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川崎病(KD)

川崎病診断と急性期治療、特に10%免疫グロブリンの使い方と不応例対応について

日本大学医学部附属板橋病院
小児科 准教授
鮎澤 衛 先生

2021年7月掲載
(審J2107081)

※本⽂内に記載の薬剤をご使⽤の際には、製品添付⽂書をご参照ください。

はじめに、日本大学医学部附属板橋病院の概要と川崎病患児の治療についてお聞かせください。

鮎澤先生:
当院は1935年に現在の地に開院されて以来、東京都西北部の特定機能病院として高度先進医療を提供しつつ、地域医療に貢献する中核病院として地域の皆様に親しまれてきました。現在、38の専門診療科と救命救急センターを擁する施設となっています。
小児科では、川崎病に対する大量免疫グロブリン(IVIG)療法、ステロイド療法、インフリキシマブ、ウリナスタチン、シクロスポリンA、血漿交換などの治療を多数経験しています。また、重要な合併症である冠動脈障害に対する早期診断法を確立しており、循環器内科との協力で、ロタブレーターや冠動脈バイパス術などの経験もあります。
私自身、長年、川崎病の診療に携わっており、現在、日本川崎病学会副会長を務め、ガイドラインの作成・改訂に参画しています。また直近では、川崎病と新型コロナウイルス感染症との関連に関する検討も進めています。2021年11月には第41回日本川崎病学会頭を務めます。川崎病と関連する多くの学会と協力しつつ、新たな観点からの原因探求と予防手段の確立を目指したいと考えています。

川崎病診断の手引きについて

川崎病診断の手引きで策定された経緯とその内容についてお教えください。

鮎澤先生:
川崎病は、川崎富作先生が1967年、『アレルギー』1)に最初の報告をされ、世界に認められるに至った疾患です。その川崎病を、どのような疾患として全国調査するかということで、対象症例の診断基準を決めるために1970年に策定されたのが、川崎病診断の手引きの初版です。
当時、川崎病は「小児の急性熱性皮膚粘膜リンパ節症候群」と呼ばれていました。現在でいう主要症状は初版では必発症状とされ、「抗生物質に不応の5日以上続く発熱」の他4項目が必発症状として示されており、このうち発熱を含む4つ以上の症状が認められた場合、川崎病と診断することが提唱されました。初版では参考条項とされていた頸部リンパ節腫脹は、その後、主要症状に入ります。また当初、川崎病は後遺症を残さず同胞発症を見ないとされていましたが、1970年に初めて行われた全国調査で、後遺症として心臓の合併症が出現し、突然死をしている小児が少なからずいて、病理解剖から、冠動脈に瘤状の拡大病変を合併し、血栓が形成されて心筋梗塞を起こして亡くなるのが典型的なパターンであるということがわかりました。心臓合併症を引き起こす病気であることがわかったことで、その後、診断の手引きも改訂が必要になりました。

2019年には『川崎病診断の手引 改訂6版』(表1)が発行されています。改訂の経緯をお教えください。

鮎澤先生:
川崎病治療の最大の目的は、冠動脈病変をできる限り少なくすることです。そのためには、死亡につながる冠動脈瘤(CAA)の発生を抑える必要があり、川崎病の早期診断と早期治療開始がコンセンサスとなってきました。
加えて、診断の主要症状の数を満たさない場合でも、他疾患が否定され、川崎病が疑われる不全型と呼ばれる症例を明確に診断しないと、冠動脈病変を完全には防げないこともわかってきました。また、改訂5版では不全型が約10%存在する2)とされていましたが、その後の全国調査により、不全型は20%前後まで増えてきている3)ことが示されました。こうした不全型の増加に伴って、不全型の定義を明確にする必要が出てきました。一方、冠動脈病変の頻度の変化を見ていくと、時代を追って明らかに冠動脈合併症の抑制効果が得られている4)ことを踏まえ、診断の手引きの改訂に至りました。

発熱に関する定義は変化しているのですか。

鮎澤先生:
発熱の定義は、これまで大きく変遷しています。診断の手引きの初版では、「抗生物質に不応の5日以上続く発熱」との条件がありました。これが川崎病に特徴的な発熱であることは今でも間違いありませんが、例外的なケースも出てきたことから、改訂3版では「原因不明の5日以上続く発熱」とされました。これは、抗生物質が効いて解熱するような場合でも、川崎病としか診断できないようなケースが出てきたためと考えられます。さらに、溶連菌感染やマイコプラズマなど、川崎病を併発する可能性がある感染症もあるため、改訂4版では、「原因不明の」という記載もなくなり、「5日以上続く発熱」とされました。続く改訂5版は、IVIG療法が早期化して、発熱が5日続く前に治療を始めたほうが有効であることが報告され、かつ2g/kg/日の大量投与が承認されつつある時期に策定されました。治療により5日未満で解熱する症例も多くあることを背景に、こうしたケースも5日以上の発熱と認めることになりました。
初回IVIG療法を見ていきますと、2015年から2016年にかけては、第3病日ないし第4病日でのIVIG開始例が30%超、第5病日で35%と、3分の2の症例は5病日以内に治療が開始されていました3)

改訂6版での主な改訂内容についてお教えください。

鮎澤先生:
早期診断の重要性を理解していただくため、発熱に関しては「発熱」の一語としました。この点に関しては、「抗生物質に不応の原因不明の5日以上続く発熱」という最初の定義も念頭において診療していただければと思います。また、「不定形発疹」 の皮膚所見に、BCG接種痕の発赤を含むという点が括弧書きで追記されました。BCG接種はこれまで参考条項に留まっていましたが、BCG接種痕の発赤で発見される疾患は川崎病以外ではあまり見られず、早期診断の観点から特異度が高く、有意義な所見であると考えます。頸部リンパ節の腫脹に関しては川崎病独特の腫れ方があり、山口大学の田代先生はこれを”cluster of grapes”と表現しています5)。この所見はEBウイルス(Epstein-Barr virus)の症状とよく似ています。細菌性化膿性リンパ節と区別するためには、超音波検査が有効ですので、備考として、非化膿性の頸部リンパ節腫脹は、超音波検査で多房性を呈することが多いということを括弧書きで加えました。非化膿性頸部リンパ節腫脹は、年少児では65%と頻度が低いですが、3歳以上では90%と高頻度になってきます。発熱とリンパ節の腫脹だけで来院した小児に、数日後に目や口の所見が出て川崎病だと気付くことも多く、これが初発症状であり得ることも追記しました。

改訂後、川崎病診断はどのように変わりましたか。

鮎澤先生:
旧ガイドラインでは、主要症状が4つ以上ありCAAを伴う場合は川崎病と診断していました。今回の改訂では、主要症状の数とCAAあり・なしの組み合わせによる診断を念頭に、検討を加えました。その結果、主要症状が3つあってCAAを伴う症例を不全型の中心的なパターンと考え、4症状があってCAAがない症例や、3症状があってCAAがない症例も、不全型としました。2症状以下の場合は、川崎病と積極的に診断することは難しいだろうと考えます。CAAを伴う疾患は必ずしも川崎病だけではないという点も意識しながら、主要症状3症状と2症状で分けるということが今回の考え方です。
また、これまでは冠動脈病変ありとする明確な基準はありませんでしたが、この15年間の大きな進歩として、日本人小児の冠動脈の内径を客観的に評価するZスコアが確立されたことを踏まえ6)、今回の改訂ではZスコア+2.5以上の場合を冠動脈病変ありとしました。

参考条項・備考についても改訂されていますね。

鮎澤先生:
改訂5版では、留意すべき所見が臓器別に列記されていましたが、改訂6版では、川崎病と早期診断する上で、より有用と考えられる所見を順に列記しました。診断上有益な所見、すなわち疾患特異性が高く、他の疾患よりも川崎病に特徴的だと思われる7所見です(表1)。このうち胆のう腫大の基準に関しては、川崎病の頻度が高い5歳以下の小児の場合、短径3センチ以上、長径5センチ以上7)を腫大と評価するという点を押さえていただければよいと思います。この他、IVIG抵抗性に関連するとされる要因、および特異的ではないが川崎病を否定しない所見をまとめました。さらに備考では、非化膿性頸部リンパ節腫脹を詳しく説明しています。

表1 川崎病診断の手引き 改訂6版

表1 川崎病診断の手引き 改訂6版

日本川崎病学会 特定非営利活動法人日本川崎病研究センター 厚生労働科学研究 難治性血管炎に関する調査研究班:川崎病診断の手引き 改訂6版. 2019年

『川崎病診断の手引きガイドブック』も出版されていますね。

川崎病の臨床経験が豊富な医師が診ると、川崎病らしい症状というものがあります。例えば「発熱」の一言で表現しきれない所見や、「発疹」にもいろいろあり、ガイドブックではそういったことを詳しく解説していますので、参考にしていただければと思います。

急性期治療のガイドライン

2020年には『急性期治療のガイドライン』8)が改訂されましたが、この改訂の経緯と主な改訂内容について、先生がご担当された免疫グロブリンの項目を中心にお教えください。

鮎澤先生:
川崎病では、IVIG療法とステロイド療法がよく行われていますが、近年、研究や治療法の開発が進み、さまざまなエビデンスが集積されてきました9–12)。このような進歩を踏まえたクラス分類やエビデンスレベルを含むガイドラインが必要と判断し、改訂に至りました。
IVIGは有効性・安全性に関して豊富なエビデンスを有する薬剤であることは、実臨床で実感されていると思います。全国調査によれば、初期治療として約95%の患者さんにIVIGが投与され、そのうちの95%は2g/kg投与が行われていました(図13)。診断方法での主要症状が4つ以下で、CAAが認められない症例や、症状が3つ以下でも他の疾患が鑑別され不全型川崎病と診断される症例は、CAAを合併する可能性があるため、今回の改訂版では、可能な限り早期のIVIG投与開始が推奨されています。また、これらの症例では積極的に心エコーによる冠動脈径の評価を行うことが重要です。

図1 全国調査によるIVIGの実施率および単回投与と不応例の割合

図1 全国調査によるIVIGの実施率および単回投与と不応例の割合

日本小児循環器学会学術委員会 川崎病急性期治療ガイドライン作成委員会:
Journal of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 36(S1): S1.1-S1.29, 2020.

初回IVIG不応の評価のタイミングについてお教えください。

鮎澤先生:
旧ガイドラインでは、IVIG初回投与後24時間後に発熱を認める場合を不応例とし、セカンドラインの追加投与が推奨されていました。しかし、濃縮され液量が少なくなったIVIG10%製剤の登場により、IVIGの投与時間が製剤によって異なるようになったことから、今回のガイドラインでは、不応例と判断する時間的基準を、投与終了後24時間から36時間としました。
すなわち、10%製剤の場合は6~12時間ほどで投与が終わりますので終了後36時間で、24時間かけて投与した製剤の場合は終了後24時間で解熱の判断をし、不応例には追加治療を始めていただければと思います。しかし、初回投与後なかなか解熱しない場合や、熱がさらに上がったり、IVIG施行前よりも検査所見が悪化するなどで、その時間まで待てないような重症例には、基準時間よりも早目の追加治療開始を考慮します。

IVIG10%製剤の特徴を生かした投与方法について、どのようにお考えでしょうか。

鮎澤先生:
美馬先生らの報告では13)、10%製剤の投与時間は7.4時間、5%製剤は15時間、追加投与開始までの時間がそれぞれ45時間と48.8時間であったことが示されました(表2)。投与時間と追加治療開始までの時間が10%製剤で有意に短縮しています。CAAの発生や副作用の頻度に有意差はなく、今後、症例数が増えると、さらに正確なデータになってくると思います。投与時間や追加治療開始までの時間の短縮を期待する場合には10%製剤の投与を検討しても良いかもしれません。

〈用法・用量に関連する使用上の注意〉
(2)投与速度:
ショック等の副作用は初日の投与開始 1 時間以内,また投与速度を上げた際に起こる可能性があるので,これらの時間帯については特に注意すること.
① 初日の投与開始から 1時間は0.01mL/kg/分で投与し,副作用等の異常所見が認められなければ,徐々に速度を上げてもよい.ただし,0.06mL/kg/分を超えないこと,2日目以降は,前日に耐容した速度で投与することができる.
② 川崎病の患者に対し,2,000mg(20mL)/kgを 1 回で投与する場合は,基本的には①の投与速度を遵守することとするが,急激な循環血液量の増大に注意し,6時間以上かけて点滴静注すること.
(献血ヴェノグロブリンIH10%静注添付文書より抜粋)

表2 10%製剤と5%製剤によるIVIG効果の比較

表2 10%製剤と5%製剤によるIVIG効果の比較

美馬隆宏ら:Journal of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 36(3):223-229,2020.
より作表

治療アルゴリズムも改訂されていますが(図2)、2012年版からどのような点が変更されたのでしょうか。

鮎澤先生:
急性期治療ではアルゴリズムが重視されますので、よりエビデンスに基づいたものとするための改訂を行いました。
2012年版では、不応予測例に関する記載は控えめで、高リスクの場合、標準的にはステロイドまたはシクロスポリンを標準とし、ステロイドパルスまたはウリナスタチンを考慮可という記載でした。2020年版では明確なクラス分類・エビデンス分類がなされ、不応予測が高リスクの場合にはシクロスポリンの併用も一つのオプションになったという点が大きな特徴ですが、シクロスポリンについては、今後、リアルワールドでのデータを集積していただきたいと思います。
セカンドラインについては、不応例の定義、および追加治療の必要性を評価するための解熱時間に関する定義が変更されました。推奨治療としてはIVIG再投与、考慮される治療としてステロイド、ウリナスタチンに加え、今回インフリキシマブが追加されました。
サードラインに関しては、いずれの治療もあり得るという点に変更はありませんが、前回入っていたウリナスタチンは、初期に使わないとあまり意味がないという点を強調する意味で、今回はサードラインには入りませんでした。

図2 川崎病急性期治療のアルゴリズム

図2 川崎病急性期治療のアルゴリズム

日本小児循環器学会学術委員会 川崎病急性期治療ガイドライン作成委員会:
Journal of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 36(S1): S1.1-S1.29, 2020.

川崎病心臓血管後遺症の診断と治療に関するガイドラインの改訂についてお教えください。

鮎澤先生:
急性期におけるCAAの重症度を、 Zスコアを用いて評価しているのが改訂版の特徴です。急性期に瘤の定義を満たした場合でも、発症1ヵ月後に瘤の定義を満たさない場合は一過性拡大とし、急性期の一過性拡大や拡大性病変がない場合の外来フォローは、1年後および発症後5年後とされています。CAAの管理について何らかの制限が必要になるのは、巨大瘤になった場合および虚血の所見が出た場合とされています。

新型コロナウイルス感染と川崎病

新型コロナウイルス感染と川崎病はどのように鑑別されるのですか。

鮎澤先生:
新型コロナウイルス感染症パンデミック下の2020年4月~5月に、欧米で川崎病が疑われる症例が出たとの報道がありました。しかし、結局のところこの疾患は「小児多系統炎症性症候群(MIS-C)」という名称になり、その後、日本でも発症例が報告されています。
新型コロナウイルスに感染した2週間後から6週間後の回復期に、一部の小児で、急な強い消化器症状、腹痛、嘔吐、下痢に伴い、あるいはそれらに続いて、心不全、ショックが生じます。患児は集中治療室や救命センターに入院したり、消化器医により胃腸炎と診断されることもあるため、こうした経過が見られた場合、鑑別に注意が必要です。心筋炎と同じような左室の収縮障害も起こりますが、カテコラミン反応性は比較的良好で、フェリチン、IL-6、D-dimer、CRPなどのマーカーが川崎病に比べて高値であること、リンパ球と血小板が発症時から少ないことなどが報告されています。本症は川崎病と比較して年齢が高く、経過として消化器症状と心不全が前面に出るという点で、川崎病の重症例とは鑑別できるのではないかと考えます。川崎病と同様の治療をするケースもありますが、IVIGの保険適応はない点をご留意ください。まだ症例数が少ないため、今後、日本での報告をまとめたいと思っております。
小児科学会のホームページに、診療コンセンサスステートメントを載せておりますので14)、ぜひご一読ください。

1) 川崎富作:アレルギー 16: 178–222, 1967.
2) 厚生省川崎病研究班: 第12回川崎病全国調査成績.
https://www.jichi.ac.jp/dph/kawasakibyou/report20100714/mcls12report.pdf.
3) 川崎病全国調査担当グループ日本川崎病研究センター: 第24回川崎病全国調査成績.
http://www.jichi.ac.jp/dph/kawasakibyou/20170928/mcls24report.pdf.
4) 日本心臓血管外科学会合同ガイドライン日本循環器学会: 川崎病心臓血管後遺症の診断と治療に関する ガイドライン: https://www.j-circ.or.jp/old/guideline/pdf/JCS2020_Fukazawa_Kobayashi.pdf.
5) Tashiro N et al.: Pediatrics 109: E77-7, 2002.
6) 布施茂登ら: 日児誌 113: 928–34, 2009.
8) 日本小児循環器学会学術委員会 川崎病急性期治療ガイドライン作成委員会: Journal of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 36: S1.1-S1.29, 2020.
9) Kobayashi T et al.: Lancet 379: 1613–20, 2012.
10) Miyata K et al.: Lancet Child Adolesc Heal 2: 855–62, 2018.
11) Hamada H et al.: Lancet 393: 1128–37, 2019.
12) Mori M et al.: Sci Rep 8: 1994, 2018.
13) 美馬隆宏ら: Journal of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 36: 223‒229, 2020.

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