TOP 製剤情報一覧 疾患から探す 慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP) CIDPのエキスパートに聞く CIDPの画像検査と他疾患との鑑別 ~神経超音波検査を中心に~

慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP)

CIDPの画像検査と他疾患との鑑別 ~神経超音波検査を中心に~

京都府立医科大学大学院 医学研究科
神経内科学 学内講師
能登 祐一 先生

2020年2月掲載
(審J2001248)
―はじめに京都府立医科大学 脳神経内科の概要についてお聞かせください。

能登先生:
当科は、老化全般にわたる診療・教育・研究と、豊かな高齢化社会づくりへの寄与を目的として1990年に開設され、2002年に二代目教授として中川正法氏(現 京都府立医科大学附属北部医療センター病院長)が就任して以降は、脳卒中、認知症に加えて、遺伝性神経疾患やHTLV-1関連脊髄症(HAM)など、難病を含む神経疾患の診療にも数多くあたってきました。中でも、Charcot-Marie-Tooth病(CMT)は専門外来を設置するとともに、CMT患者のレジストリー研究を実施し1)、自然歴調査、患者数や患者分布の把握、疫学研究、バイオマーカー探索、登録患者さんへの情報提供などにも取り組んでいます。
当科では、神経生理学的検査、神経・筋生検を含む神経病理学的検査、また、最近では、神経・筋超音波検査などの態勢を充実させ、多くの神経筋疾患患者さんの診療にあたっており、私自身は10名余りの慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy:CIDP)の患者さんを外来でフォローしています。

― 先生の研究テーマを教えてください。

能登先生:
神経伝導検査、筋電図、神経・筋超音波検査、および軸索興奮性検査などの電気生理学的検査の手法を用いて、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)やCMTを中心とした神経筋疾患の病態解明、疾患モニタリングの有用なパラメーターの検出などを行っています。これまでに、神経超音波検査によって得られた神経断面積がCMTのサブタイプの鑑別に有用であることや2)、ALSにおける上位運動ニューロン障害の評価における動的筋超音波検査の有用性3)、遠位と近位の神経断面積の比がALS診断の有用なマーカーと成り得ることなどについて4)報告してきました。

CIDPの診断と神経超音波検査

― CIDPの診断における画像検査の位置づけを教えてください。

能登先生:
CIDPの診断は、臨床症状および脱髄を示唆する電気生理学的所見の確認によって行われます。したがってMRIや神経超音波検査などの画像検査は、あくまでも補助診断という位置づけです。
神経超音波検査は、神経伝導検査で脱髄所見を得た際に、その脱髄の意味合い、すなわち、脱髄がどのような疾患あるいは要因に基づいて生じているのかを明らかにするための一助となるものであり、鑑別すべき他の脱髄疾患を除外し、CIDPの診断に自信を持つために活用されるべきと考えています。低コストで非侵襲的、簡便で外来で実施できることからも、補助診断テクニックとしての有用性は高いと思います。

―低コストで非侵襲的ということですが、治療効果の評価での活用についてはどのようにお考えでしょうか。

能登先生:
CIDPでは罹病期間が長い、また治療開始が遅いと神経は太くなるという報告がありますので(表15)、治療介入までの期間が長い、あるいは、治療が有効でない場合などに神経腫大が進行し、それが疾患重症度と相関するのだと思います。しかし実臨床では、治療後に観察を行っても神経断面積の変化はわずかなことが多く、はっきりとは確認できないというのが実感です。例えば、治療が奏効した症例で神経断面積が縮小しているかと言われると案外わかりにくく、私自身は神経超音波検査は経過観察においてはそれほど有用という印象は持っていません。
また、最近、FisseらがCIDPの長期フォローアップにおけるエコー輝度と臨床経過に関して報告を行っていますが6)、データ処理に時間と手間を要し、解析も難しいことから、エコー輝度の活用は現時点ではあまり実用的ではないと思います。
やはり、CIDPでは臨床症状の評価が重要ですから、治療効果も臨床症状から判断するのが適当だと思います。現時点で神経超音波検査は、診断において有用性が高いと考えています。

表1 超音波検査による神経断面積の比較

中央値(範囲)

表1 超音波検査による神経断面積の比較
*p<0.001 vs 健常人、†p<0.001 vs 未治療CIDP(いずれもボンフェローニ補正のマン・ホイットニー検定)
Grimm A et al.: J Neurol 263: 1074-1082, 2016.

―CIDPの神経超音波所見の特徴を教えてください。

能登先生:
典型的CIDPでは、末梢神経の神経断面積が、神経根および近位から遠位までびまん性に増大するということが特徴です。超音波検査による神経の腫大は、経験を積めばある程度感覚的にわかるようになりますが、広島大学から日本人の健常データが出されていますので(表27)、この値を参照しながら実施して頂くのも一つの手だと思います。また、神経筋超音波研究会では、日本人における上肢神経断面積の正常値を構築しているところですので、今後はこうした数値も参照できるようになると思います。

表2 健常人における神経断面積の参照値(日本人)

表2 健常人における神経断面積の参照値(日本人)
*独立標本t検定、†全体 n=118、男性 n=56、女性 n=62
Sugimoto T et al.: Ultrasound Med Biol 39: 1560-1570, 2013.を一部改変

―CIDPの病型診断に有用な神経超音波所見はありますか。

能登先生:
先ほども述べたように典型的CIDPは、近位から遠位までどこでも均一に腫大するのでわかりやすく、この所見で診断がつくことは多いと思います。一方、多巣性脱髄性感覚運動型(multifocal acquired demyelinating sensory and motor neuropathy: MADSAM)については、神経の太さは均一ではなく、ある部分は太い、ある部分は細いというように多巣性に紡錘状の腫大を認めることが特徴です。

―神経超音波検査を実施する際のポイントを教えてください。

能登先生:
ある一部分の神経ではなくて、神経根、そして近位~遠位までを全てくまなく見るというのがポイントです。神経が見えづらい下肢は神経断面積判定が難しいケースも多いため、頸部神経根と上肢末梢神経の観察を行えば十分に有用な所見が得られると思います。上肢に限定すれば、それほど手間や時間を要することなく検査を実施することが可能です。
今はどのエコー機器にも末梢神経や筋肉を見るためにプリセットされた設定があると思いますが、神経に対しては12MHz以上のリニアプローブを使用すると観察しやすいです。

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