TOP 製剤情報一覧 疾患から探す 低並びに無ガンマグロブリン血症 造血細胞移植のエキスパートに聞く 九州大学における最新治療への取り組みと造血細胞移植の今後の展望

低並びに無ガンマグロブリン血症

九州大学における最新治療への取り組みと
造血細胞移植の今後の展望

九州大学・大学院・医学研究院
血液・腫瘍・心血管内科  准教授
宮本  敏浩 先生

2017年9月掲載
(審J2006184)

―はじめに九州大学血液・腫瘍・心血管内科の特色についてお聞かせください。

宮本先生:
当教室は開校112年を迎える総合内科です。第一内科は改編されるにあたって、内科学教室大講座制を維持し、血液内科、腫瘍内科、心血管内科、膠原病科、感染症科に分かれ診療しています。血液内科では血液疾患全般を診療しますが、その中でも悪性腫瘍である急性白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫を主に診療しています。臨床治験や新規の分子標的治療薬を用いた最新の治療、造血細胞移植に積極的に取り組んでいる大学病院です。

―九州大学病院の取り組みについてお聞かせいただけますか。

宮本先生:
2006年に11階の病棟全体が無菌管理された移植病棟(全室個室32床)を新設し、充実した移植環境、無菌環境を提供することが可能になりました。移植拠点病院 九州地区ブロック指定病院であり、造血細胞移植チームには医師、コーディネーター(移植・臨床試験)、看護師、薬剤師、歯科医師、緩和ケアチーム、リハビリテーション、検査技師、栄養士など様々な職種が集まり、総勢110名以上が関与しています。
移植後は強い免疫抑制状態となるため、グローバル感染症センターと密に連携をとりながら感染症対策を行っています。移植後の長期フォロー体制として、看護師による外来での個別指導や、患者さんやご家族を対象とした医療講演会を定期的に行っています。また医師及び看護師に対し、移植術や移植看護の教育体制を整え、人材育成にも注力しています。

―貴院の移植件数の推移についてお聞かせください。

宮本先生:
成人の移植件数の推移をみると1988年当初は年に数例でしたが、2016年末時点で累積数は1,253例になります(図1)。近年は自家移植及び同種移植全てを含め、年間約60~80例の移植を行っています。また自家移植のみならず、同種血縁者間移植、同種非血縁者間移植、臍帯血移植などを幅広く行っています。

図1 九州大学病院における移植件数の推移(成人)

図1 九州大学病院における移植件数の推移
宮本先生ご提供

造血細胞移植関連の合併症対策について

―移植片対宿主病への対応について解説いただけますか。

宮本先生:
近年、ヒト白血球抗原(human leukocyte antigen : HLA)が半分しか適合していないドナーからの同種移植(HLA半合致移植、ハプロ移植)の増加に伴い、移植片対宿主病(graft-versus-host disease : GVHD)の予防及び治療の重要性が増加してきています。
GVHDの予防は通常、造血細胞移植学会ガイドライン1) に則って行います。一方、GVHDの治療はガイドライン1)に沿った治療に加えて、最新のIL-2製剤やJAK(ヤヌスキナーゼ)阻害剤などの臨床治験も積極的に行っています。また、間葉系幹細胞を使った治療の臨床治験に参加していたため、2016年2月に市販後使用することができ、着実に症例経験を積んでいます。
※本邦未承認

―感染症対策についてはいかがでしょうか?

宮本先生:
同種移植の場合、移植後の経過時期に応じた感染症危険因子と好発感染症を考慮して、感染症対策を行う必要があります。当院ではグローバル感染症センター内のインフェクションコントロールチームと密に連絡を取り合い、ガイドライン1)に則って感染症対策を行っています。
早期の危険因子としては、移植前処置による発熱性好中球減少症があげられ、発熱性好中球減少時には直ちに抗生物質の投与を行います。一方、移植後中後期では免疫抑制剤追加投与などにより免疫再構築の遅延が生じるため、種々の合併症を含め、この時期に認められる発熱の原因として、真菌やウイルス感染症を含めて鑑別する必要があります。ウイルス感染症については、例えばサイトメガロウイルス(Cytomegalovirus : CMV)の場合は造血回復後に抗ウイルス薬を投与する予防投与と、CMV抗原血症の再活性化をモニタリングして、ある一定以上の基準で陽性化がみられた場合は直ちに先制攻撃治療を行う方法がありますが、当院では主として先制攻撃治療を採用しています。その他の重要な感染症として、ヒトヘルペスウイルス6感染症、アデノウイルス関連の出血性膀胱炎などの重篤化しやすい感染症に関しても、症状出現時には適切なウイルス検出を行い、早期の治療介入を行っています。ウイルス感染症は可能な限り移植前に抗体価を測定し、移植後の感染症発症のリスク因子として捉えておくようにしています。

また、重篤な細菌感染症やウイルス感染症で、高度の低免疫グロブリン血症(IgG<400mg/dL)を認める場合には、ガイドライン1)に従って免疫グロブリン※※の投与を積極的に行っています。移植後後期の患者では市中流行性感染症としてRSウイルスやパラインフルエンザウイルス等に注意が必要ですが、現状ではリバビリン以外で有効性を示せるデータがないため免疫グロブリンを投与し、対処することもあります。

※※静注用人免疫グロブリン製剤:低・無ガンマグロブリン血症に対する用法・用量 等(添付文書より抜粋)
【用法・用量】通常、1回人免疫グロブリンGとして200~600mg/kg体重を3~4週間隔で点滴静注又は直接静注する。患者の状態によって適宜増減する。
【用法・用量に関連する使用上の注意】低・無ガンマグロブリン血症の用法・用量は、血清IgGトラフ値を参考に、基礎疾患や感染症などの臨床症状に応じて、投与量、投与間隔を調節する必要があることを考慮すること。

JBスクエア会員

JBスクエアに会員登録いただくと、会員限定にて以下の情報をご覧になれます。

  • 最新情報をお届けするメールマガジン
    (Web講演会、疾患や製剤コンテンツ等)
  • Web講演会(視聴登録が必要)
  • 疾患や製剤関連の会員限定コンテンツ
  • 薬剤師向けの情報
JBスクエア会員の登録はこちら
領域別情報 製剤情報 関連疾患情報
お役立ち情報・患者指導箋など JBファーマシストプラザ JBスクエア会員 講演会・学会共催セミナー
エキスパートシリーズ 情報誌など お役立ち素材 その他コンテンツ 新着情報