
第1回 血漿交換の基礎と実際
小笠原クリニック (元 東京医科歯科大学医学部附属病院 血液浄化療法部 部長)
岡戸 丈和 先生
東京医科歯科大学医学部附属病院 MEセンター 副技師長
大久保 淳 先生
開催場所:世界貿易センタービル7F会議室
2025年3月更新
(審J2503372)
小笠原クリニック (元 東京医科歯科大学医学部附属病院 血液浄化療法部 部長)
岡戸 丈和 先生
東京医科歯科大学医学部附属病院 MEセンター 副技師長
大久保 淳 先生
※アルブミン製剤の「警告・禁忌を含む注意事項等情報」等は、電子添文をご参照ください。
岡戸先生:
当施設の血液浄化療法部は、現在はベッド数15床で、透析やアフェレシス療法を含む血液浄化療法を施行しており、実施件数は年間6,000件以上、2018年には6,431件施行しています。
血漿交換療法の治療成績は、2015年:135件、2016年:349件、2017年:202件、2018年:330件になります。
血漿交換療法を施行する患者さんに関しては、神経内科や膠原病リウマチ内科領域が多いです。
大久保先生:
MEセンターは、私が入職した当初(2011年)、臨床工学技士が8名所属していました。現在は28名まで増加しています。その内、血液浄化業務に携わる技士は10名ほどで、毎日4~5名で血液浄化を担当しています。
岡戸先生:
神経内科や膠原病リウマチ内科など診療科の先生から「血漿交換で治療をしたい」という要望があると、血液浄化療法部にまず一報が入ります。
日程を組み、モダリティや置換液について「何を目的として施行するのか」という点をしっかりと主治医と相談し、効率がよく、かつリスクの少ない方法を選んでいきます。
緊急性のある症例であれば、もちろん申し込み当日でも施行しますが、翌日でも対応可能であれば、スタッフが多くいる日中で行います。
岡戸先生:
医師(血液浄化療法部)と臨床工学技士(CE)、主治医、他の診療科の先生とも相談をし、手技の方向性を決定します。最終的にオーダーする際もCEさんと相談をして、スタートするようにしています。
緊急以外は週に1回、他の診療科の先生方も交えたカンファランスを行っており、特に緊急性のないものについては、そのカンファランスにプレゼンテーションという形で症例を提示していただき要点を伺います。
そのカンファランスには複数の医師と臨床工学技士が参加しているので、ディスカッションを行いながら目的を確認しつつ安全性も考慮し、モダリティの選択や頻度、置換液をどうするかをその場で決定しています。
岡戸先生:
アフェレシス療法には、血漿交換療法、血漿吸着療法(plasma adsorption: PA)、血液吸着療法(hemo adsorption: HA)があり、血漿交換療法には、単純血漿交換療法(plasma exchange: PE)、選択的血漿交換療法(selective PE: SePE)、二重濾過血漿分離交換法(double filtration plasmapheresis: DFPP)があります。
1)単純血漿交換法(PE)
PEは、一般的な膜型血漿分離器により分離された血漿成分を全て廃棄し、同量のアルブミン溶液または新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma: FFP)で補充を行います1)(図1)。
PEは、血漿内の病因物質を除去できますが、病因物質のみを選択的に除去することは不可能であり、体内に必要な血漿蛋白も同時に廃棄されてしまいます。そのため、同量の血液製剤もしくは血漿の補充が必要になります。
図1 当院におけるPEの回路例
2)選択的血漿交換法(SePE)
SePEは、血漿分離膜に選択的膜型血漿分離器エバキュアープラスEC-4A10(以下、EC-4A)を用いて行うPEの一方法です2)(図2)。EC-4Aの膜孔径は、一般的な膜型血漿分離器と比べ0.03μmと1/10程度に小さくなっており、免疫グロブリンG(immunoglobulin G: IgG)は50%程度通過するものの、大分子領域の凝固第13因子(coagulation factor 13: FXⅢ)やフィブリノゲン(fibringen: Fib)は各々17%、0%程度しか通過できません2)。
SePEはIgMや免疫複合体などの大分子領域を除去できないものの、半減期が長く、一度除去すると回復に時間を要するFXⅢやFibを体内に保ちながら、IgG領域以下の病因物質を除去することが可能です。
図2 当院におけるSePEの回路例
3)二重濾過血漿分離交換法(DFPP)
DFPPは、一般的な血漿分離器により分離された血漿を、血漿成分分離器に導き2段階的に濾過を行う方法です(図3)。
血漿成分分離器には、膜孔径が異なる4種類のモジュールがあり、それぞれ病因物質の分子サイズの違いを利用した分離操作により対象物質を除去します。血漿成分分離器では、病因物質を含む中~大分子領域の分画(グロブリンや脂質分画など)を濃縮廃棄し、濾過されたアルブミンを含む小分子領域の分画の血漿を体内に回収します。そのため、アルブミン製剤の使用量を削減することが可能です。しかしながらPEに比べシステムは複雑であり、サイトカインの除去もできません。また、置換液に血清アルブミンの3倍弱のアルブミン濃度の溶液を必要とするため、FFPでは濃度が薄いため、使用することは難しいです。さらに、FXⅢやFibは、ターゲットとするIgGよりもさらに10~15%程度多く除去されるため、注意が必要です。
図3 当院におけるDFPPの回路例
4)血漿吸着法(PA)
PAは血漿分離器により分離された血漿を血漿分離器に導き、特異的かつ選択的に病因物質を除去する方法です。自己抗体を吸着除去する免疫吸着法(immunoadsorption plasmapheresis: IAPP)(図4)やlow density lipoprotein(LDL)コレステロールなどを吸着除去するLDL吸着が、代表的な治療方法です。
PAは吸着除去であるため置換液を必要とせず、理論的には最もよい治療法といえます。しかしながら、本邦で使用できる吸着器は陰性荷電しているリガンドを用いて物理化学的な静電結合や疎水結合などを利用しており、10~30%程度のIgG除去を行えるに過ぎません。
図4 当院におけるIAPPの回路例
岡戸先生:
FFPは、アルブミンよりもアレルギー反応や感染症などのリスクが高いと考えられています。例えばGBS(ギラン・バレー症候群)においては、FFPとアルブミンの両者どちらを置換液として用いても治療効果に差は認められず、合併症の頻度がアルブミン置換で低かったという報告があります3)。また厚生労働省から出ている血液製剤の使用指針においても凝固因子の補充を必要としない治療的血漿交換療法の置換液としてアルブミン製剤の使用が強く推奨されている4)ことから(表1)、当院ではアルブミン置換を最初に検討します。
TTP(血栓性血小板減少性紫斑病)や出血を合併している、もしくは感染を併発している症例では、置換液としてFFPを選択することが多いです。
表1 血液製剤の適正使用
【FFP置換の問題点】
FFPには抗凝固剤としてクエン酸ナトリウムが含まれています。このクエン酸は血中のカルシウムイオン(Ca2+)とキレート結合します。この点を考慮しないで施行するとクエン酸が体内に大量に入り、低カルシウム血症を引き起こす可能性があります。
【アルブミン置換の問題点】
アルブミン製剤には凝固因子やグロブリンが含まれないため、頻回・大量置換を行う場合は、易出血や易感染性に関する注意が必要です。
大久保先生:
血漿交換療法では1回の治療あたりの血漿処理量を患者の循環血漿量(plasma volume:PV)を基準として計算を行います。置換液量の計算には、当院では下記の式を用いています2)。
PV(L)= 体重(kg)/13 ×(1 - ヘマトクリット(%)/100)
また、海外の総説1)では推定PV(estimated PV:EPV)として
EPV(L)= 体重(kg)× 0.065 ×(1 -ヘマトクリット(%)/100)
の式を用いて計算することが多いです。
1.5EPV以上の置換液量を用いても除去率は著しく増加せず、治療時間の延長や置換液量が大量となりコストや副作用のリスクが増えることが報告されています6)。
PEの置換液のアルブミン濃度は患者の膠質浸透圧と一致するよう設定する必要があります。廃液中のアルブミン濃度は、治療前の血清アルブミン濃度と同程度であり、破棄される量を補充するという観点から、治療前血清アルブミン濃度と同程度のアルブミン濃度が適正な置換液濃度と考えられます。
岡戸先生:
FFP置換で施行する場合は連日でも施行可能ですが、アルブミン置換で頻回にPEやDFPPを施行する場合は、凝固因子の低下が問題になるため、中2日以上空けることが望ましく、特に3日以上連続の施行は避けたいところです。
大久保先生:
連日施行したいということであれば、SePEでは凝固因子が除去されないので、当施設でも3日連続で施行することがあります。しかし、通常の単純血漿交換での連日施行ではFFP置換を行わなければならないという条件があり、モダリティと置換液の選択により施行間隔は変わってきます。
岡戸先生:
血漿交換療法において考えられる主な副作用や合併症としては、血圧低下、出血傾向や凝固因子の低下、アレルギー、電解質や酸塩基平衡の異常、そして感染症があげられます。
血圧低下は合併症として最も多いもののひとつです。重症患者における心機能低下、FFPによる希釈や置換液補充量の不足による血液量の減少、そして穿刺痛や不安などによる迷走神経反射や材料・抗凝固薬・置換液によるアレルギーに伴う末梢血管抵抗の低下など、様々な原因により起こり得ます。
PAで用いる吸着器の多くは陰性に荷電しており、ブラジキニンの産生を促します。ACE阻害薬内服中の患者ではブラジキニンの代謝も阻害され、ブラジキニン蓄積による血圧低下などが起こり得るため、薬剤の半減期を考慮した休薬期間が必要です。
心機能低下や末梢血管抵抗低下の症例では、昇圧剤などの投与、血漿浸透圧の低下が予想されるときには、クリットラインなどを用いて血液量(Blood Volume:BV)の変化をモニタリングし、アルブミンなどの補充も考慮します。
急激な血圧低下時には、意識レベルやバイタルサインの確認、下肢挙上、原因薬剤や療法の中止、輸液、酸素投与などのショックと同様に対処します。
アナフィラキシーショックを起こしたときは、速やかに血漿交換を停止し、アドレナリン0.3㎎の筋肉注射を行います。
当施設でもアナフィラキシーショックを疑った時点で注射を打つことが周知されています。万一発現した場合に、パニックで早期対応が困難になることがないよう、日頃から周知と準備をしておかなければ、医療事故に繋がってしまう可能性があることを忘れてはなりません。
出血傾向や凝固因子の低下は、抗凝固薬の使用によるもの、凝固因子の除去によるもの、そして原疾患に起因するものがあります。凝固薬の種類や投与量の適宜調整、Fibなどの凝固因子のモニタリング、血漿交換療法のモダリティの見直し、そして凝固因子低下時にはFFPによる補充などを行うことで予防することが可能です。
アレルギーは、FFPに含まれる未知の物質が主な原因であり、そのほか抗凝固薬も原因となります。FFP置換では、アルブミン溶液と比較して、合併症の発症頻度が約2倍といわれており5)、アナフィラキシーショックを含む致命的副作用があります。
例えば、海外の総説においてアフェレシス療法の総死亡率は0.05%と記載されていますが、その最初の項目として輸血関連急性肺障害(Transfusion-related acute lung injury:TRALI)が記載されており1)、その致死率は13-18%と言われています。日本においてもFFP置換PEによるTRALIが報告されており、知っておくべき合併症として重要です。
電解質や酸塩基平衡の異常もFFP使用が主な原因です。FFPには抗凝固剤としてクエン酸ナトリウムが添加されており、クエン酸によって血中Caイオンがキレートされ、Caイオンを低下させます。
さらに大量のクエン酸が代謝されることで重炭酸イオン(HCO3-)を生じ、代謝性アルカローシスも来たします。低Ca血症の予防方法としてCa製剤(グルコン酸Caなど)の持続投与がありますが、腎機能障害や重症肝不全の合併例では、Ca製剤による補正では限界があり、さらにNaやHCO3-の補正を含む体液コントロールはできないため、血液透析(HD)や血液濾過透析(HDF)の併用が有効です。
HDやHDFとの併用療法には、置換液のFFPを透析(クエン酸除去や電解質補正など)してから体内へ入れることが可能なPEを、透析回路より上流に併用する直列法や直並列法が望ましいです。
HDやHDFとの併用療法時には、低K血症や低P血症にも注意が必要です。
大久保先生:
当院では、アルブミン置換液を調整する場合、献血アルブミン製剤と乳酸リンゲル液と10%塩化ナトリウム注射液を用いて、目的のアルブミン濃度を作成します。アルブミン製剤を乳酸リンゲル液のみで希釈調整した場合、晶質浸透圧が250mOSm/L程度とやや低くなるため、乳酸リンゲル液1000mLに対して10%塩化ナトリウム注射液10%(希釈液量の1%)を添加して、浸透圧を280mOsm/L程度に調整します7, 8)。
その際、置換液作成表を作成しており、患者さんの体重、ヘマトクリット、血清アルブミン値、除去率を入力すれば置換液量と置換液アルブミン濃度が表示されます。(表2、表3)
表2 PE置換液作成表
岡戸先生:
まず、血漿交換療法で除去すべき病因物質は何かを主治医に確認します。治療ターゲットとして一番多いのはIgG領域の自己抗体ですが、IgGよりも大きいIgM(IgGの5量体)や免疫複合体(イムノコンプレックス)などが治療ターゲットになる場合があります。
例えば重症筋無力症で、かつ抗アセチルコリンレセプター抗体が陽性であれば、優れた吸着能を有する吸着器があるため我々は最初にIAPPを選択します。しかしながらそれ以外のIgG領域の自己抗体の場合には、SePEを推奨しています。
血漿交換で除去される物質には凝固因子が含まれており、これらの凝固因子には大分子であるFibとFXⅢが含まれます。これらの半減期は長く、一度、血漿交換療法で除去すると長時間回復しません。そして、大量に除去されてしまうと出血の合併症などを引き起こす可能性があります。特にFXⅢに関しては合併症の報告が数多く上がっており、注意が必要です。SePEであればFibやFXIIIを保持しながらIgGの除去が可能であり、より安全かつ効果のある治療を行いたいという観点から、当施設ではSePEを数多く施行しています。
しかし、病因となる自己抗体が不明である場合やIgMや免疫複合体などの大分子領域が治療ターゲットとなる場合には、最初にPEを行います。なお、IgMや免疫複合体は、血管内に多く存在し、一度除去すると長期間治療効果が続くこと、そしてFibやFXⅢのように産生に時間の掛かる凝固因子のことも考慮して、間隔を開けながらPEを施行します。
しかし、どうしても間隔を詰めて治療を行う必要がある場合は、最初にPEを施行し、2回目からはSePEを行うというコンビネーション治療を行えば、比較的安全かつ効率よく治療を行うことが可能です。(図5)
重要な点は、一つのモダリティに捉われるのではなく、臨機応変に他のモダリティを組み合わせて施行することです。モダリティでも置換液に関しても、どれも一長一短があります。私たちはこれらを組み合わせて施行することで少しでもリスクを減らそうと考えています。
図5 当院における自己免疫疾患に対するアフェレシス療法戦略
岡戸先生:
FFPは非常に高価であり、取り扱いや保存方法など、注意が必要な点も多いです。貴重な血漿でもありますので、コスト意識を持ちながらできる限り使用を減らしていきたいと考えています。
IAPPが可能な疾患であれば、それが第一選択になる可能性があります。そうでなければ、アルブミン置換を第一選択として考えています。
「血漿交換はとりあえずFFP」と考えておられる先生もいらっしゃられるかと思います。例えばTTPのような疾患で、連日FFPを使って治療しなければ死亡の可能性がある場合は、我々も連日FFP置換によるPEを行います。しかしFFPにはアナフィラキシーショックを含めたリスクがあります。
アルブミン置換で施行中に凝固因子の減少を認めた場合、アルブミンとFFP両方の置換液を使用することも可能です。
大久保先生:
従来は血漿交換と言うとFFP置換というイメージでした。しかし現在では、できるだけアルブミン置換を行います。例えばSePEではFFP480ml製剤を加えるとか、単純血漿交換であればアルブミンとFFPのハーフ&ハーフで行い、本当に不足したときだけFFPを補充するという考え方に変化してきていると思います。
岡戸先生:
置換液も一つにこだわらないようにしています。大切なことは原理を学び、それを活かすということです。
大久保先生:
患者さんは日々フェーズが変化しています。その中で、「このフェーズではこの置換液が必要」という考え方が必要であると思います。一度決めたらそれを貫くという考え方には少し懸念が残ります。
岡戸先生:
アフェレシス療法を含めた全ての血液浄化療法は、病因物質の除去と不足物質の補充を目的とした対処療法といえます。疾患の病勢コントロールのためには、病因物質の産生を抑えるほかの治療法(例:自己免疫疾患に対する免疫抑制療法)との併用療法が基本となります。そのため原疾患の病態や病因物質の動態はもちろんのこと、各アフェレシス療法や各置換液などの長所と短所を十分に理解することが必要です。
例えば自己免疫疾患に対する血漿交換療法においては、出血や感染を合併していなければ、様々な点を考慮して置換液にはまずアルブミンを選択することが望ましいと考えます。
頻回のアルブミン置換での治療は、出血傾向を助長しやすいため治療間隔を空けるか、SePEを選択します。特にSePEは、アルブミン置換でも3日連続施行などの積極的治療が可能です。血漿交換におけるアルブミン置換は、医療経済的にも効率が良い治療であり、FFP使用時の副作用を軽減することが可能です。
大久保先生:
技士の立場からは、先述のように患者さんのフェーズを見ながら、一つの治療法、一つの置換液に捉われず、そのフェーズに合った治療を提供することが大切であると考えています。患者さんの動き、状態を把握した上で、先生方とディスカッションを行い、治療を提供していくことが、我々の力を最大に発揮する方法であると考えます。
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