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川崎病(KD)

川崎病急性期診療における
小児冠動脈内径Zスコアの活用法について

NTT東日本札幌病院 小児科 医長
布施 茂登 先生

2018年8月掲載
(審J2006186)

―はじめに、NTT東日本札幌病院 小児科の概要と川崎病患児の治療実績についてお聞かせください。

布施先生:
当院は1922年に札幌逓信診療所として開設され、1982年からは保険医療機関として広く地域の皆様に利用される施設となりました。小児科は一般診療の他、乳幼児健診、心臓外来、神経外来を行っており、心臓外来は週3回、私が担当しています。札幌市内の開業医からの紹介患者さんも多く、川崎病の入院患者数は年間約40~50人です。外来では年間700~800人程度診療しています。

小児冠動脈内径Zスコア作成の経緯について

―小児冠動脈内径Zスコア(以下Zスコア)作成の経緯についてご教示頂けますか。

布施先生:
Zスコアとは冠動脈内径を客観的に評価するためのもので、体格ごとの小児冠動脈内径の標準値であり、標準偏差と同じ意味合いを持つ統計学の用語です。今から10年程前、北米ではZスコアによる冠動脈内径の評価が普及しつつありましたが、当時の日本には実測値での評価法しかなく、国際標準で川崎病の臨床比較ができない状況でした。そこで日本でZスコアを普及させるために、当科の入院・外来患者を対象に正常小児約500例の冠動脈内径を計測し、3年がかりでZスコア標準曲線を作成しました1)。実際には既に海外でZスコア標準曲線がいくつか作成されていましたが2-5)、私の作成したものも含め、いずれも症例数が少なく、統計学的に誤差が大きく、エコー計測手技も統一されていませんでした。ただ、国内で発表したZスコア標準曲線に対する反響は大きく、日本川崎病学会やRAISE Study6)のリーダーである小林先生、佐地先生の要請を受け、改めて2010年に小児冠動脈内径標準値作成 多施設共同研究としてZ Score Project7)を立ち上げ、研究代表者として実施しました。

―Z Score Projectはどのように進行されたのですか。

布施先生:
実施にあたっては、当時の日本川崎病学会会長 濵岡先生をはじめ多くの先生方に御力添えを頂き、研究小委員会として川崎病を診療されている全国の先生方に研究への参加協力を依頼しました。Zスコア作成にあたりエコーの計測手技が統一されていないことが課題で、施設によっては事前に計測手技の講習を行う必要がありました。冠動脈の計測部位は付番されているだけで15ヵ所あるのですが、Z Score Projectでは代表的な右冠動脈近位部(♯1)、左冠動脈主幹部(♯5)、左冠動脈前下行枝近位部(♯6)、左冠動脈回旋枝近位部(♯11)の4ヵ所としました。正常児のデータ集積は難しいと思われましたが、1年半で約4,000例の症例が集まり、統計学の専門家による解析を経て、2016年に英文誌に掲載されました8)

Zスコアを用いた冠動脈病変の評価方法

―米国心臓協会(AHA)のステートメントについてご教示頂けますか。

布施先生:
2017年にAHAは川崎病の診断、治療、長期管理に対する新たなステートメント9)を発表し、冠動脈拡大及び冠動脈瘤を1)異常なし:常にZスコア2未満、2)冠動脈拡大:Zスコア2以上~2.5未満、3)小冠動脈瘤:Zスコア2.5以上~5未満、4)中冠動脈瘤:5以上~10未満かつ実測値8mm未満、5)大または巨大冠動脈瘤10以上または実測値8mm以上、とZスコアを用いて定義しました。日本の冠動脈Zスコア曲線では、小児でも性差により冠動脈内径が若干異なることが分かりました。冠動脈拡大の評価は冠動脈内径の絶対値よりも、体格や性別で標準化したZスコアの方が客観的に評価できます。つまり冠動脈が拡大しているか正常なのかの線引きがより厳密に可能になったと思われます。今後は日本のガイドラインもZスコアによる評価基準も使われるようになっていくと考えられます。

―実際、Zスコアはどのように活用すればよいのでしょうか。

布施先生:
ZスコアはZ Score Projectのホームページから計算機のバナーをクリックすることで簡単にご活用頂けます。計算機にはエクセル版とスマートフォン版(図1)があります。まず性別を選択し、身長、体重、冠動脈実測値を入力することでZスコアが表示されます。実測値の入力はZ Score Project同様に4ヵ所(♯1、♯5、♯6、♯11)ですが、実際の診療では♯2や♯7の冠動脈瘤の評価も必要になります。♯2のZスコアを計算する場合は♯1を♯7のZスコアを計算する場合は♯6を代用してください。
また、身長と体重から体表面積を算出するノモグラム10)を用いて、体表面積と冠動脈内径の実測値からZスコアを算出する下敷きもあります(図2)。例えば男児、身長85cm、体重15kgの場合、体表面積0.6となります。右冠動脈の実測値が3.1mmだとZスコアは3.22で赤のZスコア2.5のグラフの上となり、冠動脈拡大が一目瞭然で分かるように工夫されています。日本のZスコアは精度が高く、Zスコア標準曲線により詳細かつ客観的な冠動脈拡大の評価が可能ですので、ご活用頂くことをお奨めします。

図1 Zスコア計算機のスマートフォン版
https://kwsd.info/

Zスコア計算機のスマートフォン版
布施茂登 : 臨床検査 60 : 600-606, 2016.

図2 小児冠動脈内径Zスコア曲線(男児用)

小児冠動脈内径Zスコア曲線(男児用)
監修:NTT東日本札幌病院 布施茂登 先生/国立成育医療研究センター 小林徹 先生
日本血液製剤機構提供

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