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ギラン・バレー症候群

予後改善をめざしたGBS治療のあり方

埼玉医科大学総合医療センター神経内科 客員教授
野村 恭一 先生

2019年4月掲載
(審J2006213)

GBSの治療について

―GBSにはどのような治療法がありますか。

野村先生:
GBSの治療は、疾患自体に対する積極的な治療法である免疫調整療法と、急性期の合併症をはじめとする神経症候に対する補助・対症療法に分けられます。免疫調整療法としては、血液浄化療法[単純血漿交換法(Plasma exchange:PE)、二重膜ろ過法(Double filtration plasmapheresis:DFPP)、免疫吸着法(Immunoadsorption plasmapheresis:IAPP)]とIVIgがあります。また、補助・対症療法には、嚥下障害、呼吸不全、不整脈、疼痛などに対する対症療法や、肺炎、塞栓症(静脈血栓、肺塞栓)に対する予防、精神症状に対するサポート、リハビリテーション療法などがあります。

―血液浄化療法とIVIgの使い分けを教えてください。

野村先生:
治療法の選択は、患者さんの全身状態、医療施設の状況、治療法の実施手技の熟練度、および適応禁忌や副作用(表3)などを考慮して行います。近年では、治療法の簡便性、利便性からIVIgが第一選択として実施されるようになっていますが、とくにIVIgは小児、高齢者、低体重、自律神経障害、循環不全、全身感染症を合併する症例において優先されます7)。中でも自律神経障害を合併している場合は、血液浄化療法を行うと不整脈を誘発することからIVIgを選択します。ただし、自律神経障害の有無はみただけではわかりませんので、患者さんの眼球を圧迫して、心拍数の変動をみて(眼心臓反射)、自律神経障害の程度を判断しています。目をおさえるだけで心拍数が下がれば、自律神経障害が強いと判断してIVIgを優先し、どうしても血液浄化療法を行わざるを得ない時には注意して時間をかけて行うようにします。また妊婦に関しては、堕胎を望まない場合には流産・早産のリスクを許容した上でIVIgを優先し、後期であれば帝王切開後に血液浄化療法かIVIgのいずれかを選択します。
これに対して、血液浄化療法はIgA欠損症、重篤な肝・腎不全、脳心血管障害の合併例で優先されます7)

表3:GBSに対する免疫調整療法の適応禁忌と副作用

GBSに対する免疫調整療法の適応禁忌と副作用
三井隆男, 野村恭一:日本臨牀 73:381-387, 2015.

―どのような場合に再度のIVIgを考慮されていますか。

野村先生:
これまでの報告によると、IVIgのGrade 1段階以上の改善率(有効性)をみると、再投与でも約6割で改善効果が得られ、その際、4週以内の再投与は5週以降の再投与に比べ有意に改善率が高いことが示されています(72.3% vs. 34.4%、P=0.003)8)。この結果から、GBSは急性期に積極的に治療することが大きなポイントだと考えています。
当科では、IVIg初回投与後10日目にIgG値を測定し、ΔIgGが800~1,000mg/dL以下であればIVIgを再投与しています。またその時点でΔIgGが高値であっても、症状がさらに進行する場合や明らかな神経症状の改善が得られない症例では、血栓塞栓症のリスクを考慮しながら必要に応じて抗凝固療法や弾性ストッキングの着用などを行ったうえで、再度のIVIgを施行するようにしています。

―GBSの治療において心がけられていることをお話しください。

野村先生:
現在当科では、GBSの治療方針として、「急性期に免疫調整療法を施行し、疾患の活動性、病勢をきちんと抑えてピークの高さを低くし、罹病期間を短くする」という戦略をとっています。現在のところ、この戦略により、長期予後が改善するかどうかについては明らかではありません。しかし少なくとも、早期にリハビリテーションを開始することができ、入院期間も短くなります。なにより患者さんにしてみれば、「急性期の苦しい時を今すぐ何とかして欲しい」というのが本音だと思うからです。現在のガイドライン7)でも、保険診療上でも、血液浄化療法とIVIgは使い分けることが基本です。当科では、受診時点ですでに重症度がGrade 3以上、特にGrade 4~5の患者さんや、発症後3日以内に受診しているような場合には、今後もさらに進行する予後不良例と考えて、PEで補体を取り除いた後にIVIgを1クール、さらに5日間あけて2クール目のIVIgを施行する*など、急性期の短期間に積極的な治療を行うことがあります。血液浄化療法を行えない場合には、ステロイドパルス療法+IVIgを2クール実施しても効果があると考えています。
またその間、急性期の合併症をはじめとする神経症候に対する補助・対症療法についても、医師のみならず、集中治療室の看護師やリハビリテーションのスタッフ、患者会のメンバー、患者さんのご家族・友人などの協力を得ながら総力戦で対応しています。例えば患者さんの中には、身体が動かせなくなって、このまま死んでしまうのではないかという不安から精神状態が極めて不安定になる方がいます。そのような患者さんには、「治せる病気」であることをお伝えし、希望をもっていただけるように心がけています。

*使用上の注意
2.重要な基本的注意
(11)ギラン・バレー症候群においては、筋力低下の改善が認められた後、再燃することがあるのでその場合には本剤の再投与を含め、適切な処置を考慮すること.

―そのほかにGBSの治療において注意されていることはありますか。

野村先生:
予後の予測、とくに呼吸不全の予測には力を入れています。これまでに、その予測因子として、EGRIS(Erasmus GBS respiratory insufficiency score)9)、自律神経障害の合併2)、抗ガングリオシド複合体抗体(抗GD1a/GD1b複合体抗体など)10)、血清肝逸脱酵素の上昇11)などが挙げられています。当科においてもこれら予測因子を使用していますが、診療の現場では、「ひと呼吸で1~15まで数えてもらい、いくつまで数えられるか」「自力で頭を上げられるかどうか」「咳ができるかどうか」といった患者さんの状況や、心電図のQT延長時間を確認して、この患者さんが24時間後、あるいは3日以内に人工呼吸器を装着する必要が生じるか否かを予測しています。例えばこれまでの経験から、数字を1つ数えることが肺活量100㏄に相当すると考えられ、10まで数えられなければ肺活量が1,000cc未満と判断されるため、10以下ならその場で人工呼吸器の装着に踏み切り、10~15であれば、そのほかの状況を加味して人工呼吸器の装着の有無を判断します。また、「数字が数えられない」「頭が上がらない」「咳ができない」の3つがそろえば、人工呼吸器を装着すべきと判断できます。
人工呼吸器の装着が予測された患者さんやご家族には、治療開始の早い段階で、これからさらに進行し、手足だけでなく目も動かなくなり、舌も出せず頭も上げられなくなり、呼吸も止まる可能性があること、治療によりこれらの症状を抑えることはできるかもしれないが人工呼吸器をつける可能性があり、人工呼吸器がつくと鎮静しなければならず、入院期間も長くなるといったことを説明するようにしています。

今後の課題とメッセージ

―新規治療薬を含め、GBSの治療について今後の展望をお聞かせください。

野村先生:
GBSの病態において、抗体依存性免疫反応の最終カスケードに補体[とくに膜侵襲複合体(membrane-attack complex:MAC)/溶解性終末補体複合体:C5b-9]が組織障害を生ずるとの説があり、新規治療薬として補体阻害剤、中でもC5に対するモノクローナル抗体のエクリズマブ**が期待されています。しかし、GBSのすべてにおいて補体が関与している可能性は否定できませんが、もし補体の除去を目的とするのであれば血液浄化療法で補体は十分に取り除けます。また、IVIgにも抗補体作用があるので、血液浄化療法の後にIVIgで治療するという併用療法は補体活性を十分に抑制可能です。今後は、急性期における血液浄化療法+IVIgによる積極的治療の有効性を検証する必要があるのではないかと考えています。

**GBSに対しては本邦未承認

―GBSを診療される先生方へのメッセージをお願いします。

野村先生:
Grade 1~2、しかも発症後1週間以上経っていて歩いて来院されたような軽症で、予後良好だと予測される患者さん以外は、集中治療室を完備している医療機関の専門医に任せたほうが良いと考えています。Grade 3を超える症例、中でも発症から5日以内、とくに3日以内の場合は進行のスピードが速いため、より進行し予後不良になる可能性が高いので専門医にすぐに紹介していただきたいと思います。一方、GBSを紹介された専門医は、急性期にできるだけ早く病勢を抑えること、またその間の合併症を回避することを原則として、血液浄化療法、IVIg、ステロイドパルス療法の兼ね合いをどう行っていくか、それらの周りに付随する治療をどのように行うかを考えて、ほかの医療スタッフや家族などと協力して治療にあたってほしいと思っています。

引用文献
1) Willison HJ:J Peripher Nerv Syst 10:94-112, 2005.
2) 三井隆男, 野村恭一:日本臨牀 73:381-387, 2015.
3) 斎藤豊和ほか:ギラン・バレー症候群全国疫学調査-第二次アンケート調査の結果報告. 厚生省特定疾患対策研究事業 免疫性神経疾患に関する調査研究班 平成11年度研究報告書:83-84, 2000.
4) 斉藤豊和ほか:ギラン・バレー症候群の全国疫学調査 第一次アンケート調査の結果報告. 厚生省特定疾患 免疫性神経疾患調査研究分科会 平成10年度研究報告書 : 59-60, 1999.
5) 荻野美恵子ほか:Guillain-Barré症候群の全国調査第3次調査結果を含めた最終報告. 厚生労働省特定疾患対策研究事業 免疫性神経疾患に関する調査研究班 平成12年度研究報告書:99-101, 2001.
6) The Italian Guillain-Barré Study Group. Brain 119:2053-2061, 1996.
7) 日本神経学会・監修:ギラン・バレー症候群, フィッシャー症候群診療ガイドライン2013, 南江堂, 2013.
8) 野村恭一:日内会誌 96:246-253, 2007.
9) Walgaard C et al.:Ann Neurol 67:781-787, 2010.
10) Kaida K et al.:J Neuroimmunol 223:5-12, 2010.
11) Sharshar T et al.:Crit Care Med 31:278-283, 2003.

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