川崎病急性期の最新の診断・治療のポイント、
IVIG不応例への治療方針
東京都立小児総合医療センター
循環器科 部長
三浦 大 先生
(審J2006187)
東京都立小児総合医療センター
循環器科 部長
三浦 大 先生
基本薬であるIVIG、ステロイド、アスピリンについてまとめます。
<IVIG>
悪寒戦慄、アナフィラキシー、心不全などを認めた場合には、中止して適宜、昇圧剤などの加療を行います。再度IVIGを行う場合は、製剤を変えて緩徐に投与したり、ステロイドや抗ヒスタミン薬を併用したりします。このほか、低体温、無菌性髄膜炎、肝機能障害、溶血性貧血、血小板数減少、急性腎不全などの副作用があります。血液製剤であることから、プリオンやパルボウイルスB19などの感染症のリスクは否定できません。最近は製剤の精度も上がり、アナフィラキシーなどは経験していません。上記を含め添付文書に記載されている副作用には留意しますが、比較的安心して使用できると考えています。
<ステロイド>
ステロイド剤には様々な副作用がありますが、感染症と消化管出血が主な問題となり、食欲亢進、高コレステロール血症、白血球数増多もしばしば認められます。経過中の発熱時には川崎病の再燃か感染症の併発かの鑑別が必要になります。消化管出血については予防のため、RAISE Studyに準じて、我々はファモチジンを併用しており、消化性潰瘍の経験はありません。
ステロイドパルスの特徴的な副作用として洞徐脈、低体温が発現します9)。特にIVIGとPSL併用時に洞徐脈が高率に発現しますが、ほとんどは一過性ですので治療は必要ありません。徐脈は、通常量のプレドニゾロン投与例でも認められ、むしろ有効性を示す指標と考えてもよいと思います。体温、脈拍、血圧などの変化をみるために、ステロイドパルスの際はバイタルサインの観察が必要です。副腎皮質機能抑制に関しては、終了後6ヵ月間はストレス時のステロイドカバーが必要になることがあります。
<アスピリン>
副作用は出血、消化性潰瘍、喘息誘発発作、肝機能障害、皮疹、食欲不振、腎障害などで、異常を認めた場合には中止し、代替薬への変更や対症療法を行います。長期にアスピリンを使用する際には、血液検査を行い肝機能障害などがあれば減量・休薬します。
ただしアスピリンは基本薬であり、川崎病が軽快すれば肝機能障害は改善するため、よほどのことがない限りは使用を奨めます。また、川崎病の回復期に発熱などの再燃兆候がなくても発疹が増悪することがあります。これは指先からの膜様落屑や爪甲横溝などと同様に回復期の合併症と考えています。そのため安易にアスピリンによる薬疹と診断し、中止しないよう留意していただきたいと思います。
慢性期の管理はCAAの有無と程度で異なります。CAAを経過中に認めないか、一時的に生じても第30病日までに回復する症例(一過性拡張)ではアスピリンを6週~3ヵ月間で中止します。第30病日以降にCAAを残した症例では、退縮時までアスピリンを継続します。アスピリン服用中に水痘やインフルエンザを発症した際は、約1週間アスピリンを中止し、通常は他の抗血小板薬に変更する必要はないと考えています(アスピリンを服用中止してもその作用は1週間継続します)。
中等瘤はクロピドグレル、ジピリダモール、他の抗血小板薬を組み合わせて服用することがあります。巨大瘤では、一般に血栓防止のためにワルファリンが併用されます。ただ巨大瘤の定義を内径の実測値とするかZスコアとするか、縮小化しない場合いつまで服用するかについては議論があります。今後、ワルファリンに代わる直接作用型経口抗凝固薬(DOAC:direct oral anticoagulant,NOACの新名称)の臨床試験が期待されます。
瘤の形態や発症年齢なども関与しますが、瘤の大きさが最も影響を与えるので11)、日常診療では冠動脈内径の実測値に基づき管理されています。日本のガイドライン10)では4 mmと8 mmで区分し、小動脈瘤(拡大)、中等瘤、巨大瘤に分類されています。また、4 mm超では残存病変があり、6 mm超では狭窄のリスクがあることから12),13)、前者では狭窄に注意し、後者は巨大瘤に準じた観察が推奨されています。
一方、小児では成長の要素があるので、冠動脈内径は実測値でなく体表面積で補正したZスコアで評価する方が妥当である可能性があります。米国の新しいガイドラインでは、Zスコア5以上が中等瘤、Zスコア10以上または実測値8 mmが巨大瘤と定義される予定です。日本でも小児の冠動脈内径の正常値が確立したことから、Zスコアによる評価が普及すると予想しています。
我々は、全国44施設の協力を得まして、0~18歳時にCAAの検査として初回冠動脈造影検査を行った川崎病患者を対象に、Zスコアにより分類し、冠動脈における血栓形成・狭窄・閉塞のイベント回避率を後方視的に検討しました。その結果、巨大瘤の患者では小動脈瘤、中等瘤と比較し左右冠動脈いずれもイベント回避率が低下し、男性は女性に比べイベント回避率が低下することが分かりました。Cox比例ハザードモデルによる多変量解析でも、Zスコアによる巨大瘤と男性が独立した危険因子でした。現状は冠動脈内径に基づき管理していますが、今後は性差についても考慮する必要があるかもしれません。
川崎病の治療においては早期に適切な診断を行い、患者を層別化して重症例こそ早めの治療を施すことが重要です。まず瘤を作らないこと、瘤ができたとしても巨大瘤にならないようにすること、たとえ巨大瘤になったとしても慎重な管理をすることで川崎病全体の成績と予後は向上します。ステロイドを初めとする強い抗炎症療法を早期に行うことは、仮に瘤ができたとしても将来的な予後を良くする可能性があると考えます。今後RAISE Studyに匹敵する、質の高いエビデンスが日本から発信されることを期待しています。
※本文内に記載の製剤をご使用の際には、製品添付文書をご参照ください。
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