TOP 製剤情報一覧 疾患から探す Web講演会レポート 大きく変わった肝硬変診療におけるアルブミンの使い方~知っておくべき知識のアップデート~

Web講演会レポート(開催日:2021年12月13日)

吉治 仁志 先生

奈良県立医科大学消化器代謝内科 教授
吉治 仁志 先生

2022年4月掲載
(審J2203299)

肝硬変の成因の変遷

非専門医の先生方は、肝硬変というとB型肝炎(HBV)、C型肝炎(HCV)といったウイルス肝炎をイメージされると思います。たしかに、10年以上前は多くの患者さんがHBV、HCVでしたが、最近の調査によると、HBVでもHCVでもない非 B非 C型肝がんと呼ばれる患者さんが約半数になってきています(図11)

図1 肝硬変の成因の変遷

図1 肝硬変の成因の変遷
HBV:B型肝炎ウイルス,HCV:C型肝炎ウイルス,ALD:アルコール性肝疾患,NASH:非アルコール性脂肪肝炎,AIH:自己免疫性肝炎,Cholestasis:胆汁うっ滞,Cryptogenic LC:特発性肝硬変
Enomoto H, et al. J Gastroenterol. 2020; 55:353-362
©The Author(s) 2019

これに伴い、様々なことが今後変化すると思われます。一つは、肝発がん率です。実際に、HCV肝硬変の患者さんを診察していると、だいたい5年で3割、3人に1人の患者さんが肝臓がんを発症しています。ところが、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)での肝発がん率はその3分の1、アルコール性肝硬変では4分の1以下と報告されています。言い換えれば、今後肝がんになるまで長い期間を要する肝硬変が増えていくことで、肝硬変の合併症のマネジメントが、臨床においてさらに重要になってくると言えます。さらに、肝臓がんになった場合の薬物治療として、免疫チェックポイント阻害薬や様々な分子標的治療薬が使われてきていますが、これらは全てChild-Pugh分類A、すなわち肝予備能が良好な状態で使用することが推奨されています。したがって、肝硬変患者さんの診療においては、肝がんへの対策に加えて肝予備能を保つことが非常に重要になってきます。

肝硬変診療ガイドライン2)の改訂ポイント

『肝硬変診療ガイドライン』の初版は2010年に発刊され、その後、5年ごとに新しいエビデンスを加えながら改訂することになっています。初版と2015年の第2版は日本消化器病学会からのガイドラインで、肝臓学会は協力学会という立場でしたが、最新の2020年の第3版は、消化器病学会と肝臓学会が初めて合同で作成したガイドラインです。

ガイドラインは基本的に「クリニカルクエスチョン(CQ)」で構成されているものがほとんどですが、2020年の第3版では、消化器病学会の10種類のガイドラインに合わせ、従来のCQに加えて、複数の診療オプションではない標準的な知識を「バックグラウンドクエスチョン(BQ)」、データは不足しているけれども今後の臨床における重要な課題を「フューチャーリサーチクエスチョン(FRQ)」として作成されました。

内容に関しては、2015年のガイドラインをブラッシュアップし、この5年間で新たに明らかになった項目、例えば、HCVの抗ウイルス治療としてインターフェロン(IFN)フリーの経口薬や、C型非代償性肝硬変に対しても経口薬が使用できるようになりましたので、これらを含めています。

合併症の項目では、サルコペニア、筋痙攣、搔痒症、肝肺症候群、門脈圧亢進症に伴う肺高血圧症(PoPH)、ビタミンD欠乏、アルコール性肝硬変に対する減酒療法(ハームリダクション)などを新たに追加しました。

肝硬変の主な合併症

肝硬変は非常に多くの合併症を伴い、様々な病態が複雑に絡み合って多くの臨床的な症状を来します。その基本として、肝硬変では肝機能不全によってアルブミンの産生が低下し、この低アルブミン血症が多くの合併症のベースになっていることが広く知られています。合併症のある肝硬変患者さんでは、合併症のない患者さんと比較して、概して予後が悪いことが観察研究で明らかになっています3)

1. 腹水・特発性細菌性腹膜炎(SBP)

低アルブミン血症が直接的に関係する合併症の一つとして、腹水が挙げられます。腹水は成因が非常に複雑な病態ですが、基本として、アルブミンの合成障害から低アルブミン血症になることが極めて重要なポイントです。肝硬変に腹水貯留を合併し、腹水が溜まったところに菌が入り込んで特発性細菌性腹膜炎(SBP)を起こしてしまうと予後が悪くなることが明らかになっています。今回のガイドラインのBQでも、SBPの予後は1年後の生存率が4割になることを示しています。難治性腹水になると、さらに予後は悪く、末期症状とも言われる肝腎症候群(HRS)とほぼ変わらない状況です(図23)

図2 肝硬変患者の合併症による生存率

図2 肝硬変患者の合併症による生存率
調査期間:1997年8月~2001年12月
調査例数:263例(男性65.4%)
調査地域:スペイン・バルセロナ
生命保険数理法により算出
Planas R, et al. Clin. Gastroenterol. Hepatol. 2006; 4:1385-1394

腹水の治療についてはガイドラインにフローチャート(図32)を掲載していますが、少量の腹水(Grade 1)から塩分制限を行い、場合によっては既存の利尿薬を用います。中等量~大量の腹水(Grade 2~3)では抗アルドステロン薬が第一選択で、ループ系利尿薬は大量に使用しないことを今回のガイドラインで示しています。これはフロセミドの作用を考えると分かります。ループ系利尿薬のフロセミドはアルブミンと結合することで、ヘンレのループまで運ばれて作用を示しますが、血清アルブミン値が低い状態では運搬役がいないわけですので、利尿薬をいくら入れても効果が出ないということになります(図44)

図3 腹水治療のフローチャート

図3 腹水治療のフローチャート※
「日本消化器病学会,日本肝臓学会編:肝硬変診療ガイドライン2020,改訂第3版,p.xxi,2020,南江堂」より許諾を得て転載.

本フローチャートに記載されているスピロノラクトン、トルバプタン、フロセミドの投与量は、国内で承認された用法及び用量と異なります。

トルバプタン
7. 用法及び用量に関連する注意より抜粋
〈肝硬変における体液貯留〉
7.6 血清ナトリウム濃度が125mEq/L未満の患者、急激な循環血漿量の減少が好ましくないと判断される患者に投与する場合は、半量(3.75mg)から開始することが望ましい。

図4 フロセミドの作用

図4 フロセミドの作用
Mori T, et al. Hepatol. Res. 2017; 47: 11-22

そこで、アルブミンを利尿薬と併用することが非常に重要となります。海外では、すでに15年以上前に、アルブミンを併用することによって予後が明らかに改善することが報告されています(図55)。アルブミンの機序は様々ですが、アルブミンは内因の細菌性のエンドトキシンを不活化する、生体内における最も強力な物質ですので、この生理作用も重要な機序の一つとして考えられています。

図5 腹水治療に対する利尿薬とアルブミン製剤の併用有無による肝移植なしの生存率の比較

図5 腹水治療に対する利尿薬とアルブミン製剤の併用有無による肝移植なしの生存率の比較

Kaplan-Meier法により推定した生存率
Breslow test =7.05,p = 0.0079

〈試験概要〉
肝硬変に併発する腹水に対する利尿薬とアルブミン製剤の併用の生存に対する効果を検討した非盲検無作為化試験
対象:初回発症の腹水で入院した肝硬変患者100例
調査期間:1993年1月1日~2003年6月30日
介入:利尿薬+アルブミン製剤または利尿薬のみを投与
Group1(n=54):利尿薬+アルブミン製剤(1年間25g/週、その後25g/2週)
Group2(n=46):利尿薬
主要評価項目:肝移植なしの生存
副次的評価項目:腹水の再発および他の合併症の発生

Romanelli RG, et al. World J. Gastroenterol. 2006; 12:1403-1407
©2006 Baishideng Publishing Group Co., Limited.

こうしたことから、ガイドラインでは「肝硬変に伴う腹水に対してアルブミン投与は有効か?」(BQ4-5)に対し、アルブミン投与は利尿薬との併用により腹水の消失を促進し、腹水の再発を抑制して合併症の発現を抑制し、予後が改善することを記載しています2)。同様に、SBPに対する治療についても、アルブミンの投与が有用であり、抗菌薬に加えてアルブミン製剤を併用することで、肝腎症候群の発症や死亡率を抑制できることを示しています2),6),7)

また、ループ系利尿薬を継続的に投与すると、様々な有害事象や合併症が生じることも分かっています。例えば、腎機能障害、肝性脳症は2割、低ナトリウム血症も3割で発生します8)。そこで、日本では水利尿薬のトルバプタンが使えるようになりましたので、早い段階でトルバプタンを使うということをフローチャートに示しています(図32)。トルバプタンはバソプレシンの拮抗薬で、電解質に影響を与えずに水だけを引っ張ってくるという作用があり、腎保護にも働くということで、早期に使用することが推奨されています。

2. 難治性腹水

しかし、これらの薬を用いても、利尿薬等でコントロールできない場合は難治性腹水という定義になります。この場合は、大量の穿刺排液を行うか、日本では腹水濾過濃縮再静注法(CART)を行いますが、ここでもアルブミンの投与を行うことをガイドラインに示しています2)。15年以上前の海外のRCTでも、大量穿刺をする場合は生理食塩水や単なるPEG製剤ではなく、アルブミンを同時に投与することによって、その後の腎障害や低ナトリウム血症といった合併症の発生が抑えられることが報告されています9)。メタ解析でも、死亡率に対する大量穿刺時のアルブミン投与の効果が示されています10)。よく知られているANSWER試験では、大量穿刺ではなくアルブミンを維持することによって、その後の腹水の発生率や患者さんの予後が改善する11)など、様々なことが報告されています。

ところが、国内におけるアルブミンの使用量は、「1か月6本」まで、ということが都市伝説のように言われています。この「1か月6本」という数字には、実ははっきりした根拠があるわけではなく、アルブミンの添付文書に、通常、成人ではアルブミンは1回5~12.5 gで、「投与効果の評価を3日間を目途に」行うことと記載されていることから、1日2本を3日間として、6本が基準になっているのではないかと推測します。また、以前はアルブミンの使用量が非常に多かったということがありますので、献血の貴重な成分の浪費を防ぐという目的もあったのだと思います。

しかし、これはアルブミンの合成低下による膠質浸透圧の補正や、低アルブミン血症に対して単にアルブミンを補正する目的に対して言われていることであり、大量穿刺のときに十分量のアルブミンを投与する状況とは異なるものと捉えるべきでしょう。

実は、日本輸血・細胞治療学会のガイドラインでは、2015年の第1版から、海外のデータに基づいて、大量穿刺時には1L あたり8~10 g のアルブミンの投与が有効との記載がなされていました12)。また同時に、大量穿刺時を含む肝硬変の治療には、高張アルブミン製剤の使用が推奨されました。このガイドラインを受けて、厚生労働省の『血液製剤の使用指針』(2019年)においても、「非代償性肝硬変に伴う難治性腹水に対する治療において、高張アルブミン製剤の使用を強く推奨する」と記載されました13)

欧州のガイドラインでは、大量の穿刺排液時には、5 Lを超える排液を行う際に1 L当たり8 gのアルブミンを投与することがエビデンスとして最も高いと示されています14)。最近の米国のガイドラインでも同様に、5 Lを超える大量穿刺時には腹水1 L当たり6~8 gのアルブミンの投与が推奨されています15)

実際に、病態生理上もアルブミンを十分量入れてあげることは重要です。Child-Pugh分類のBやCの肝硬変の患者さんの場合は、アルブミンの質が落ちて、酸化型のアルブミンが増えていることが報告されています16)。酸化型アルブミンは還元型アルブミンに比べて働きが悪く、内因性エンドトキシン結合能力の低下や活性酸素の除去能力も低下することが報告されています17)。アルブミン製剤を用いてアルブミンを必要量補充してあげるということは、患者さんの予後改善のうえでも、非常に重要であろうと思います。

では、十分量のアルブミンを使って穿刺排液をすればCARTはいらないのかというと、そうではありません。CARTは腹水中の不要なものや様々なものを濾過して、それを濃縮して患者さんに戻すことが目的ですが、アルブミンなども腹水中にたくさん抜けていってしまいます。酸化型アルブミンであっても、全く意味がないわけではなく、ある程度膠質浸透圧を維持する、いわゆる漏れ出しを防ぐという働きをもっていると言われていますので、その点においても、CARTも難治性腹水の患者さんでは有用です。例えば、何リットルもの大量穿刺を週に数回する人は、アルブミンをどんどん抜いて、減らしていくだけというイメージがあるかと思います。そういう患者さんには、CARTによってアルブミンを濃縮して患者さんに戻してあげるというのも重要なことだと思います。

これまでは利尿剤で効果が不十分な場合、CARTをするか大量穿刺をするかのどちらかというケースが多かったと思いますが、今後アルブミンが使えるようになれば、大量穿刺でアルブミンを入れながらCARTも2週間に1回被せて行っていくということが可能になります(図6)。CARTは2週間に1回が保険適応回数ですが、これに被せてアルブミンを入れることで、穿刺間隔の延長が期待できますので、患者さんのQOLの改善が望めます。また、CARTには、アルブミン以外にも、凝固因子やアンチトロンビンIIIを戻す働きがあるとも言われていますので、患者さんの予後の改善につながる可能性があると考えます。

図6 難治性腹水に対するアプローチ例

図6 難治性腹水に対するアプローチ例
監修:奈良県立医科大学消化器代謝内科 教授 吉治仁志 先生

実際にアルブミンを投与する場合、「どれくらいのアルブミンをいつ投与するのか」「腹水を抜いた後に入れたらいいのか」「腹水穿刺と同時に入れたらいいのか」あるいは「どれぐらいの速さで入れたらいいのか」といった質問を受けます。きちんとした比較試験は行っていませんが、我々の施設では穿刺排液と同時に入れています。その理由の一つとして、穿刺排液を行うときにアルブミン投与ルートを同時確保しておくことで、何らかの合併症が生じた際にも早急に対応ができるということがあります。投与速度としては、穿刺排液と同時に、アルブミンを1~数時間をかけて投与します。異物ではなく、もともと生体内物質であるものを投与しますので、大きな問題を生じるリスクは高くないと考えられます。

診療報酬の点で、輸血部門の先生から「それだけ大量のアルブミンを使えば、輸血適正使用加算I、IIが取れなくなるのでは?」という質問を受けますが、現在、日本のアルブミン使用量は極端に減少しており、少なくとも、肝硬変の患者さんの腹水大量穿刺排液に限定して、十分量のアルブミンを使うことによってアルブミン製剤と赤血球濃厚液の使用比率が2を超えてしまうということは、余程のことがなければ生じないものと考えます。

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