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ギラン・バレー症候群

ギラン・バレー症候群の自己抗体

近畿大学医学部神経内科 講師
桑原 基 先生

2018年7月掲載
(審J2006210)

―はじめに、近畿大学医学部附属病院 神経内科の概要についてお聞かせください。

桑原先生:
当院は南大阪エリアで唯一の大学病院であり、地域特性として神経内科医が複数在籍している市中病院は少ないため、患者さんが自然と集中してきます。そのため、てんかん、認知症、パーキンソン病などの一般的な疾患も診療していますが、免疫性神経疾患が多いことが特徴です。年間の入院患者数は約200~300名で、そのうちギラン・バレー症候群(Guillain-Barré syndrome : GBS)、慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy : CIDP)、重症筋無力症、多発性硬化症、視神経脊髄炎などの免疫性神経疾患が約1/3を占めます。疾患毎の専門外来は開設していませんので、個々の神経内科医が幅広い免疫性神経疾患を偏りなく診療していることも特徴の1つになります。

―先生の研究テーマを教えてください。

桑原先生:
研究テーマは、免疫性末梢神経疾患における「自己抗体」です。当科ではガングリオシドなどの糖脂質に対する自己抗体の測定や新規抗体の検索を行っており、全国から年間約4,000件の抗体測定依頼があります。そのうち半数がGBSやその亜型であるフィッシャー症候群(Fisher syndrome : FS)、残りがCIDP、多巣性運動ニューロパチー(multifocal motor neuropathy : MMN)、運動ニューロン病、原因不明の脳炎などで多岐に渡ります。現在、グライコアレイ法を用いて網羅的な抗原の探索も行っており、単独抗原で10種類、それらの複合体抗原45種類を合わすと全部で55種類の探索が可能です。またGBSやFSではフォスファチジン酸を抗原に加えることで抗体反応が増強することがあるため、微細な反応性の抗体が検出可能となります。

近畿大学 内科学講座 神経内科部門(抗糖脂質抗体測定)
http://www.med.kindai.ac.jp/neuro/koutousisitu/koutousisitu.html

GBSの疾患概要と診断について

―GBSの疾患概要についてご教示いただけますか。

桑原先生:
GBSは主に進行性の四肢筋力低下をきたす、急性の免疫性末梢神経障害です。発症前4週間以内に先行感染がみられることが多く、症状は発症後4週間以内にピークとなり、以降は回復に向かいます。年間発症率は海外の報告では人口10万人あたり0.62~2.66人で、男女比は1.78:1と男性に多いです1)。日本での発症率は10万人あたり1.15人と推定され、男女比はおよそ1.5:1で海外とほぼ同程度になります2)。幼児から高齢者まで幅広い年齢層で発症します。

―GBSの予後についてはどのようにお考えでしょうか。

桑原先生:
GBSは海外での死亡率が約5%3)、最近のオランダからの報告では2.8%4)、日本は約1%5)と地域差はありますが、一般的には予後良好な疾患と考えられています。しかし、治療を行っても発症1年後に重度の歩行障害を残存する方が約15~20%2)存在します。さらに治療経過中に人工呼吸器の装着が必要となるケースや血圧変動、不整脈などの心血管系の自律神経障害をきたすこともあるため、適切な全身管理が重要になります。

―現在主に使用されている診断基準について教えていただけますか。

桑原先生:
GBSの診断ではAsburyらの診断基準 6)が一般的で、その必須項目は、①2肢以上*に及ぶ進行性の筋力低下、②四肢腱反射の低下・消失、の2項目のみです。しかしGBSの亜型では四肢筋力低下が目立たないこともありますので、臨床医は腱反射が低下しない例があること、脳神経障害を主体とする特殊な病型があることを理解した上で使用する必要があります。
Asburyらの診断基準は臨床徴候で定義されるため、発症初期には他疾患との鑑別、除外診断が重要です。臨床徴候以外の補助検査としては、脳脊髄液検査でのタンパク細胞解離、神経伝導検査による異常所見、抗糖脂質抗体検査が有用です。特に高齢者では頸椎症による急性の脊髄障害、低カリウム血症による周期性四肢麻痺や筋炎など鑑別しなければならない疾患は多岐に渡ることが多いですが、病歴、血液検査、脳脊髄液検査、頭部・脊髄MRIを行うことで多くはGBSとの鑑別が可能です。

*通常4肢

―では診断の流れについてご説明ください。

桑原先生:
GBSは約70%で発症4週間以内に先行感染を認め、典型例では感染の約2週間後から進行性の四肢筋力低下がみられます。そのため診断では先行感染の有無、四肢筋力低下や感覚障害の程度や経過など、GBSに特徴的な病歴の聴取が最重視されます。患者さんは一般内科や整形外科を最初に受診し、神経内科に紹介された時点では症状が進行した状態にあることが多くみられます。例えば、四肢末端から数日で上行性のしびれがみられる場合はGBSを含めた急速進行性のニューロパチーを疑います。初診時に急速進行性なのか、慢性進行性なのかを的確に判断することが重要になります。
当科では血液検査、脳脊髄液検査、電気生理学的検査は入院患者全例で行っており、それらの結果から除外診断を行います。脳脊髄液検査でタンパク細胞解離は発症後すぐには上昇しないこともありますので、入院中に再検することもあります。また、電気生理学的検査所見は継時的に変化していくため入院中検査を繰り返し行います。

GBSの自己抗体について

―診断における自己抗体の測定意義について教えてください。

桑原先生:
GBSでは急性期に約60%の患者さんの血中にガングリオシドなどの糖脂質に対する抗体が検出されます7,8)。ガングリオシドの糖鎖部分は細胞膜表面の脂質二重層外層から外側へ突出する形で存在し、GBSはその糖鎖に対する自己抗体が産生されることで発症するといわれています(図1)。そのため自己抗体の測定、検出はGBSの確定診断に繋げることを目的の1つとして行っています。

図1 GBSとFSにおける分子相同性機序

GBSとFSにおける分子相同性機序
GBSやFSの先行感染因子として比較的頻度の高いキャンピロバクター(C.jejuni)は、菌体外膜を構成しているリポオリゴ糖にGM1、GQ1bなどの糖脂質に類似した構造を有しており、C.jejuni感染によって抗糖脂質抗体が産生され、末梢神経の細胞膜上に局在する糖脂質に結合することで神経障害が引き起こされる。
桑原基 : 臨床とウイルス45 : 354-360,2017.

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