TOP 製剤情報一覧 疾患から探す 重症筋無力症(MG) 重症筋無力症のエキスパートに聞く 抗LRP4抗体発見の歴史、その役割、臨床的意義について

重症筋無力症(MG)

抗LRP4抗体発見の歴史、その役割、
臨床的意義について

熊本大学医学部附属病院
分子神経治療学寄附講座(神経内科)
特任教授
中根 俊成 先生

2016年4月掲載
(審J200603)
― はじめに熊本大学神経内科の概要についてお聞かせください。

中根先生:
当科は、安東由喜雄教授を中心に、約20名の常勤スタッフ、約20名の大学院生で臨床、研究、教育を行っています。熊本県内の中核病院であり、神経内科医からの紹介患者が多く、脳卒中から神経難病まで幅広く対応しています。当科の入院患者数は年間約450例、外来患者数は年間延べ11,000例で、うち約1,000例強が初診になります。
重症筋無力症(MG)患者は、初診入院が月に1~2例、年間の入院数は延べ50例です。基本的には地域の紹介元病院へお戻ししており、大学病院で定期にフォローアップしている患者は150~200例程度ですが、患者数は年々増加していると感じています。

― 先生の研究テーマを教えていただけますか?

中根先生:
神経免疫学全般、神経変性疾患が中心です。長崎大学でHTLV-I関連脊髄症やMGの臨床・研究を振り出しに、大学院卒業後に多発性硬化症の研究を志望してMayo Clinicに留学、帰国後は徳島大学にてMGの発症高齢化に関する疫学研究、胸腺における免疫恒常性の維持機構に関する研究を行いました。
長崎川棚医療センター赴任後にMGの自己抗体、特に抗低密度リポ蛋白質(low-density lipoprotein : LDL)受容体関連蛋白質4(LDL-receptor related protein 4 : LRP4)抗体に関する研究を始めました。これは抗LRP4抗体の発見者である樋口 理先生(現・長崎川棚医療センター臨床研究部 免疫・ゲノム医科学研究室長)との出会い、研究活動の開始が大きく影響しています。その他、自己免疫性自律神経節障害における抗自律神経節アセチルコリン受容体(gAChR)抗体など、神経疾患と自己抗体の相互作用についての研究も行っております。2015年4月より熊本大学でこれらの研究活動を継続しております。
2015年11月1日からは熊本大学神経免疫疾患抗体測定センターが発足いたしました。これは安東教授のご尽力によって設立され、既に述べた抗gAChR抗体のほか抗NMDA型グルタミン酸受容体抗体(脳炎)、抗NT5C1A抗体(封入体筋炎)などの測定を行っています。希少とされる神経免疫疾患でも自己抗体の測定が必要な局面は臨床においてはよく経験されます。こういった疾患の臨床的特徴の把握、病態解明のためにはできるだけ多くの施設からの検体を集約できる仕組みが必要という視点から設立されました。

熊本大学 神経免疫疾患抗体測定センター
URL : http://www.kuh.kumamoto-u.ac.jp/dept/i04.html

抗LRP4抗体の発見について

― 抗LRP4抗体はどのような経緯で発見されたのですか?

中根先生:
当時、東京大学 医科学研究所に所属されていた樋口 理先生らが、2011年にLRP4の細胞外領域に対する自己抗体が一部のMG患者血清中に存在することを世界で初めて報告しました1)
彼らは抗AChR抗体陰性MG患者300例[28例の抗MuSK(muscle-specific receptor tyrosine kinase)抗体陽性MGを含むため、double seronegative MGは272例]を対象に抗LRP4抗体の有無を調べ、その結果、9例の抗LRP4抗体陽性患者(うち3例は抗MuSK抗体陽性)を同定し、第3番目の病原性自己抗体として注目を集めました。その後、ドイツと米国から追試報告がなされています2),3)

― 抗LRP4抗体陽性例のMGに占める割合は?

中根先生:
当初の樋口らの報告1)では我が国における抗LRP4抗体陽性MGの頻度は、double seronegative MGの2.2%(6/272例)であり、既報の抗AChR抗体や抗MuSK抗体と比べ極めて低い割合といえます。一方、諸外国の報告は、ドイツではdouble seronegative MGの50%(19/38例)2)、米国では9.2%(11/120例)3)、英国では8.2%(6/73例)4)、ギリシャ(ヨーロッパ圏における共同研究)では18.7%(119/635例)5)とばらつきがみられます。人種間差、地理的要因、抗体測定原理の相違などが影響を及ぼしている可能性もありますが、現在のところdouble seronegative MGの2.2~50%を占めると推測されます。第一報後の日本における抗LRP4抗体陽性頻度を調査する必要があると考え、現在その調査をわれわれの研究グループで継続しています。

抗LRP4抗体の役割について

― 抗MuSK抗体との機能の違いについて詳しくお聞かせください。

中根先生:
2006年にWeatherbeeらは、LRP4はLDL受容体ファミリーの一群に属する1回膜貫通型蛋白質で、その大部分を細胞外領域が占めていることを報告しています6)。2008年には、LRP4は「Agrin受容体である」との報告がなされ7),8)、その後、LRP4や抗LRP4抗体の機能として、以下が解明されつつあります。

  • ① LRP4はAgrin、MuSKいずれとも直接結合する
  • ② Agrin刺激後の筋管細胞でのMuSKのリン酸化酵素活性上昇にLRP4が不可欠
  • ③ AgrinとLRP4の相互作用の阻害により神経筋伝達機能が低下
  • ④ 抗LRP4抗体はAgrinが神経筋接合部のシナプス後膜にて誘導するAChR凝集を阻害
  • ⑤ 抗LRP4抗体はAgrin-LRP4-MuSKシグナルの機能的阻害を行う

図1 神経筋接合部におけるAChR凝集に関与する蛋白質

図1 神経筋接合部におけるAChR凝集に関与する蛋白質
LRP4は膜貫通型蛋白質で、筋膜上に位置し、Agrin、MuSKと複合体をなしている。現在、Agrin-LRP4-MuSK
シグナル仮説のもと、神経筋接合部のAChRが集中的に局在し、シナプス機能を果たしていると考えられている。
中根先生ご提供
― 抗AChR抗体、抗MuSK抗体との機能の違いについて教えてください。

中根先生:
Weatherbeeらの報告6)より、AChR、MuSK、LRP4はいずれも神経筋接合部形成に必須であることには議論の余地はありません。抗体の構成成分であるIgGサブクラスをみると、抗LRP4抗体の大部分は抗AChR抗体と同じIgG1であり、IgG4である抗MuSK抗体とは異なります。しかし、神経筋接合部生検での補体沈着が未証明であり、抗AChR抗体と異なり、補体介在性膜破壊の機序は現時点では否定的です。
LRP4はAgrin受容体であり、AgrinによるMuSKの活性化にLRP4が不可欠であることが証明されており7),8)、そういった意味では抗MuSK抗体に似た、神経筋伝達機能を保持するためのシグナルの機能的阻害による機序も想定されます。さらに、受動免疫・能動免疫による動物モデル作製が可能という報告があります。
これらを踏まえて、抗AChR抗体、抗MuSK抗体と同様に抗LRP4抗体は病原性抗体であると考えられています。

表1 MGの各自己抗体の機能の違いと作用機序

表1 MGの各自己抗体の機能の違いと作用機序
中根先生ご提供

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