ギラン・バレー症候群の歴史と概要
近畿大学医学部 神経内科 主任教授
楠 進 先生
(審J2006212)
近畿大学医学部 神経内科 主任教授
楠 進 先生
―GBSの診断基準はガイドラインでも特定のものは記載されてはいませんが、よく使われている基準はありますか?
楠先生:
GBSの診断基準としては、いくつか報告されていますが、いずれの診断基準もexpert opinionにとどまっており、実際にこれらの診断基準の診断感度・特異度などは検討されていません。
比較的よく使われている診断基準としては1990年のAsburyら17)のものがあります。ただ、この診断基準にはGBSに特徴的な症状である腱反射消失の記載がありますが、必ずしも消失する例ばかりではありませんので、厳密に基準に則ってしまうと診断を誤る可能性も出てきます。
GBSは臨床的にも多様性があり、さらに亜型もあるので、それらを全てカバーできる診断基準を作るのはなかなか難しいと思います。
いずれにしても、GBSは基本的に病歴・臨床症候に基づいて診断することが重要になります。
―では、どのようなフローでGBSの診断をされていますか?
楠先生:
先行感染があって、急速に運動麻痺や感覚障害が起こってきた患者さんはGBSを疑い診察を行います。まずはGBSの特徴的な症状である腱反射を確認します。腱反射の低下や消失があれば、末梢神経障害が疑われますが、腱反射が亢進していた場合は、脊髄疾患などの可能性があるため頸髄のMRIを、場合によっては脳のMRIを撮ります。
次に、脳脊髄液検査を行います。GBSの場合、蛋白は上昇しますが細胞数の上昇は認められません。検査は急性期に行いますが、発症1~2日目では蛋白が上昇していないこともあり、診断には注意が必要です。通常、神経症状が出てから1週間程度経てば蛋白上昇が確認できることが多いです。逆に細胞数が上昇している場合、GBS以外の可能性がありますので、鑑別診断のためにも髄液検査は必要だと考えています。
最後にGBSは末梢神経が障害されているかどうかが診断の一番重要なポイントになりますので、神経伝導検査を行います。それにより脱髄型か軸索型かの判別もすることができます。
なお、当科では自己抗体検査を行っており、IgG型の抗ガングリオシド抗体の上昇がみられればGBSの可能性が高くなります。基本的に測定は1回のみですが、経過をおって複数回施行して抗体価が低下することが確認できれば、その抗体がGBSの病態に関連して上昇したものであると考えることができます。
―治療と予後について解説いただけますか。
楠先生:
GBSに対する治療として経静脈的免疫グロブリン療法(intravenous immunoglobulin:IVIg)と血漿浄化療法(単純血漿交換 plasma exchange:PE、二重膜濾過法:DFPP、免疫吸着法:IAPP)があり、同等の効果が認められています18)19)。基本的には患者さんへ説明した上でどちらかを選択することになりますが、身体への負担が比較的軽く、治療手技としても簡便なIVIg が選択されることが多くなっています。
治療開始後2週間から1ヵ月程度で、症状が落ち着き、その後は回復に向けてリハビリを行います。
GBSの治療の課題でもありますが、IVIgを施行しても改善しない、もしくは悪化している場合が何割か存在します。その対応策としてIVIgの再投与が試みられております。IVIg施行前とIVIg開始の2週間後の血中IgG値を測定してその差(ΔIgG)を調べ、十分な上昇がみられれば予後が良いとの報告20)があり、ΔIgGは再投与を行うかの指標の1つになっています。再投与のタイミングとしては、初回の施行から近過ぎると血中IgG値が非常に高値となり、副作用をきたす可能性もあるので、3週間程度様子を見てから行われます。
■GBSの診断・治療フロー
―今後の課題についてお聞かせいただけますか。
楠先生:
IVIgや血漿浄化療法によって多くの症例は改善しますが、2割程度の方には後遺症が残ります。その可能性が高いケースを抽出して新しい治療法を開発することが一番の課題になります。
もう1つは、脱髄型の標的抗原を見つけることです。ミエリンに存在するガラクトセレブロシドやLM1に対する抗体は脱髄型で出現しますが、その出現頻度は低いため、標的抗原が不明なケースが多いです。また、病型に関わらずGBS全体で見ても、ガングリオシド抗体の陽性率は6~7割程度なので、標的を明らかにさせることは病態解明にも繋がると思います。
―最後に、GBSを診断される先生方へメッセージをお願いします。
楠先生:
GBSの急性期は、全く動けなくなる場合や、寝たきりになる場合があり、時には人工呼吸器管理を要することもあり、患者さんは大きなショック受け、不安になります。
患者さんに対しては、この疾患は急性期を乗り切れば回復する疾患であることをしっかり伝え、患者さんを力づけるような言葉をかけることが大切であると考えています。
さらに診療上は、先行感染などの病歴や、運動麻痺などの特徴的な症状を確認すること、さらに髄液検査などで鑑別診断をしっかり行い、診断が確定された場合は、IVIgなどによる急性期の治療を十分にかつ慎重に行うことが大切であると考えています。
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