TOP 製剤情報一覧 疾患から探す 川崎病(KD) 川崎病のエキスパートに聞く 川崎病急性期診療における小児冠動脈内径Zスコアの活用法について

川崎病(KD)

川崎病急性期診療における
小児冠動脈内径Zスコアの活用法について

NTT東日本札幌病院 小児科 医長
布施 茂登 先生

2018年8月掲載
(審J2006186)

Zスコアを用いた川崎病急性期診断・治療のポイント

―Circulation Journalに掲載された論文について解説頂けますでしょうか。

布施先生:
川崎病は急性の全身性血管炎であり、冠動脈における強い炎症が特徴です。これまで川崎病冠動脈炎は発症後6~8日ごろに動脈の内膜及び外膜の炎症性細胞浸潤として始まり、第10病日ごろ汎動脈炎に至り、動脈全周の炎症へと進展していくこと、動脈構造を保つ上で重要な内弾性板や中膜平滑筋層は単球やマクロファージ、好中球などに傷害され、第12病日ごろに拡大が始まると報告されていました11,12)
我々は、川崎病と診断された時点で治療開始前に心エコーを全患者に行い、冠動脈内径(♯1、♯5、♯6、♯11)を測定しました。それら4つのZスコアのうち最大値を冠動脈Zスコアの治療前最大値(preZmax)とし、川崎病急性期における冠動脈拡大の変化をpreZmaxの値を用いて検証しました。
その結果、実際にpreZmaxで評価すると早い方では第2病日から冠動脈拡大がみられ、日数の経過とともに冠動脈拡大の患者割合は増加することが示されました13)。また、preZmax値1.5、2.0、2.5及び3.0について冠動脈拡大の累積確率曲線を作成したところ、もし川崎病の治療をしなかった場合、第5病日にpreZmaxが2.0以上となる累積確率は20%以上、第7病日では40%、第10病日では70%となり(図3)、第5病日以前に冠動脈拡大が進行し、第10病日まで徐々に増加することが予測されました。PreZmaxが2.0以上では第10病日以降は拡大しておらず、未治療でも約3割の方は冠動脈が拡大しない可能性があると考えられます。これまでも経験上、冠動脈拡大は早期から進行していると考える医師もいましたが、本研究で初めて早期から冠動脈拡大が進行する場合があることが示されました。

図3 川崎病患者における冠動脈Zスコアの治療前最大値(preZmax)別の
冠動脈拡大の累積確率

川崎病患者における冠動脈Zスコアの治療前最大値(preZmax)別の冠動脈拡大の累積確率
Fuse S et al.: Circ J 82 : 247-250, 2018.

―Zスコアは川崎病の早期診断や不全型の診断への応用は可能でしょうか。

布施先生:
川崎病の発症早期や不全型では典型的な症状が揃わないことも多く、心エコーでの冠動脈の評価が重要となります。小児で冠動脈拡大する疾患は、高サイトカイン血症を伴う特殊な病態以外は川崎病しかないといっても過言ではありません。ただ冠動脈病変の初期変化は、見た目だけで判断することは難しいこともあります。Zスコアを算出し標準値と比較をすることで、拡大傾向かどうかを判断し、冠動脈の拡大が認められれば川崎病の診断根拠の1つになりますので、早期に治療を開始し、冠動脈後遺症の増悪を防ぐことができるかもしれません。

―冠動脈後遺症の危険因子について分かっていることを教えてください。

布施先生:
冠動脈後遺症は川崎病全国調査に基づく研究14)で、男児、乳幼児、年長児に多いことが示されており、重症例、初回静注用人免疫グロブリン(IVIG)不応例や難治例及び治療開始が遅れた症例で発症しやすいことが分かっています。また治療開始とは関係なく初回の心エコー検査にて冠動脈拡大を認めた場合は、冠動脈後遺症が80~90%以上と高率に発現するとの報告もあります15,16)。そこで、冠動脈後遺症の危険因子を検討するために、我々は当科に入院した川崎病患者436名を対象に、Zスコアを算出しました。その最大値をZmax、治療前のZmaxをpreZmax、治療後のZmaxをpoZmaxとし、Zmax2.0以上を冠動脈拡大としました。preZmaxとpoZmaxそれぞれ2.0以上の症例を比較し、poZmax2.0以上の症例の危険因子を検討しました。
その結果、単変量解析で男児、群馬スコア8点以上、preZmax2.0以上の項目が独立した危険因子と考えられ、それら3項目を多変量解析したところ、preZmax2.0以上がpoZmax2.0以上の独立した危険因子として示されました(p=0.00017, オッズ比18.8、95%CI:4.07~86.9)17)。この結果から川崎病の治療前に既に冠動脈が拡大している患者は、治療後の冠動脈後遺症の危険性が高いと考えています。

―冠動脈が拡大している患者さんへの治療法はどのようにお考えでしょうか。

布施先生:
川崎病治療の基本はIVIG療法で、川崎病急性期治療のガイドライン18)においてエビデンスレベルGrade Aで推奨されており、治療前に冠動脈拡大がある患者に対しても有効であることが報告されています19-21)。IVIG不応例、不応予測例に対しては、ステロイド追加治療、IVIGとステロイドの初期併用療法が推奨されています。ただしRAISE Study等の研究対象は治療前に冠動脈拡大のない患者であり、冠動脈拡大があった場合は研究対象から除外されています6,22)
2017年のCochrane Database of Systematic Reviews23)では、日本におけるIVIG不応予測スコアに基づく高リスク患者に対するステロイド併用療法の有効性について認めていますが、北米におけるステロイド併用療法については有効性を認めていません。冠動脈拡大患者を対象に含む北米と、含まない日本では研究対象が異なるため、治療前の冠動脈拡大症例に関する言及はなされておらず、日本以外での更なる検討が必要と結論付けています。また、急性期治療にステロイドを使用した場合、冠動脈瘤の退縮(regression)が障害され、遠隔期の冠動脈瘤の残存率はステロイド非使用の場合と比較して高くなるという報告もあります24-26)
川崎病に対するステロイド治療にはいまだ議論が多いのが現状です。日本においては冠動脈拡大がなく、IVIG不応予測スコアが高い患者さんに対し、IVIGとステロイドの初期併用療法を行うことに関してはエビデンスがあると言えますが、治療前の冠動脈拡大症例に対するエビデンスのある治療方法はまだありません。我々の研究でも治療開始前から冠動脈拡大が進行している患者さんが存在すること、その場合は治療後の冠動脈後遺症の危険性が高いことが示されました。川崎病の治療前には心エコーで冠動脈径の評価をなるべく行い、冠動脈拡大がみられると判断される患者さんに対しては、現状ではステロイドの併用は慎重に考えた方が良いと思います。特に治療開始前に既に冠動脈瘤が形成されている場合には、regressionを抑制する可能性が大きいのでステロイドの併用は控えた方が良いと考えています。

―現状日本国内で使用可能な10%IVIGは、献血ヴェノグロブリンIH、献血ポリグロビンNの2剤がありますが、この2剤に期待することをお聞かせください。

布施先生:
私は川崎病の治療は冠動脈が拡大する前に、拡大したとしてもなるべく増悪する前に早く治療を行うことが重要だと考えています。10%IVIGは投与液量が半減するので容量負荷を軽減でき、投与速度を変更しなくても投与時間が短縮できるので、患者さんの冠動脈後遺症の抑制や症状の早期改善に貢献できると思います。第24回川崎病全国調査成績27)でIVIGの投与開始は第5病日が最も多く(図4)、年齢別では第5病日までに投与を開始された患児の割合は2歳未満で74.8%、2歳以上では65.3%であり、2歳未満で早期に投与を開始する傾向がみられました。第10病日以内に治療を行うことが推奨されていますが、IVIG不応例や再燃時の場合、第10病日近くまで治療が長引くこともあり、速やかに再投与できる10%IVIGは利点と考えます。また、川崎病では血清ナトリウム濃度が低下することがありますが、ナトリウム負荷は推奨されていません。血清ナトリウム値が130mEq/L前後であれば、低ナトリウム製剤の10%IVIGの影響はないと思います。また、10%IVIGは液状製剤で10gや20g規格があり、使用に際し便利だと思っています。

*20g規格は、献血ヴェノグロブリンIH10%のみの規格です。

図4 IVIG投与開始時病日(年齢別)

IVIG投与開始時病日(年齢別)
日本川崎病研究センター 川崎病全国調査担当グループ : 第24回川崎病全国調査成績より作図

川崎病を診療されている先生へメッセージ

―最後に川崎病を診療されている先生へメッセージをお願いします。

布施先生:
川崎病の診療では心エコーによる冠動脈の評価は重要ですが、それよりも川崎病と診断した症例については、躊躇せずに治療を開始することが最優先されます。心エコーをしていないからとの理由で、治療開始が遅れるようなことはあってはいけません。
また、心エコーで冠動脈を観察する際、冠動脈瘤は冠動脈の分岐部に形成されやすいのですが、右冠動脈中間部(♯2)は好発部位にも関わらず見逃されやすいので注意が必要です。患者さんを仰臥位、左下側臥位で心エコー検査していても右冠動脈中間部が十分に観察できない場合は、患者さんを右下側臥位にし、心臓の位置を右胸郭方向に移動させて、胸骨の右縁上部にプローブを移動させると右冠動脈中間部が観察できます。川崎病の後遺症は冠動脈に起こることを念頭におき、冠動脈を観察して頂きたいと思います。
川崎病に関するお問い合わせがありましたら、お気軽に下記にご連絡ください。
E-mail: shigeto_fuse@east.ntt.co.jp

1) 布施茂登ほか : 日児誌 113 : 928-934, 2009.
2) de Zorzi et al.: J Pediatr 133 : 254-258, 1998.
3) Newburger JW et al.: Circulation 110 : 2747-2771, 2004.
4) McCrindle BW et al.: Circulation 116 : 174-179, 2007.
5) Olivieri L et al.: J Am Soc Echocardiogr 22 : 159-164, 2009.
6) Kobayashi T et al.: Lancet 379 : 1613-1620, 2012.
7) 日本川崎病学会 小児冠動脈内径標準値作成小委員会 : Z Score Project
http://raise.umin.jp/zsp/outline.html(2018年6月閲覧)
8) Kobayashi T et al.: J Am Soc Echocardiogr 29 : 794-801, 2016.
9) McCrindle BW et al.: Circulation 135 : e927–e999, 2017. DOI: 10.1161/CIR.0000000000000484
10) Haycock GB et al.: J Pediatr 93 : 62-66, 1978.
11) Takahashi K et al.: Pediatr Int 47 : 305-310, 2005.
12) 増田弘毅ほか: 脈管学21 : 899-912, 1981.
13) Fuse S et al.: Circ J 82 : 247-250, 2018.
14) Nakamura Y et al.: Pediatrics 88 : 1144-1147, 1991.
15) Dominguez S et al.: Pediatr Infect Dis J 31 : 1217-1220, 2012.
16) McCrindle B et al.: Circulation 116 : 174-179, 2007.
17) 布施茂登ほか : 日児誌 122 : 1018-1023, 2018.
18) 佐地勉ほか : 日小循誌 Supplement3 : s1-s28, 2012.
19) Furusho K et al.: Lancet 8411 : 1055-1058, 1984.
20) Newburger JW et al.: N Engl J Med 315 : 341-347, 1986.
21) Newburger JW et al.: N Engl J Med 324 : 1633-1639, 1991.
22) Ogata S et al.: Pediatrics 129 : e17-23, 2012.
23) Wardle AJ et al.: Cochrane Database of Systematic Reviews : Issue 1 Art No. : CD011188. DOI : 10.1002/14651858.CD011188.pub2. 1-49, 2017.
24) Millar L et al.: Intern J Cardiol 154 : 9-13, 2012.
25) 草川三治ほか:日児誌 87 : 2486-2491, 1983.
26) Onouchi Z et al.: Circ J 69 : 265-272, 2005.
27) 日本川崎病研究センター 川崎病全国調査担当グループ : 第24回川崎病全国調査成績.
http://www.jichi.ac.jp/dph/kawasakibyou/20170928/mcls24report.pdf

JBスクエア会員

JBスクエアに会員登録いただくと、会員限定にて以下の情報をご覧になれます。

  • 最新情報をお届けするメールマガジン
    (Web講演会、疾患や製剤コンテンツ等)
  • Web講演会(視聴登録が必要)
  • 疾患や製剤関連の会員限定コンテンツ
  • 薬剤師向けの情報
JBスクエア会員の登録はこちら
領域別情報 製剤情報 関連疾患情報
お役立ち情報・患者指導箋など JBファーマシストプラザ JBスクエア会員 講演会・学会共催セミナー
エキスパートシリーズ 情報誌など お役立ち素材 その他コンテンツ 新着情報