TOP 製剤情報一覧 疾患から探す 慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP) CIDPのエキスパートに聞く CIDPに対する経静脈的免疫グロブリン(IVIg)維持療法

慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP)

CIDPに対する経静脈的免疫グロブリン(IVIg)維持療法

国立病院機構箱根病院
神経内科
津田 笑子 先生

2021年4月掲載
(審J2102526)

※本⽂内に記載の薬剤をご使⽤の際には、製品添付⽂書をご参照ください。

はじめに、津田先生のご専門をお聞かせください。

津田先生:
2021年3月まで北海道で神経内科診療を行っておりました。専門分野は臨床神経生理学で、臨床の現場では免疫性神経筋疾患を中心に神経内科疾患全般を担当しております。近年は市中病院に勤務し地域の免疫性神経筋疾患患者さんの治療を大学病院等の高次医療機関と連携しながら進めることが度々ありました。

CIDPの治療について

ガイドライン1)には第⼀選択の治療としてステロイド、⾎漿交換療法、IVIgの3つがグレードAで推奨されています。どのような観点から治療法を選択されていますか?

津田先生:
まずCIDPの病型や重症度、経過から治療計画をたてます。さらに、患者背景や病院の施設状況を考慮しつつ、患者さんに提案し治療方針を決定するようにしています。いずれの治療も効果はあると思いますが、患者負担や有害事象のリスクは個人差がありますし、CIDPのタイプによって期待される効果も異なる2)ため患者毎に検討して決めます。そして、選択した治療の効果が不十分な場合は別の治療を試みる、場合によっては積極的に診断を見直すようにしています。

現在、CIDPに対するIVIgには、活動期治療としてのIVIg⼤量療法に加え、維持療法も適応となりました。維持療法はどのように導入されていますか?

津田先生:
維持療法が認可される前は、脱力が出るたびに入院し活動期治療を行なう患者さんを数名経験しました。若年者の場合、その度に学校を一定期間休むことになり心が痛みました。CIDPの臨床経過は様々で初回治療の後、再燃なく経過される症例もいれば、頻回の再発を繰り返す症例もいます。維持療法が不要な患者さんもいるため、活動期治療の後に経過を見極める時間は必要ですが、漫然と観察せず常に維持療法への移行を考えて診療しています。グロブリン製剤による維持療法についてはグロブリン製剤が有効であることがまず重要であり、しっかりと活動期治療を行い、効果を見極めます。そして活動期治療としてIVIgが有効だけれども、数ヶ月ごとに再発を繰り返す症例には、神経学的後遺障害を避けるためにも積極的に維持療法を提案しています。現在、グロブリン製剤による維持療法は静注製剤と皮下注製剤を選択することができ、かつ再発予防という観点ではステロイドの有効性も報告3)されていますので、各症例に応じた最適な再発予防策を検討するようにしています。

さらにIVIg5%製剤と10%製剤の濃度の異なる製剤を選択できるようになりました。5%製剤から10%製剤への変更点を教えてください。

津田先生:
大きな変更点は、液量が半量になり循環負荷が軽減されたことです。さらに5%製剤と同じ速度で投与すると投与時間が短くなるため、患者さんが学校や仕事に使える時間を増やせたことが挙げられます。 特に、CIDP維持療法では3週間隔で通院治療を行うため、投与時間を短縮できることは大きなメリットと感じています。

●CIDP維持療法の場合(体重60㎏):1000mg/kg×1日または500mg/kg×2日を3週間毎

図1 CIDP維持療法の場合(体重60㎏):1000mg/kg×1日または500mg/kg×2日を3週間毎

活動期から維持期まで主にIVIgで治療を行った症例を紹介します。
※紹介した症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様の経過を示すわけではありません。

«症例紹介»
■18歳男性(大学生) ■発症年齢:15歳 ■既住歴:なし ■合併症:なし

«治療»

症例紹介 血清IgGと握力の推移 血清IgGと握力の推移
(症例報告者 津田笑子先生)

本例は運動症状優位に再発寛解を呈したCIDP症例です。筋力低下の症状はIVIgで速やかに改善するものの1~2か月後には症状の再燃を認め、その度に活動期治療(400mg/kg×5日間)を目的とした入院加療を要しました。握力低下が顕著な症例で発症当初は握力5kg以下となることもありましたが、IVIg維持療法(1,000mg/kg×1日間)開始後は、明らかな再発なく経過し握力は増加しました。通院治療で寛解状態を維持し、学校を休むことを減らすことができました。その後本例は一定期間寛解状態が続いたためIVIg維持療法を中止し経過を見ています。

維持療法に対する課題についてお聞かせください。

津田先生:
維持療法により良好に経過した場合の中止時期や中止方法についてはまだ明確な指針がないことがあげられると思います。さらに、昨今の新型コロナウイルス感染症拡大の状況下で感じたことがあります。IVIg療法は病院が稼働していないと行えない治療であり、もし、患者さんが通っている病院で治療が行えなくなった場合、その地域で治療可能な病院はどこなのか、隣接地域も含めて把握しておく必要があると感じました。コロナ禍だけでなく、災害時にも必要な情報だと思います。

CIDPの診療全体として今後期待することをお聞かせください。

津田先生:
CIDPは慢性経過の疾患であり患者さんとともに短期的視点および長期的視点の両方から治療を考えていく必要があると思います。再発時には確実に症状を改善し、何より再発をさせないことが重要です。発症したという過去は変えられませんが、現在および未来の症状をコントロールし、患者さんが希望するライフスタイルで生活していけるようにサポートできる治療や診療システムを提供していきたいと思います。

1) 日本神経学会 監, 「慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー、多巣性運動ニューロパチー診療ガイドライン」作成委員会 編: 慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー、多巣性運動ニューロパチー診療ガイドライン2013, 南江堂, 2013.
2) Bunschoten C et al.: Lancet Neurol 18: 784–794, 2019.
3) van Schaik IN et al.: Lancet Neurol 9: 245–253, 2010.

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