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第4回  Time is life!Time is money!

福井大学医学部附属病院 総合診療部 教授
林 寛之 先生
(審J2005075)

「Time is life」。救急の現場では、まさに時間との勝負。ちょっとした判断の遅れ、時間の遅れが生死を分けるという恐ろしさはつきものなのだ。そして、「Time is money」。医療訴訟費の高騰など、今や医療現場では金銭に関わる問題もひっきりなし。急性期疾患だって、感染症だって、時間との勝負は避けられないよ。さぁ、一瞬の判断が命とりにならないように、ヨーイ、ドン!

髄膜炎

髄膜炎は来院30分以内の抗生物質投与が目標

Time is life!Time is money! 検査の判断ミスや治療の遅れが致命的となるケースはいくつかあるが、細菌性髄膜炎もそのひとつ。細菌性髄膜炎の多くは1日~1週間以内で発症の経過をたどるが、症例の10~20%は、24時間以内で急激に進行する劇症型というデータも。細菌性髄膜炎を疑ったら、すぐに抗生物質を投与すべし。抗生物質を投与する目標Timeは、小児なら来院から30分以内、大人なら1時間以内。そこで、もたもたと検査をしていてこのTimeを切ろうものなら、これこそ許さざるべき大ドジだ。意識障害や脳腫瘍の疑いがある場合など頭部CTをしておく必要はあるが、そうでなければ頭部CTは省いてしまおう。どんなに整った施設でも頭部CTはそれなりに時間がかかる。それより、早く診断して抗生物質投与のタイミングを逃さないためにも腰椎穿刺を優先させるべきだ。腰椎穿刺すら時間がかかりそうなら、迷わず抗生物質を投与してしまおう。抗生物質投与により、髄液培養は役に立たなくなってくるが、それ以外の髄液糖や蛋白、細胞数で考えればいいだけのこと。抗生物質を先に投与したからと言って髄液所見での判断は変わらない。髄液培養が生えなくなったり、時間が経つと髄液の顕微鏡検査がだめになったりするが、細胞数や蛋白、糖などで判断できる。しかし、どんなに急いでも血液培養は抗生物質投与前にとっておこう。細菌性髄膜炎の半数は血液培養から細菌が同定されている事実に着目しよう。

とは言っても実際に忙しい救急ではこの時間達成はかなり難しいのは臨床家ならみな知っている。この30分、1時間という時間はあくまでも達成努力目標であり、「全例こうしないと訴えてやる」と言われても、実現達成不能なんだよね。あくまでも努力目標!頑張りましょう!

また、髄膜炎に投与する抗生物質の選択も重要。基礎疾患のない患者であれば、セフトリアキソンまたはセフォタキシムなどの第3世代セフェムを使用するといい。尚、3カ月以下の乳児や高齢者はリステリアが生えてくるので、アンピシリンの追加もお忘れなく。さらに、患者の状態がよくなってきたからといって抗生物質の量を減らすのは大きな間違い。髄膜炎の場合は、治療が完了するまでは「meningitis dose」の高用量は変えないのが鉄則!

肺炎治療は4時間以内に

肺炎も抗生物質投与は患者が来院4時間以内に投与するほうが予後がよいので、以前のガイドラインにも記載があった。しかしながら北米の救急外来の平均待ち時間はなんと4時間。4時間を過ぎておもむろに診察し、肺炎が見つかったからと言って、この4時間は達成できるはずもない。従って最近のガイドラインではこの4時間は訴訟の恐れもあって省かれてしまった。日本では北米ほど待ち時間は長くないだろうから、患者さんのためを思うなら、来院から4時間に肺炎に対して抗生物質を投与するように頑張りましょう!はい、この4時間も努力目標なのです。

敗血症の抗菌薬の投与は1時間以内に!治療は最初の6時間が勝負!

敗血症の感染巣の発見は6時間以内に! 敗血症は死亡率が高い疾患の代表格。それだけに早く手を打っておかないと取り返しのつかないことになってしまうのだ。昔は血液培養から細菌がはえて初めて敗血症なんて言っていたために治療の遅れが目立った。今はSIRS(Systemic Inflammatory Response Syndrome)+感染巣があれば敗血症と臨床診断して治療を開始しなければならない。SIRSに関しては参照。

まずすべきことは感染巣を見つけること。最も頻度の高い感染巣は肺、尿路、腹部となっている。感染巣を探り当てたら、適切な抗菌薬を1時間以内に投与することが重要。敗血症では、この抗菌薬の投与が1時間遅れるごとに生存率が7.6%ずつ低下するというデータもあるだけに、それこそ時間が勝負。1時間以内に、効力が予想される抗菌薬を投与しないと患者の命が危ないと考えて!

敗血症の治療は早期抗生物質投与のみならず、Early Goal-Directed Therapy(以下EGDT)という全身管理を最初の6時間がっちり行うことで予後が改善される。CVP(中心静脈圧)、MAP(平均血圧)、ScvO2(混合静脈血酸素分圧)のパラメーターを正常に保つようにコントロールするのだ。詳細は成書参照のこと。

【暗記】SIRSとは
(1) 脈>100/分
(2) 呼吸数>20/分 or PaCO2<32 Torr or 人工呼吸
(3) 体温>38℃、<36℃
(4) 白血球数>12000/mm3、<4000/mm3、band>10%
  2ケ以上あればSIRS!

ACS

心臓の痛みを訴えたら10分以内にECGを

患者が胸の痛みを訴えていたら? 考えられるのは、ACS(急性冠症候群)だよね。ACSとは、心臓発作と不安定狭心症を含む、心筋への不十分な血流による胸痛の総称。この場合、患者が来院したら10分以内にECGをとるべし。受付で「胸が圧迫される」「胸が重い」などと冷や汗をかいて訴えたら順番どおりに診察してはいけない。ECGなんて痛くも痒くもないんだから、すぐにとってしまおう。予診をとる看護師が医師の指示を待たずにECGをとっても良いというルール作りが大切だ。Door-to needleは30分。そしてPCI(経皮的冠動脈インターベンション)は90分以内に!

脳梗塞

発症から3時間以内の血栓溶解療法が明暗を握る脳梗塞

脳梗塞の疑いのある場合は即頭部CTを! もう分かりきっていることだろうが、脳梗塞はスピードが勝負だ。まさに「Time is brain」。現在、注目されているのが超急性期の血栓溶解療法。これは投与リミットが発症から3時間以内。発症から2時間以内に来院してもらわないと、問診や頭部CTの時間を考慮すると3時間以内に血栓溶解療法はできない。こんなにアピールしても実際に血栓溶解療法の対象になるのは脳梗塞全体の2~6%しかないのだから、なんともトホホなのだ。最近では発症から3~4.5時間以内なら条件付きで血栓溶解療法を行おうとAHAが提唱している。FDAはまだ承認していないけどね。3時間以降のrtPA投与はアメリカでは鬼門だ。だって副作用が出たら、弁護士はFDAに反していると訴え、投与しなかったらAHAに反していると訴え、どちらにせよ医者には居心地のよくない状況になってしまう。AHAが推奨しているぐらいだから、きっと日本でも近いうちガイドラインが変わるんだろうね。

間違え易いのは、朝、目が覚めたら麻痺があったというような症例。これは寝ている間に発症しているはずだから、元気だった時間までさかのぼって計算する。つまり就寝時間を発症時間として計算しないといけないので、目が覚めたら麻痺があったという症例は血栓溶解療法の対象にはならない。起床時間を発症時間と勘違いして計算して、大騒ぎすると格好悪いので気をつけようね。

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