TOP 製剤情報一覧 疾患から探す 重症筋無力症(MG) 重症筋無力症のエキスパートに聞く 抗LRP4抗体発見の歴史、その役割、臨床的意義について

重症筋無力症(MG)

抗LRP4抗体発見の歴史、その役割、
臨床的意義について

熊本大学医学部附属病院
分子神経治療学寄附講座(神経内科)
特任教授
中根 俊成 先生

2016年4月掲載
(審J200603)

抗LRP4抗体陽性症例の臨床的特徴について

― 抗LRP4抗体陽性症例の臨床的特徴についてお聞かせください。

中根先生:
樋口先生らが報告された9例は、20~70歳代と年齢にばらつきがあり、男女比は1:1.25、胸腺腫を認めず、比較的重篤な四肢の筋力低下を呈する例が多く、進行性の球麻痺を呈する例もありました。2014年のZisimopoulouらの報告では、119例の抗LRP4抗体陽性症例を基に解析しており、平均発症年齢は34.9歳、男女比は1:2.5、胸腺腫を認めず、初発症状としては球麻痺または呼吸筋力低下が66%、四肢筋力低下が34%でした9)。MGFA分類ではⅠ-Ⅱ型が85%、Ⅲ-Ⅳ型が15%と眼筋型か軽症の全身型が多く、抗AChR抗体、抗MuSK抗体単独陽性MGと比較しても有意に軽症でした。ただし、抗MuSK抗体との二重陽性症例では MGFA Ⅲ以上が93%で重症例が多いという特徴がありました。
2012年以降、樋口、中根らの研究グループで集めた抗LRP4抗体陽性MG約50症例においては、平均発症年齢51歳、男女比は1:2.5、胸腺腫を認めず、初発症状としては眼症状が60%というのが特徴です。今までの報告より、抗LRP4抗体陽性症例の臨床的特徴として、比較的高齢の女性が眼症状で発症することが多いといえます。

表2 抗LRP4抗体陽性症例の臨床的特徴

表2 抗LRP4抗体陽性症例の臨床的特徴
中根先生ご提供
― 抗LRP4抗体陽性症例の治療について教えていただけますか?

中根先生:
Zisimopoulouらは、抗コリンエステラーゼ(ChE)薬かステロイドをほぼ全例に使用し、約90%の症例で有効、残り10%は治療抵抗性であったと報告しています5)。そのうち約70%が何らかの免疫治療[血漿交換、免疫グロブリン(IVIg)静注療法、アザチオプリン等]を施行していますが、完全寛解(CSR)あるいは薬理学的寛解(PP)が35%、軽微症状(MM)あるいは改善(I)が44%、増悪(W)が5.5%で、MGに関連した死亡報告はなく、免疫治療に対する治療反応性は全般的に良好といえます。 
2016年1月現在、熊本大学では10例の抗LRP4抗体陽性症例を治療中です。10例の特徴として、先ほどの国内50例のデータと同様、やや高齢の女性に多く、眼症状で発症しており、4例が抗MuSK抗体との二重陽性例です。治療は抗ChE薬とステロイド、もしくは免疫抑制剤を早期から使用しており、10例中9例はコントロール良好です。しかし、抗MuSK抗体との二重陽性の1例が治療抵抗性を示し、増悪を繰り返すため、増悪時にIVIgを投与することで、コントロールを試みています。

※当該薬剤につきましては、添付文書をご参照ください。
― 抗LRP4抗体測定の依頼方法について教えてください。

中根先生:
抗体発見の経緯、測定技術、経験などの点から長崎川棚医療センター臨床研究部・神経内科に一本化しており、樋口先生が窓口になっておられます。詳しくはホームページ(http://www.nkmc.jp/rinsyoukenkyuubu.html)をご覧ください。

MGを診療されている先生へメッセージ

― 最後にMGの診療をされている先生方へメッセージをお願いします。

中根先生:
現在、抗LRP4抗体の測定は、seronegative MG患者が中心ですが、実際には抗AChR抗体、抗MuSK抗体と抗LRP4抗体との二重陽性患者も多く存在すると考えられます。Zisimopoulouらは、二重陽性症例では重症例が多いと報告しており、抗LRP4抗体の病原性、臨床的特徴を検討するには、本来はMG患者全例で抗体測定をすべきであると思っています。
また近年、孤発性筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis : ALS)患者に抗LRP4抗体陽性例が23.1%(24/104例)いるとの報告があり9)、同一グループのdouble seronegative MGにおける陽性頻度より高いということが話題になっています。実際にLRP4は中枢神経系や骨など様々な臓器にも局在しているため、MG以外の神経疾患でも抗LRP4抗体陽性例は存在する可能性があります。ただ現在のところ、抗LRP4抗体とMGをはじめとする神経疾患との関連についてはまだまだ未知の部分が多く、神経学的にも免疫学的にも今後の研究が必要な分野であるといえます。

1) Higuchi O et al : Ann Neurol 69 : 418-422, 2011.
2) Pevzner A et al : J Neurol 259 : 427-435, 2012.
3) Zhang B et al : Arch Neurol 69 : 445-451, 2012.
4) Cossins J et al: Ann N Y Acad Sci 1275 : 123-128, 2012.
5) Zisimopoulou P et al : J Autoimmun 52 : 139-145, 2014.
6) Weatherbee SD et al : Development 133 : 4993-5000, 2006.
7) Kim N et al : Cell 135 : 334-342, 2008.
8) Zhang A et al : Neuron 60 : 285-297, 2008.
9) Tzartos JS et al : Ann Clin Transl Neurol 1 :80-87, 2014.

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