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川崎病(KD)

川崎病急性期治療におけるEvidence Based Medicine

国立成育医療研究センター臨床研究センター
データサイエンス部門 部門長
小林 徹 先生

2022年3月掲載
(審J2202267)
―はじめに国立成育医療研究センター臨床研究センターの概要についてお聞かせください。

小林先生:
国立成育医療研究センター臨床研究センターは、小児・周産期医療の分野における本邦唯一のナショナルセンターにおけるARO(Academic Research Organization)として、社会環境や子ども・家族の健康に関連した国際水準の臨床研究の実施・支援を行うことにより、次世代の健全な育成を推進しています。
データサイエンス部門では、当センター内外で実施される臨床研究や医師主導治験などを対象として、研究デザインを意識した研究コンセプトの立案、プロトコールの作成、生物統計、データの信頼性確保、IT基盤の維持といった臨床研究全体に関わる業務を行っています。

Evidence Based Medicine(EBM)

―EBMの概念とその臨床における重要性について教えてください。

小林先生:
EBM(エビデンスに基づく医療)は1991年に世界で初めて提唱され、その後、国際的に認知されるようになった概念です。EBMを日常診療のプロセスに置き換えると、問題の定式化、情報収集、情報の評価、患者への適用、再評価の5つのステップがあるとされています。最初に診療で生じた疑問をキーワードで表現し、次に文献検索などによって情報収集を行います。得られた情報を批判的に吟味し、経験・知識・外部情報を統合した上で、患者さんの考え方を尊重して治療を行います。最後に、行った治療が正しかったかどうかを、ステップの最初に戻って再評価し、必要に応じて方針変更を行います。
EBMで重要なのは、医師の持つ専門性や裁量権を否定して、ランダム化比較試験(RCT)の結果だけを頼りにするものではないという点です。患者さんや家族が医師と話し合いながら、文献などから得られる科学的な根拠に基づいて治療方針を決めていくプロセスがEBMであると考えています。

―EBMを実施するために、文献はどのように読めばいいですか。

小林先生:
New Engl J Med、JAMA、Lancetなどの著名なジャーナルに1990年~2003年に掲載され、2004 年までに1000回以上引用された論文の再現性を検討した研究が、2005年に報告されています1)。その結果、介入が有効であったと報告したランダム化比較試験39論文に関して、その後、同様の効果が報告された論文は約半数にとどまり、介入の無効や悪化などの報告が3分の1程度あったことが示されています。
すなわち、文献を読む際には、情報を批判的に吟味することが求められるということです。そして、文献の情報が正しいかどうかを判断し、患者さんに適応できるかを考える上では、統計学的な有意差と臨床的な有意差の違いを認識することが必要となります。 統計学的有意差はp値で表され、0.05未満であれば効果ありと考えられます。しかし、p値は証拠の質と量の掛け算ですので、治療効果が低くても、症例数が多ければp値は低下します。こうしたp値の臨床的な意味を考慮せず、p値のみを科学的根拠として治療を決定するのは臨床的な判断を誤るリスクが高まります。
一般的な臨床的効果の指標は、相対リスク減少率(Relative Risk Reduction: RRR)、絶対リスク減少率(Absolute Risk Reduction: ARR)、治療必要例数(Number Need to Treat: NNT)の3つです。RRRは介入によるイベントリスクの減少率、ARRは対照のイベント発症率と介入によるイベント発症率の差、NNTは何人に介入をするとアウトカムを1人減らすことができるかを表しており、10以下の場合はその治療が有効であると評価されます。p値だけにとらわれず、これらの数値に臨床的な意味があるかどうかを、医師の視点から評価することが重要です。

『川崎病急性期治療ガイドライン』の概要

―『川崎病急性期治療ガイドライン』2)が2020年に改訂されました。このガイドラインの特徴を教えてください。

小林先生:
ガイドラインは治療や診断の方向性を案内するものであり、新規薬剤の開発やエビデンスの蓄積によってその方向性は変化します。また、ガイドラインに記載された治療は、川崎病の場合、だいたい8~9割の患者さんには有効ですが、逆に1~2割の患者さんでは効果が認められません。治療効果が認められない患者さんに対してどのような治療を選択するかがまさに医師の「腕」となります。
2020年に改訂された『川崎病急性期治療のガイドライン』では、推奨の分類をクラスとエビデンスレベルで表しています。クラスⅠは、手技や治療が有効という見解が広く一致している、推奨される治療法です。クラスⅡはa、bに分かれ、Ⅱaは治療が有効である可能性が高い、Ⅱbは有効である可能性がそれほど高くないとされています。クラスⅢは、治療が有効ではなく、ときに有害であるという見解が広く一致している、行わないことを推奨される治療法です。エビデンスレベルは効果の質を表しており、メタ解析や複数のRCTで実証されたものはレベルA、単一の無作為化の介入臨床試験または大規模な非作為化臨床試験での実証はレベルB、専門家の見解や後ろ向き研究における一致した見解はレベルCとされ、エビデンスレベルはA 、B、Cの順に高いとされています。

エビデンスの批判的吟味

―ガイドラインで推奨されている川崎病急性期の治療について教えてください。

小林先生:
急性期の初期治療においては、川崎病と診断された全例に対するIVIG+アスピリン(ASA)、IVIG不応予測例に対するIVIG+プレドニゾロン(PSL)が、クラスⅠ、レベルAとされています(表1)
このガイドラインの重要な点は、治療の流れに沿ってまとめられたアルゴリズムです(図1)。急性期治療のアルゴリズムでは、標準的治療としてIVIGと中等量のASAの併用、解熱後の低用量ASAが強く推奨されており、この治療が基盤とされています。その上で、IVIG不応例に対してはPSLまたはシクロスポリンA(CsA)の併用、そしてセカンドラインとしてIVIGが推奨されています。それ以外の治療は考慮とされており、医師の裁量権に配慮したアルゴリズムが組まれています。

表1 川崎病急性期治療のクラス/レベル

表1 川崎病急性期治療のクラス/レベル

Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 36(S1): S1.1-S1.29 (2020)より作表

図1 川崎病急性期治療のアルゴリズム

図1 川崎病急性期治療のアルゴリズム

Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 36(S1): S1.1-S1.29 (2020)

―ガイドラインの作成の基になったエビデンスについて教えてください。

小林先生:
このガイドラインはさまざまなエビデンスを基に作成されました。川崎病初期治療におけるIVIGの有効性に関する初めて報告は1984年です。ASA単剤とIVIG分割投与+ASA併用を比較した結果、冠動脈病変(CAL)の合併率はASA単剤群で42%、IVIG+ASA併用群で15%でした。RRRは約27%、NNTは4ということから、IVIG+ASA併用は有効な治療であることが示されました3)
Cochrane Libraryによる系統的レビュー・メタ解析では、IVIG分割または単回+ASA併用は、ASA単剤と比較し冠動脈病変の発生を有意に抑制することが示されました。また、IVIG単回+ASA併用はIVIG分割+ASA併用と比較して冠動脈病変の有意な抑制がみられること、解熱までの期間が短いこと、入院期間が短いこと、有害事象が増えないことが報告されました4)。また7,259例を対象とした市販後調査(Post market surveillance: PMS)では、川崎病におけるIVIG療法による重篤な有害事象の発症は68例(0.94%)76件(1.04%)でした。日本の小児科医の先生方の協力による川崎病全国調査においても、冠動脈病変とIVIGの投与の逆相関が示されています5)。このようにIVIGは、有効性と安全性に関する豊富なエビデンス、長年の使用実績を有し、川崎病治療において強く推奨される治療法であると考えます。
ただその一方で、バイアスが比較的少ないとされるランダム化比較試験であっても、7つのうち1つは結果が間違っているとの報告があることを踏まえ1)、試験結果が正しいかどうかを読み解く力が求められているということを念頭に置いておく必要があります。

―IVIGは製剤によって有効性や安全性は異なりますか。

小林先生:
本邦では、川崎病の治療薬として4製剤が使用されており、製剤によって、化学的処理方法、IVIG濃度、Na含有量、投与時間が異なります。
ひとつの例として、当院で川崎病の急性期治療を受けた337例を対象に、血清Na値と有害事象をアウトカムとして単施設後方視的な観察研究を実施したところ、製剤のNa含有量の違いがIVIG投与前後の血清Na濃度に与える影響は限定的であり、懸念される低Na血症に起因する痙攣や意識障害、神経学的後遺症を残す重篤な有害事象は認められませんでした6)
現時点では製剤の違いによる有効性や安全性の差は明確ではありません。ただし、川崎病急性期では、循環血液量が増加すると心不全が悪化する可能性があるため、水分量が少ない製剤を使用し、補液をしないという考え方もあります。データのみを基に治療を決定するのではなく、患者さんや医療環境に応じて、最善の治療は何かを考慮することが重要となります。

―IVIG不応例に対しては、どのような治療が推奨されますか。

川崎病患者さんの約20%がIVIGに不応であることがわかっており、IVIG不応例では、CAL合併リスクが約4倍と報告されています7)。そのため、IVIG不応患者さんを予測した上で、初期治療の強化をしようというのが本邦の治療戦略です。
ガイドラインでは、初期治療の強化療法としてIVIG+ASAにPSLまたはCsAの併用が推奨されています。RAISE study8)ではIVIG+ASA+PSLとIVIG+ASAを比較(図2)、KAICA trial9)ではIVIG+ASA+CsAとIVIG+ASAを比較した結果(図3)、いずれも3剤併用による CAL合併割合の有意な低下が認められました。一方、RAISE studyおよびKAICA trialにおいて、冠動脈瘤の拡大抑制効果は認められましたが、縮小効果は示されていません。IVIG+ASAにPSLまたはCsAの併用が有用な治療かどうかを評価するために、今後、より大規模な研究が行われることを期待しています。
Cochrane Libraryによる系統的レビュー・メタ解析においてIVIG+PSLは、IVIG単独と比較してCAL合併リスクを低下させる(統合odds比0.3)中等度のエビデンスと評価されました10)。また大規模コホート研究であるPost RAISEでは、IVIG+PSLによるCALの合併割合は、RAISE Studyとほぼ同等であったことが報告されました11)
さらに、第21回および第25回の川崎病全国調査結果12)13)に基づいて、ステロイド初期併用療法前後におけるCAL合併割合と治療抵抗割合を比較した結果、CAL合併割合の相対リスクは47%減少し、治療抵抗例割合の相対リスクは35%減少したことが報告されました。
これらのエビデンスを踏まえて、2020年のガイドラインでは、IVIG+PSLはクラスⅠ、レベルAの推奨となりました。しかし、炎症を隠す、いわゆる“くすぶり型川崎病”が増加する懸念などもあり、IVIG+PSL療法を行っている施設は全国の施設の約半数です。
CsAは作用機序が明確ですが、再現性が証明されていないため、今回のガイドラインではエビデンスレベルがクラスⅡaとなりました。一方、KAICA trial9)において、ITPKC遺伝子変異の有無によって治療効果が異なるかを検討しています。ITPKC変異を有する群における冠動脈瘤の合併割合は、CsAは4%、IVIGは35%、NNTは3と、ITPKC変異を有する症例に対してIVIG+CsAは効果があると考えられました。遺伝子研究をさらに進めていけば、遺伝子レベルで個々の患者さんに合った最適な治療を行うprecision medicineに結び付く道筋ができると考えられ、将来的には、遺伝子解析から最も効果が高いと想定される治療を選択するといったガイドラインとなることが期待されます。

図2 初期治療強化療法(RAISE Study)

図2 初期治療強化療法(RAISE Study)

Kobayashi T et al.: Lancet. 379: 1613–20, 2012. より作図

図3 初期治療強化療法(KAICA Trial)

図3 初期治療強化療法(KAICA Trial)

Hamada H et al.: Lancet. 393: 1128–37, 2019.より作図

―追加治療について教えてください。

小林先生:
追加療法に関しては、CALの予防効果を目途とした十分な検出力のランダム化比較試験が皆無で、ガイドラインとして高いエビデンスレベルで推奨されている治療はありません。
ここでは、近年、追加治療薬として承認されたTNF-α阻害薬のインフリキシマブ(IFX)の成績を示します。IVIG不応例に対して、IFXまたはIVIGをオープンラベルで投与し、プライマリーエンドポイントを48時間以内の解熱割合として、100症例の登録を目標に治験が開始されました。しかし目標症例数の約3分の1が集積された時点で中止になりました。最終成績として、48時間以内の解熱割合は、IFX群はIVIG群と比較して有意に高かったこと(76.7% vs 37.0%)が明らかになりました。CAL合併率は、TNFα群が6.3%、IVIG群が20.0%であり、NNTは7でした14)
一方、Cochrane Libraryによる系統的レビュー・メタ解析では、IFX投与によるCALの合併リスク比は1.18と逆にIFXのCAL合併リスクが高いことが示されました。高度および中等度のエビデンスはメタ解析からは得られず、治療不応例の減少、IVIGのinfusion reactionの減少が、低いエビデンスと評価されました15)
市販後調査の結果16)では、24時間以内の解熱が59.6%、48時間以内の解熱が77.4%、有害事象発症割合は12.4%で、そのうち重篤なものは3.1%でした。なお、BCG摂取後6ヵ月以上、他の生ワクチン接種後3ヵ月以上はインフリキシマブ投与を控えることが推奨されています。
追加治療を要する患者さんにどのような治療を行うかは、主治医の判断にゆだねられており、その際に考えるべきことはEBMのプロセスです。自身の経験と外部情報を評価した上で、患者さんの価値観を考慮した治療を選択することが重要です。

―最後に先生がお考えになるEBMとは何かを教えてください。

小林先生:
EBMとは、RCTやメタ解析そのものを指すものではなく、目の前にある情報と外部情報を正確に評価・統合して、患者さんに最適と考えられる治療を行うことです。
ガイドラインは、診断や治療の基本的な考え方を集約して方向性を示めす“ガイド”であり、あくまで参照する“ライン”ですし、トップジャーナルに掲載されている内容が正しいと決めつけてしまうのもリスクを伴います。臨床の観点から、文献を正しく解釈できるよう日々訓練していくことが、EBMの実践のためには重要であると考えています。

1) Ioannidis JPA: PLoS Med. 2: e124, 2005.
2) 日本小児循環器学会学術委員会 川崎病急性期治療ガイドライン作成委員会: Pediatr. Cardiol. Card. Surg. 36(S1) S1.1-S1.29.
3) Furusho K et al.: Lancet. 2: 1055–8, 1984.
4) Oates-Whitehead RM et al.: Cochrane database Syst. Rev. : CD004000, 2003.
5) 日本川崎病研究センター 川崎病全国調査担当グループ: 第26回川崎病全国調査成績.
https://www.jichi.ac.jp/dph/wp-dph/wp-content/uploads/2021/10/c3f41fb53f1d28ec45f82150d43089fb.pdf-
6) 徳田雄亮ら: 日本小児科学会雑誌. 125: 1278–85, 2021.
7) Zheng X et al.: PLoS One. 16: e0248812, 2021.
8) Kobayashi T et al.: Lancet. 379: 1613–20, 2012.
9) Hamada H et al.: Lancet. 393: 1128–37, 2019.
10) Wardle AJ et al.: Cochrane database Syst. Rev. 1: CD011188, 2017.
11) Miyata K et al.: Lancet Child Adolesc Health. 2: 855-862, 2018.
12) 日本川崎病研究センター 川崎病全国調査担当グループ: 第21回川崎病全国調査成績.
https://www.jichi.ac.jp/dph/kawasakibyou/20110915/mcls21report.pdf.
13) 日本川崎病研究センター 川崎病全国調査担当グループ: 第25回川崎病全国調査成績.
https://www.jichi.ac.jp/dph/wp-dph/wp-content/uploads/2019/09/1bb34be7b6c9f852c1df45cc2ac4152c-1.pdf.
14) Mori M et al.: Sci. Rep. 8: 1994, 2018.
15) Yamaji N et al.: Cochrane database Syst. Rev. 8: CD012448, 2019.
16) Miura M et al.: Pediatr. Infect. Dis. J. 39: 41–7, 2020.

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