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血漿交換療法

第3回 アフェレシス座談会 ~他科連携と血漿交換療法の置換液~

開催日:2023年12月15日(金) 場所:新大阪フロントビル7階会議室

峰松先生 土井先生 奥野先生 柏木先生 司会:
大阪大学医学部附属病院 輸血部 部長 柏木 浩和 先生 (写真:右)
ディスカッサント:
同上 神経内科学 准教授 奥野 龍禎 先生 (写真:右から2番目)
同上 腎臓内科 特任助教 土井 洋平 先生 (写真:左から2番目)
同上 臨床工学部 副技士長 峰松 佑輔 先生 (写真:左)

2017年より血漿交換療療法においてアルブミン置換液を導入されている大阪大学医学部附属病院の実施状況について、柏木浩和先生を司会にお招きし、奥野龍禎先生、土井洋平先生、峰松佑輔先生にお話いただきました。アルブミン製剤の導入を検討されている施設様の参考となる、施行時に注意すべきポイントを詳しくご説明いただきました

2024年4月掲載
(審J2403294)

「警告・禁忌を含む注意事項等情報」等についてはDI頁または電子化された添付文書をご参照ください。」

1.はじめに

柏木先生

柏木先生:
大阪大学医学部附属病院の血液浄化部の概要について、紹介をお願いします。

土井先生:
大阪大学医学部附属病院血液浄化センターは現在14床を有し、年間約2,300件の血液透析もしくは血液濾過透析と、年間170~200件の血漿浄化療法を扱っています。依頼を受ける診療科は神経内科が最も多く、続いて泌尿器科となっており、神経疾患や腎移植関連の血漿浄化療法を多く扱っています。

柏木先生:
治療までの流れについて教えてください。

峰松先生:
まず各診療科から腎臓内科に治療の依頼があり、われわれ臨床工学技士と看護師に依頼が下りてきます。対象疾患が多岐にわたり、各保険適応疾患で一連の施行回数の限度が定められていることなどから、患者さんにとって最も効率のよい治療法や条件設定を腎臓内科の先生と臨床工学技士の間で相談しながら決定しています。

柏木先生:
血漿浄化療法は、主にどのような方法で行っているのでしょうか。

土井先生:
血漿浄化療法の種類については、当院では単純血漿交換(PE)が約7割を占めています。PEでは、血漿分離膜(孔径0.3~0.5μm)で血漿分画と血球分画を分離し、血漿分画をすべて廃棄し、新鮮凍結血漿(FFP)またはアルブミン溶液、もしくはこれらを併用して置換します。免疫グロブリンG(IgG)を中心としてより狭い範囲を除去する場合には、二重濾過血漿交換(DFPP)や選択的血漿交換(Selective PE)を行うこともあります。

2.神経内科領域における血漿交換療法の位置づけ

柏木先生:
神経内科領域における血漿交換療法の位置づけについては、どのようにお考えですか。奥野先生、ご説明をお願いします。

奥野先生 奥野先生:
神経内科領域で行われる血液交換療法では、液性因子(自己抗体、補体)が病態の中心をなすような疾患が重症化した場合に、効果が迅速なPEが汎用されています。例えば、アクアポリン4抗体という自己抗体が出現する視神経脊髄炎関連疾患(NMOSD)、急性の末梢神経障害でガングリオシド抗体という抗体が出現するギラン・バレー症候群(GBS)、神経筋接合部にアセチルコリン受容体抗体という自己抗体が出現して全身性の脱力を引き起こす重症筋無力症(MG)などが挙げられます(表1)。これらの疾患では、自己抗体が補体と結合することにより、下流にある補体が活性化され、最終的に細胞が破壊され神経障害を来します1)-3)。神経は一度障害されると修復が困難であることが多く、不可逆な障害が起きる前に血漿交換を行って病因物質である自己抗体などを取り除くことが重要になります。特に、NMOSDやGBSでは治療の遅れが重篤な後遺症につながることがあり、一刻も早く対処することが必要です。
血液製剤の使用を避ける場合は免疫吸着(IAPP)を行う場合があります。ただし、IAPPではIgG4を吸着しにくいため、IgG4サブクラス自己抗体が出現する慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP、NF155抗体など)やMusk抗体陽性MGではPEの方が効果が高いと考えられています4)

表1 自己抗体が病態の中心をなす神経免疫疾患

表1 自己抗体が病態の中心をなす神経免疫疾患
多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017
ギラン・バレー症候群、フィッシャー症候群診療ガイドライン2013
重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン2022
慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー、多巣性運動ニューロパチー診療ガイドライン2013をもとに
奥野先生作成

柏木先生:
GBSやNMOSDでは血漿交換を行わない場合、ステロイドや免疫グロブリンによる治療が選択肢になるのでしょうか。

奥野先生:
GBSの場合は、免疫グロブリンで血漿交換と同等の効果が得られており5)、特別な装置を必要とせず、すぐ開始出来るという利点がありますので、最初に免疫グロブリン療法を選択する施設も多いと思います。それで効果が不十分な場合には、血漿交換を追加することもあります。NMOSDの場合は少し異なります。症状が視神経炎の場合には免疫グロブリンを急性期に用いることもありますが、それ以外については免疫グロブリンのエビデンスが確立していないため、まずステロイドパルス療法を行い、ほぼ同時か直後に血漿交換を開始するケースが多くなっています。

3.置換液の選択

柏木先生:
血漿交換療法をオーダーする際は、治療の種類や置換液まで指定されるのでしょうか。

奥野先生:
治療の種類については当科から提案をさせていただくこともありますが、置換液をどちらにするかについては、専門の血液浄化部での判断にお任せしています。アルブミン置換が基本ではありますが、患者さんによっては出血のリスクがある方もいますので、そういった場合は適度にFFPに変更するなどを判断していただいています。

柏木先生:
土井先生にお伺いします。PEの置換液は、どのように使い分けられているのでしょうか。

土井先生 土井先生:
当センターでは、置換液は主にアルブミン溶液を使用しています。アルブミン溶液はFFPと効果は同等で、アレルギー反応や感染症などのリスクが低いと考えているためです6)
FFPを使用する病態としては、肝不全や血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)といった正常な血漿タンパクやADAMTS13の補充を必要とするような場合です。泌尿器科の腎移植手術直前も凝固因子の保持が重要になりますので、PEの置換液としてFFPを使用します。神経疾患では、アルブミン置換液の使用が9割以上を占めています。

柏木先生:
神経疾患における血漿交換では、置換液はFFPでもアルブミン溶液でも、治療効果は同等と考えてよろしいでしょうか。

奥野先生:
予定どおり行うことができれば治療効果としては同等6)ですが、FFPの場合はアレルギーが出て中断することがありますので、そうなると治療の遅れにつながります。また、補体依存性の神経障害を来すNMOSDやGBSなどでは、補体が含まれていないアルブミン溶液のほうがよいという考えもあります。

柏木先生:
峰松先生にお伺いします。実際に、FFPを使用してアレルギーが出ることはあるのでしょうか。

峰松先生:
TTPや腎移植前にはFFPを使用しますが、PEの過程で軽度の発疹が出ることがあります。
また、FFPは、FFP中に含まれるクエン酸ナトリウムによる低カルシウム血症などへの配慮も必要となります7)。FFPは取り扱いや保存方法など、注意が必要な点も多く貴重な血漿でもありますので、必要な場合のみ使用します。アルブミン置換液は、凝固因子やグロブリンが含まれないため、頻回・大量置換を行う場合は、易出血性や易感染性に関する注意が必要ですが、厚生労働省から出ている血液製剤の使用指針においても凝固因子の補充を必要としない治療的血漿交換療法の置換液としてアルブミン製剤の使用が強く推奨されている7)と記載もあることから当院ではアルブミンを最初に検討します。

柏木先生 柏木先生:
血漿交換の置換液は、安全性と有効性の観点からまずアルブミン溶液が考慮されているということですね。

4.置換液の作成

柏木先生:
置換液の作成方法について教えてください。

土井先生:
大阪大学医学部附属病院血液浄化部では、置換液量(処理量)については、通常は予測循環血漿量(PV)の1.0~1.3倍を目安に設定しています。PVの計算方法は種々ありますが、主に体重を13分の1で割り、ヘマトクリットを換算して予測循環血漿量を算出する次の式で求めています。小児、肥満、妊婦などの場合は、別の推算式の使用を検討します。

1/13(0.077)× 体重(kg)× (1-ヘマトクリット/100)

※海外では、0.065 × 体重(kg)× (1-ヘマトクリット/100) 8)

予測循環血漿量の1.0倍のPEを行った場合、血管内物質を約60%除去できると言われています9)

峰松先生:
濃度については、置換液の膠質浸透圧(COP)と患者血漿COPが異なると循環動態に影響を及ぼし、血漿中のタンパク成分(主にアルブミン)のバランスがプラスに傾けば水分が組織間液側から血管内に移動し、マイナスに傾くと血管内から組織間液側に移動しますので、こうしたことがなるべく起こらないように設定しています。

柏木先生:
実際にアルブミン置換液を作成する際、どのような注意や工夫をしていますか。

峰松先生 峰松先生:
FFPを使用する場合には原則そのまま用いますが、低カルシウム血症などへの配慮が必要になります7)。アルブミン置換液の場合は、以前は患者さんの総タンパクとアルブミンからCOPを算出し、それに近い組成の置換液を作成していました。しかし、指示が煩雑になることから人為的ミスを防ぐため、25%アルブミン製剤と乳酸ナトリウムリンゲル液500 mLから4.5~5%アルブミン濃度の置換液を作成する、より簡便なプロトコルを作成して使用しています(表2)。各製剤を本数単位で使い切ることによって、看護師さんでも容易に置換液を作成できるようになりました(図1)。

表2 アルブミン溶液の組成

表2 アルブミン溶液の組成
大阪大学医学部附属病院 血液浄化部 血漿浄化療法の手引きより改変引用

図1 置換液の作成風景

図1 置換液の作成風景
峰松先生ご提供

峰松先生:
特に置換液量が多いときに、FFPの場合は1パック毎そのまま使用すればよいのですが、アルブミン置換液の場合はバックを2つに分ける際にできるだけ同じ濃度になるように注意をして作成しています。どうしても前半と後半で少し濃度差が発生してしまう場合は、後半に濃いほうを使用して、患者さんに高いタンパク濃度で帰っていただくといった工夫をしています。

5.施行時の管理・注意点

柏木先生:
PE施行時のモニタリングは、どのように行っているのでしょうか。

峰松先生:
アフェレシス療法全般を行うときには、心電図、血圧、SpO2を必ず装着します。循環血液量(BV)に関しては、単独でBVの変化率を測る機械が販売されていないため、必要な場合は透析装置の機能を用いてモニタリングするようにしています。特に、腎不全がある移植前の患者さんでは、透析を併用するためBVの変化が大きかったり、BVが少ない小児でも影響が大きく出たりするので注意しています。活性化凝固時間(ACT)は治療開始直後(抗凝固薬投与前)に測定し、その後、30分後、1時間後と計測します。フィブリノゲンとアンチトロンビンⅢ(AT)については、治療前と治療後に採血を行い、ヘマトクリット値で補正をして除去対象溶質の除去率と併せて算出しています。

柏木先生:
アルブミン置換液を用いるときは、特にどういう点に注意が必要ですか。

土井先生:
アルブミン溶液を使用するときには、病因物質とともに凝固因子も一緒に除去されてしまうため出血リスクに注意が必要です。特にフィブリノゲンは半減期が3~6日と長く(表39)、一度除去されると回復までに時間がかかり、止血に必要な閾値が比較的高いため、最初に枯渇する凝固因子と考えられます。当院では、術前、腎生検直後、肺胞出血や消化管出血のある患者さんなどの出血リスクが高い場合には、フィブリノゲン濃度を100 mg/dL超に維持することを推奨しています10)。出血リスクが高くない場合も、血漿交換前に100 mg/dL未満のときは対処を考慮します。対処方法としては、フィブリノゲンは時間があれば体内で作ることができますので治療間隔を延長したり、置換液の一部をアルブミン溶液からFFPに変更したり、Selective PEをすることで凝固因子を枯渇しないように努めています。

表3 凝固因子別の半減期

表3 凝固因子別の半減期
AABB Technical Manual 18th edition 2014 p521 TABLE20-8より改変引用
Copyright © 2014 by AABB

柏木先生:
置換液にアルブミン溶液とFFPを併用する場合のそれぞれの割合は、何を目安にしているのでしょうか。

峰松先生:
全国的にはアルブミンとFFPを半分ぐらいの割合にするのがよいのではないかと言われています。凝固因子であるATやフィブリノゲンは治療後に低下することが分かっています11)が当センターではなるべくアルブミン置換液を使用し、凝固因子の低下が懸念される場合は、経験則から3分の1程度をFFPに置き換えるようにしています。

柏木先生:
アルブミン溶液を置換液に導入されていない施設では、どのようにスタートするのがよいと思われますか。

峰松先生:
まずは成功体験を積むことが大切だと考えますので、肝機能が良好な方で、1~1.3 PVぐらいの血漿交換から試してみるとよいのではないでしょうか。

6. まとめ

柏木先生:
本日は、血漿分画製剤の使用時に留意すべきことから、血漿交換療法の有用性、置換液の選択と管理、アルブミン置換液に関して各診療科・部門からのご意見を伺いました。
かつて日本ではアルブミンが大量に使われ適正使用が叫ばれていた時代がありましたが、近年はグロブリン製剤の需要が増加し、それに伴い、連産品であるアルブミン製剤の国内自給の達成が可能と試算されているそうです12)。今後は、アルブミン製剤をいかに有効に活用していくかが重要になってくると思われます。
先生方のお話から、血漿交換療法におけるアルブミン置換はさまざまな診療科の患者さんにとって安全かつ有効であることが分かりました。血液製剤全体の有効活用という点からも、今後アルブミン製剤の活用がさらに進むとよいですね。

参考文献
  1. N. Engl. J. Med. 2001;344:1058-1066
  2. Nat. Biotechnol. 2007;25:1256-1264
  3. Radiographics 2018;38:169-193
  4. 血液浄化療法ハンドブック2020 2020;194-195
  5. ギラン・バレー症候群、フィッシャー症候群診療ガイドライン2013 2013;82-83
  6. Ann. Neurol. 1987;22:753-761
  7. 「血液製剤の使用指針」厚生労働省・生活衛生局(平成31年3月)
  8. Am. J. Kidney Dis. 2008;52:1180-1196
  9. AABB Technical Manual 18th edition 2014
  10. Transfusion Medicine 2015;25:57-78
  11. 日本アフェレシス学会雑誌2013;32:213-217
  12. 薬事・食品衛生審議会薬事分科会令和5年度第2回血液事業部会資料参考資料2-3
      令和5年6月9日開催令和5年度第1回運営委員会資料4-2

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