレていたとしたら、迷わず脱臼を疑うべき。とくに肘の場合は、局所の腫脹、肘の屈伸痛、局所圧痛があれば骨折を疑う必要がある。X線でわからなければCTを撮るくらい慎重になってほしい。しつこいようだが、骨折線がないからといって「骨折はありません!」なんて、アホなことは言ってくれるなよ。

骨折の診断はあくまでも臨床診断が基本。ピンポイントで叩打痛があれば骨折とみなして対応すべし。特にX線に写らないことが多い骨折を知っておくといい。

X線に写らないことが多い骨折

酔っ払い

酔っぱらいは要注意!アルコール患者の落とし穴

酔っ払い患者には要注意!! 夜間に救急車で担ぎこまれる酔っ払い。大トラ化した患者は暴れ、罵詈雑言を吐き、おまけに診察拒否。そんな状況では大人しくさせるのでさえ精一杯…。「やれやれ…」と愚痴もこぼれちゃう医者泣かせの患者もまた、ハイリスクの疾患を抱えたりするのだから気が抜けない。さて、ある研修医が当直を担当していると、飲み屋の階段下で寝ていたという酔っ払いが搬送された。殴る蹴るなど散々暴れ、診察は手こずるばかり。ようやく朝方になり、落ち着いたと思ったとたん、今度はみるみる意識レベルが低下し、瞳孔不同も認められた。慌てて頭部CTを行ったところ、なんと後頭部の急性硬膜下血腫が認められて緊急手術に。まさか、階段の下で寝ていたのではなく、階段から落ちたなんて思いもつかなかったんだろうね。

まず、酔っ払いというだけで見逃しリスクが大きくなりがちなことを頭に入れておいて。患者の多くは仰臥位で搬送されてくるため、とくに後頭部や背中の外傷は見落としがちになる。だからこそ、検査もより念入りに多く行う必要が。意識障害もアルコールのせいと決めつけないこと。さらに、アルコール患者は合併症の危険性も大いに含んでいることを認識すべし!アルコールレベルが300mg/dLを超えたら意識レベルも落ちて当然。「痛い」と訴えてくれないからそれはもう大変。腸管穿孔しても「お腹は痛くない」というから医療者側は泣きたくなる。外傷+泥酔なら迷わず全身CT(造影も)を撮っておかないとそのうちとんでもない見逃しに出くわすことになりかねないのでご注意を。勿論厳格な経過観察が最も役に立つんだけどね。酔っ払いについ冷たくしたら、そんなbiasが大きな落とし穴を呼び込むんだ。

外傷以外にもビタミンB1欠乏のWernicke-Korsakoff症候群、離脱症候群、敗血症、低体温、低血糖、その他の薬物中毒など隠れている可能性のある疾患を挙げるとキリがないほど。これらを見逃さないためにもより積極的に検査や画像診断などを行ってほしい。

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