TOP  >   血漿分画製剤 その歩みと現状  >   血漿たん白の生理作用

血漿たん白の生理作用

2. 免疫グロブリン 14) 31) 32)

免疫グロブリン(IgG)の構造と機能
合成部位 B細胞
分子量 IgG 156,000〜161,000
半減期 IgG 15〜26日

免疫グロブリンすなわち抗体は、すべてのほ乳類動物の血清や組織体液中に存在する一群の糖たん白質です。人免疫グロブリンには、5 つの異なったクラス、IgG、IgA、IgM、IgD、IgE が存在し、中でもIgG はそれらの約75%を占めています。

低温エタノール分画法が確立されてから人血漿からのIgGの高純度かつ工業的規模での精製が可能となりました。初期の人免疫グロブリン製剤には、IgG の重合体(製造過程で産生)が含まれていたため、静脈注射(静注)により血中の補体を非特異的に活性化し、アナフィラキシー反応を惹起する可能性があることから、筋肉注射(筋注)に限られていました。

この副作用の原因、すなわち非特異的な補体活性化能を除去し、安全に大量投与でき、さらに速効性が期待できる静注用製剤の開発が行われ、現在では、ペプシン処理、スルホ化、PEG処理、pH4処理、イオン交換樹脂処理等の異なる種々の静注用製剤が製造されています。

感染症に対する作用 31)

抗体を感染症の予防及び治療に応用する、いわゆる受動免疫は、歴史的には血清療法に始まります。

感染症に対する免疫グロブリンの生体内における役割は、その予防または治癒過程における抗体としての生体防御活性の発現が最も顕著な働きとして挙げられます。

主体となるIgGを例に採るとFab部分とFc部分から構成されており、Fab部分は高い特異性で抗原に結合する機能を持ち、Fc部分は補体(Clq)、リウマトイド因子、Fc受容体等と結合する機能を持っています。

IgGが感染防御に果たす主な役割は、次の4点です(図)。

図:IgGが感染防御に果たす主な役割 図:IgGが感染防御に果たす主な役割

① オプソニン作用(免疫貪食作用)

好中球やマクロファージは、IgGのFc部分に対する受容体を持っており、この受容体を介してIgG抗体が結合した細菌を有効に貪食できるようになります。

すなわち、細菌と結合したIgGはファゴソーム内で殺菌物質である活性酸素(O2)を誘導し、このO2は直接細菌にオキシダントとして作用するのみならず、ファゴソームとライソゾームとの融合をも促進させ、ライソゾーム酵素との協同作用によってより効果的に殺菌、消化します。

② 免疫溶菌作用

ある種のグラム陰性菌(緑膿菌等)、スピロヘータ、レプトスピラ、原虫等に対して抗体が結合し、さらに補体成分がC9まで反応すると細胞膜に穴をあけて細胞を破壊し、溶菌現象を起こします。

③ 毒素・ウイルス中和作用

抗体は、細菌の産生する毒素に結合してその活性を中和し、またウイルスに結合してウイルスが標的細胞に侵入するのを防ぐ作用を有します。破傷風毒素やポリオに対する抗体の働きは、中和作用に基づきます。

④ 抗体依存性細胞性細胞傷害(antibody-dependent cell mediated cytotoxicity:ADCC)

ウイルス感染細胞の表面に発現したウイルス関連抗原にIgG抗体が結合すると、本来抗原特異性を持たないエフェクター細胞(NK細胞など)にFc受容体を介した抗原特異的な攻撃を起こさせます。すなわち、ウイルス増殖の場である感染細胞そのものを破壊し、これによって病原ウイルスの伝播を防止しています。

自己免疫疾患に対する作用 32)

1981年に特発性血小板減少性紫斑病(ITP)に対して、免疫グロブリン製剤の大量療法が有効であると報告されて以来、多くの自己免疫疾患において免疫グロブリン製剤の大量療法が行われるようになりました。現在、免疫グロブリン製剤の作用機序として、次のような作用メカニズムが考えられています。

① Fcレセプターを介した作用

免疫グロブリンがマクロファージなどの貪食細胞上のFcレセプターに結合、飽和することにより、自己抗体結合によるオプソニン化を阻害し、貪食細胞による標的細胞の障害をブロックします。

② 補体結合抑制

補体活性化経路のC3bの活性化を抑制し、以降の補体複合体の形成を抑制します。また活性化マクロファージ表面の補体レセプターに結合、飽和し、C3bによるオプソニン化を抑制すると考えられます。

③ 抗イディオタイプ抗体を介した作用

免疫グロブリン製剤は多くの健常人の血漿から製造されるため、抗イディオタイプ抗体を多数含有していますので、これによる自己抗体の中和や、B細胞への作用による自己抗体産生の抑制が考えられます。

④ IgGの異化亢進

エンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれたIgGはリソソームに運ばれ分解されますが、胎児性Fc受容体(FcRn)に結合すると異化されず循環血液中に戻されます。

投与された免疫グロブリンにより血中IgG濃度が上昇しFcRnが飽和されると、IgGの異化が亢進し、病因的なIgG自己抗体が減少すると推測されます。

⑤ サイトカイン・ケモカインに対する作用

IL-1やTNF-αなどの炎症性サイトカイン、炎症を促進させるmatrix metalloproteinase(MMP)の発現、ケモカインやその受容体に作用することによるマクロファージの炎症関連たん白発現の抑制効果が報告されています。

⑥ Tリンパ球との相互作用

免疫グロブリン製剤にはT細胞レセプターのβ鎖の可変部に対する抗体やCD4、HLA-Iなどに対する抗体が含まれており、T細胞の機能を低下させリンパ球増殖や抗体産生を抑制すると考えられます。

■日本血液製剤機構製品

1 静注用人免疫グロブリン[ 献血ヴェノグロブリンIH5%静注、献血ヴェノグロブリンIH10%静注]

2 筋注用人免疫グロブリン[ グロブリン筋注「JB」 ]

詳細は電子化された添付文書を参照するとともに電子化された添付文書の改訂にご留意ください。

審J2312179
参考文献
  • 14)
    大谷 明監修:続医薬品の開発-血液製剤-、廣川書店、1992年
  • 31)
    菅 守隆ら:化学療法の領域 12(S-I)、203、1996年
  • 32)
    千葉 厚郎:≪治療の実際―作用機序と適応・効果・副作用≫免疫グロブリン静注療法、内科、2010年

JBスクエア会員

JBスクエアに会員登録いただくと、会員限定にて以下の情報をご覧になれます。

  • 最新情報をお届けするメールマガジン
    (Web講演会、疾患や製剤コンテンツ等)
  • Web講演会(視聴登録が必要)
  • 疾患や製剤関連の会員限定コンテンツ
  • 薬剤師向けの情報
JBスクエア会員の登録はこちら
領域別情報 製剤情報 関連疾患情報
お役立ち情報・患者指導箋など JBファーマシストプラザ JBスクエア会員 講演会・学会共催セミナー
エキスパートシリーズ 情報誌など お役立ち素材 その他コンテンツ 新着情報