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川崎病(KD)

川崎病急性期の最新の診断・治療のポイント、
IVIG不応例への治療方針

東京都立小児総合医療センター
循環器科 部長
三浦 大 先生

2016年10月掲載
(審J2006187)

はじめに東京都立小児総合医療センターの概要についてお聞かせください。

当院は2010年に清瀬小児病院、八王子小児病院、梅ヶ丘病院の3病院と府中病院小児科が統合し、東京都の小児医療の拠点として整備、開設されました。37診療科を有し、約600床と小児病院としては日本一の病床規模を誇る小児総合医療施設です。
隣接する多摩総合医療センターと周産期医療や移行医療で連携しており、出生前から一生を終えるまで一貫した患者管理が可能なことが特徴です。また救命救急や集中治療に強く、集中治療が必要な重症患者は、ヘリコプターで日本全国から搬送されてくることもあります。国家戦略特区に認定後は先進医療が可能となるため、国立成育医療研究センターと協力しながら日本の小児医療の臨床・研究を率いていくリーディングホスピタルを目指しています。

貴院では川崎病の患者さんをどのくらい診察されていらっしゃいますか?

川崎病急性期の患者は総合診療科で診ており、新規の入院患者数は年間約100~120名です。外来においても総合診療科の川崎病外来が中心で、月に40~50人を診療しています。冠動脈瘤(CAA)合併例は循環器科で診ますが、発症1ヵ月以降も残存する後遺症の割合は現在2~3%1)まで減少していますので、当科では慢性期のCAAを残存する患者を年間40~50人フォローしています。
成人のCAA患者をフォローする場合もありますが、個人的には川崎病CAAの最大の合併症である心筋梗塞の発症を想定し、高校生以降は多摩総合医療センターの川崎病外来や一般病院の循環器内科に転院させるのが良いと思っています。

川崎病急性期の診断・治療のポイントについて

初めに軽症例における診断・治療のポイントについて教えてください。

川崎病では診断の手引き2)に基づき、6つの主症状のうち5つ以上の症状を伴うものを川崎病(定型例)とし、主要症状が4つ以下の症例は一般に不全型と呼ばれます。定型例の診断は比較的容易ですが、不全型では主要症状が軽度かつ一過性で全てが揃わない場合があるため、鑑別診断が難しくなります。そのため保護者に発疹などの写真を撮って頂くことをお奨めします。今はスマートフォンの時代ですから撮影は簡単で、写真を持参頂くことで有用な診断に繋がることがあります。全ての小児の発熱性疾患に川崎病を念頭に置く必要があり、川崎病の疑いがあれば心エコーを必ず行います。
治療のポイントは、適切な早期診断により免疫グロブリン(IVIG)療法のタイミングを逃さないことです。不全型でも発熱が一定期間継続した場合にはIVIG投与を行うべきと考えています。当院では4症状であれば4病日以降(診断に迷う場合でも5病日まで)、3症状であれば5病日以降(診断に迷う場合でも7病日まで)、1~2症状では川崎病と鑑別しにくいので、心エコーで冠動脈拡大の兆候がみられればIVIGを開始する方針としています。

ガイドラインには「7病日以前にIVIGが開始されることが望ましい」と記載されていますが、早期にIVIGを開始されるのですね。

病理学的に8~10病日で冠動脈に汎血管炎が生じ、10~12病日からCAAが出現するといわれています3),4)。以前は7病日以内にIVIGの開始を考えていましたが、現在は5病日以内に半数以上の患児にIVIGが投与される時代です。したがって7病日以内に2nd lineの治療(多くはIVIG再投与)、9病日までには3rd lineの治療を開始し早期に解熱を目指したいと考えます。初回に診断がついた場合、これぐらいの速いスピードで1st、2nd、3rd lineの治療を行えば、CAAを抑制できるか、仮に抑制できないとしても巨大瘤にはなりにくいと思います。
高度の炎症が治まった後、微熱(腋下体温で37.5℃以上)や軽度のCRP上昇がみられる際には炎症がくすぶっていることがあり、CAAの悪化に注意が必要です。これは“くすぶり型川崎病(indolent KD)”と呼ばれ、IVIG投与を行わずに自然解熱した例の一部にもみられ、CAAの合併も高率です。自然解熱した場合にも保護者に注意を促し、1ヵ月程度はCAAの発現に留意しフォローを行うべきと思います。

次に重症例における診断・治療のポイントについて教えてください。

急性期では標準治療であるIVIG療法を行っても終了後24時間以内に解熱しない例、あるいは解熱しても再発熱する例を不応例とします。このような初回IVIG不応例は15~20%存在し、CAA合併の主な原因となります。そのためIVIG開始前の臨床データに基づき、不応例を予測するリスクスコア(表1)5)-7)が提唱されています。重症例に対してはリスクスコアを活用し、重症度を層別化して強化治療を行うことが推奨されます。
リスクスコアの項目である好中球数増加、血小板数低下、低ナトリウム血症、肝機能異常、CRP高値は重症度の指標と考えられ、貧血、低アルブミン血症、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP: brain natriuretic peptide)なども病勢を反映します。診断時にCAAの兆候、心機能低下、心膜液、弁逆流といった心エコーの異常があれば注意を要します。またショック、血球貪食性リンパ組織球症(HLH: hemophagocytic lymphohistiocytosis)、心タンポナーデ、脳症などを伴う場合は、超重症例として、救命を最優先とした特別な措置を行います。私はIVIG療法とステロイドパルス療法を最初に行うほうがよく、経過によりシクロスポリン、インフリキシマブ、血漿交換なども選択肢になると考えます。

表1 IVIG療法不応例を予測するリスクスコア

表 IVIG療法不応例を予測するリスクスコア
三浦大: 小児科臨床 68 : 671-677, 2015
IVIG不応例への治療方針について

IVIG不応例に対する治療方針についてお聞かせください。

多くの施設は1st lineでIVIGの初回投与、不応例に対し2nd lineでIVIGの追加投与を行っていますが、次の選択肢としてステロイド療法を行うか、それ以外の薬剤を投与するかは施設間で異なってきます。ステロイド療法は川崎病のCAAを悪化させるのではないかとの懸念から長く禁忌とされた時代がありましたが、2012年にRAISE Study8)の結果がLancet誌に掲載され、現在ではステロイド療法は世界的にも注目を集めています。実際に英国では、重症例にステロイド療法を初期段階から推奨していますし、米国でも選択肢として提示されています。エビデンスレベルの低い後方視的なデータに基づき、ステロイド療法を批判することは止めるべきです。

<RAISE Study8)
本試験は川崎病に関する日本で初めての前方視的多施設共同ランダム化比較試験であり、小林スコア5点以上の重症川崎病患者に対するIVIG+プレドニゾロン初期併用療法(IVIG・PSL併用群)が、標準的治療であるIVIG単独療法(IVIG単独群)よりも優れているかどうかを検証しています。

IVIG単独群

その結果、IVIG・PSL併用群 vs. IVIG単独群の比較で、CAA発生率は経過中で3% vs. 23%(p<0.0001, Fisher’s exact test)、治療開始4週後で3% vs. 13%(p=0.014, Fisher’s exact test)とIVIG・PSL併用群で有意に少なくなりました。

RAISE StudyによりIVIG不応例が予測される重症川崎病に対する初期治療として、IVIG・PSL併用はIVIG単独と比較してCAA予防に優れ、早期に解熱し、追加治療の必要例も減少することが示されました。ただし、RAISE Studyは唯一のランダム化比較試験であるため、その追試を目的として、我々はPost RAISEを実施しました。

<Post RAISE>
Post RAISEは、不全型を含む全ての川崎病を対象としたコホート研究で、小林スコア5点以上の症例に対し、IVIG単独療法による従来の標準的治療を行うか、RAISE Studyと同様の方法でIVIG・PSL併用療法を行うかいずれかを施設毎の選択としています。約2,500例が登録され、うち500例以上の患者がIVIG・PSL併用療法を行っています。試験は終了し集計段階ですが、RAISE Studyと同様に、IVIG・PSL併用群にてIVIG不応例の比率、CAA発生率いずれも低率に抑えられています。
IVIG・PSL併用療法を行えばIVIG不応例は減らせますが、IVIG・PSL併用の不応例で十数%、反応例でも数%にCAAの合併がみられます。我々はIVIG・PSL併用不応例のリスク因子として総ビリルビン値に注目し、ビリルビンのカットオフ値を1.0 mg/dLとした場合、感度、特異度が共に高いことを発見しました。今後は小林スコア5点以上、ビリルビン1.0 mg/dL以上の症例については、新たな強化療法を検討しています。
IVIG・PSL併用反応例にCAA合併が起こる理由の1つとしては、一見改善したようにみえても、くすぶり型のように軽度の炎症が続く症例の存在が考えられます。元来、ステロイド使用例は小林スコア5点以上の重症例であり、そのため仮に解熱しても安心せず、入院中は心エコーを繰り返すなど、くすぶりによるCAA合併に留意するべきです。

低ナトリウム血症をきたす症例があるかと思いますが、IVIG製剤間におけるナトリウム濃度の違いは治療の上で重要でしょうか?

川崎病の場合、炎症により抗利尿ホルモンが分泌され、その作用により体内に水分が貯留し、ナトリウム濃度が低下することが分かっています。いわゆる抗利尿ホルモン分泌異常症(SIADH : syndrome of inappropriate secretion of antidiuretic hormone)が原因と考えられ、IVIGやステロイド投与によって早期に炎症を抑制することで低ナトリウム血症は是正されます。当院では、水分量を制限するために原則としてIVIG製剤投与の間は輸液も入れていません。つまり第1に炎症を抑え、第2に水分量を制限することによって低ナトリウム血症は是正されますので、IVIG製剤間におけるナトリウム濃度の違いは重要ではないと考えています。

2013年1月に発売された10%IVIG製剤の印象はいかがでしょうか?

欧米ではすでに10%製剤が主流ですが、投与時間・投与量が半減し患者さんにとって循環負荷を軽減できるだけでなく、早期にIVIG不応例を見極められることが利点と考えます。例えば、初回投与で12時間、不応例の場合に2nd lineでIVIGの追加投与を12時間で行えば、合計で24時間早く不応例の判定に活用できます。もともと日本は他国に比べ医師の診断能力が高いため、川崎病の診断が早く、全国調査1)でもIVIG療法の開始は第5病日が最も多く、第4病日以内も30~40%を占めますので(図1)、10%IVIG製剤の普及によってCAAが減少する可能性もあると思います。

図1 IVIG投与開始時病日(年齢別)

図1 IVIG投与開始時病日(年齢別)
初回IVIG使用例29,322人のうち1日投与量、投与日数、投与開始時病日不明34人を除く29,288人を集計した。
四捨五入の関係で百分率の合計は100%にならないことがある。
第23回川崎病全国調査成績より作図

2015年に保険収載されたインフリキシマブについてはいかがでしょうか?

今後はエビデンスが蓄積され、臨床現場に浸透していくと考えられます。注意点として、ステロイドとインフリキシマブを併用する際には免疫抑制作用が強くなるため、特に感染症の合併症には留意しなければなりません。発熱が継続した場合には、川崎病の不応例なのか、感染症なのか、あるいは他の疾患なのかを臨床医はよく見極める必要があると思います。

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