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ギラン・バレー症候群

GBSの予後予測と治療~今後の展望~

埼玉医科大学総合医療センター 神経内科 教授
海田 賢一 先生

2022年3月掲載
(審J2203281)

―埼玉医科大学総合医療センター 神経内科の概要をご説明ください。

海田先生:
当科には免疫性神経疾患症例が多く、多発性硬化症/視神経脊髄炎、重症筋無力症、免疫性ニューロパチーについて専門外来を展開しています。多発性硬化症/視神経脊髄炎は約150名、重症筋無力症も約100名、免疫性ニューロパチーは慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP)を中心に、抗MAG抗体陽性ニューロパチー、EGPA(好酸球性多発血管炎性肉芽腫症)、POEMS症候群など約80例診療し、ギラン・バレー症候群は年間約20例診療しています。入院症例の内容は、免疫性神経疾患(中枢・末梢神経)は25%、脳血管障害45%、そのほか30%(パーキンソン病をはじめとする神経変性疾患、筋疾患、感染症など)です。免疫性神経疾患診療では多くの治療介入試験に参加し、新規免疫療法をいち早く導入できることも当科の特徴です。また、血液浄化療法は血液浄化療法センターだけでなくICUにおいても施行でき、非常にフレキシブルに最適な治療計画を立てることができます。
当科のもう一つの特徴である脳血管障害診療に関しては、急性期血栓溶解療法、血管内治療(カテーテルによる血栓回収療法)による血行再建療法を脳神経外科と協同し24時間施行できる態勢にあります。血行再建療法を行った患者数は脳梗塞患者全体の約20%です。2019年度の脳梗塞入院患者は347例でした。

―先生はどのような研究をされているのですか?

海田先生:
助教や大学院生らとともに、免疫性神経疾患の病態解明と新規治療法の開発をテーマとした研究を行っています。現在は神経免疫疾患のリンパ球サブセット解析を中心に病態解析を行い、免疫療法に対する反応性の個体差、重症化因子の同定に取り組んでいます。また、自己抗体に焦点をあて、免疫性ニューロパチーを中心に新規標的抗原及び自己抗体の同定、測定法の確立、病的意義(神経障害作用など)の解明に関する研究を防衛医科大学校脳神経内科と共同して行っています。

GBSの予後

―GBSの予後について教えてください。

海田先生:
GBSは単相性の経過を辿り、多くは半年~1年で寛解するため、予後良好な疾患と捉えられがちです。しかし、免疫グロブリン静注療法(IVIg)または血漿交換療法(PE)導入後にGBSの予後を解析した10本の前方視的治療介入研究をまとめた報告によると、約16%が発症後1年以降も独歩不能で、約14%が重篤な運動障害を有しています1)
また、GBS患者さん(n=29)を発症後10年まで前方視的に追跡したスウェーデンの報告では、25名がGBS重症度分類1以下と走行可能でしたが、歩行に関する自己評価(Walk-12)では約4割が歩行速度や歩行距離に制限があると回答していました2)。発症後1年の時点で独歩可能であった小児GBS患者さん37名(男女比19/18、発症年齢中央値9歳、IVIg30例、血液浄化療法1例)を、平均11年間(1~22年)追跡した報告でも、65%にGBSに関連した何らかの訴えが残っており、22%に強い疲労感、24%に手足の疼痛、30%に神経学的後遺症、26%に留年、転校など学校生活への悪影響がありました3)
このようにGBS患者さんの予後は必ずしも良好ではなく、ADLが自立していても、残存症状に悩まされ、学業や就業に悪影響があるなどQOLという点において問題のある患者さんが少なからずおられます。

GBSの予後予測の意義

―GBSの予後予測の意義についてお話しください。

海田先生:
GBSは急速に進行し、中には人工呼吸器装着が必要になる患者さんもおられます。患者さんやご家族は手足が動かない、呼吸ができないなどの“今”の状態に大きな衝撃を受けられますが、同時にどこまで悪くなるのか、どれぐらい入院するのか、後遺症は残るのかなど“今後”に対しても大きな不安をもたれます。そのため、治療やリハビリテーションに積極的になれなかったり、鬱状態になったりする患者さんもいます。最近では、GBSを含む急性末梢神経障害例に対して、急速に悪化する不安や予後の悪い状態への対処、本人やご家族への告知、挿管や人工呼吸器装着のつらさや後遺症を持ってしまう時のショックへの配慮など、様々な倫理的配慮が必要だと強調されています4)。予後をできる限り早く、かつ正確に予測することは、このような様々な倫理的配慮を適切に行うために意義があると考えています。

GBSの予後関連因子と予後予測ツール

―GBSの予後関連因子にはどのようなものがありますか?

海田先生:
GBSの予後関連因子(図1)5)は、①臨床的予後関連因子、②生物学的予後関連因子、③電気生理学的予後関連因子の3つに分類されます。これまでに多くの予後関連因子が報告されていますが、大きな母集団での前方視的治療介入試験や観察研究で確認されている因子は多くありません。臨床的予後関連因子として、発症後6ヶ月の独歩不能を予後不良とした場合の予後関連因子として、先行する下痢、高齢、入院時の四肢筋力低下の強さなどが報告されています6~9)。人工呼吸管理も予後不良と関連しており、その予測因子として34研究のメタ解析結果から、発症から入院までの期間が短い(<7日)、球麻痺、頸部筋力低下、入院時の強い四肢筋力低下が同定されています10)。また、生物学的予後関連因子のうち、独歩不能と相関すると考えられている因子には、ΔIgG値、血清アルブミン(Ab)値、糖尿病があり、独立した因子です。IVIg投与開始2週間後のΔIgG値、Ab値が低値であることは、それぞれ発症後6ヶ月の独歩不能と相関していると考えられます(欧米ではΔIgG値≦730mg/dL 11)、日本ではΔIgG値<1,108mg/dL12) 、Ab値<3.5g/dL13) )。また、糖尿病14)については発症後3ヶ月の独歩不能と相関するとみられています。ただし、これらの生物学的予後関連因子が予後不良と相関する理由は明確にはなっておらず、その解明が今後の課題です。
 その他に、生物学的予後関連因子としては肝酵素上昇、血漿コルチゾール高値、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)、抗GQ1b抗体やIgG抗GM1抗体、抗GD1a/GD1b複合体抗体などの自己抗体などが報告されていますが、いずれも後方視的あるいは少数例の解析にとどまっています。電気生理学的予後関連因子も総腓骨神経での伝導ブロック、脱髄型所見などが報告されていますが、人種や測定時期など様々なパラメーターを考慮する必要があるため、今後さらなる検討が必要です。

図1:GBSの予後関連因子

GBSの予後関連因子
海田賢一, 臨床神経学 2013; 53:1315-18の図1より改変

―実際にGBSの予後はどのように予測されていますか?

海田先生:
当科では、GBS患者さんが入院されると必ず、臨床的予後関連因子をスコア化した予後予測ツール、具体的にはGBS発症後3、6ヶ月の独歩不能を予測するmodified(m)EGOS9)と1週間以内に人工呼吸器管理となる可能性を予測するEGRIS15)の2つを用いて予後を予測しています。6ヶ月後に独歩不能の確率が高い、人工呼吸器管理となる可能性が高いとなると、そうでない場合とは、治療方針や患者さんや家族への説明も異なってくるからです。
なお、mEGOSは発症年齢、先行する下痢、入院時/第7入院日の四肢筋力低下の強さ(MRC sum score)を点数化し、第7入院日に8点であれば3、6ヶ月の独歩不能率は40%、25%となります9)。EGRISはGBS発症から入院までの期間、顔面神経麻痺/球麻痺の存在、入院時のMRC sum scoreを点数化し、5点以上であれば65%が1週間以内に人工呼吸器管理になるというものです15)

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