血液によるウイルス感染で、今日まで特に問題となってきたウイルスは、血清肝炎を引き起こすHBV、HCV ならびに後天性免疫不全症候群(AIDS)を引き起こすHIV です。
製剤の安全性の向上を目的として製造工程中に、機序の異なる複数の不活化・除去工程を導入していくことが、重要ポイントとなります。
① 60°C、10 時間の液状加熱処理
60°C、10時間の液状加熱処理は比較的熱に安定なたん白質のウイルス不活化方法で、アルブミン製剤に導入されて以来、70年以上にわたって活用されています。
またその後の安定化剤の開発により、その他のたん白質製剤にも利用されています。
② 80°C、72 時間の乾燥加熱処理
乾燥加熱処理は、血液凝固因子のように熱に不安定なたん白質製剤の肝炎ウイルスの不活化対策の目的に開発されたものです。
③ SD(有機溶媒/界面活性剤:Solvent / Detergent)処理
ウイルスの脂質膜(エンベロープ)を界面活性剤と、有機溶媒の組み合わせで破壊し、ウイルスの感染性をなくす方法です。エンベロープを持つウイルス(HIV、HBV、HCV等)に有効な不活化法です。エンベロープを持たないウイルス(HAV、ヒトパルボウイルスB19等)には効果はありません。
④ ウイルス除去膜処理
ウイルスと血漿たん白の大きさの違いにより、ウイルスを除去する方法です。ウイルス除去膜としては、ウイルスの阻止能が高いこと、目的たん白質の透過性が良好なこと、そして毒性がないことを同時に満足させることが必要です。
⑤ 低 pH 液状インキュベーション処理
低pHの条件下で、長期間液状インキュベーションすることによりウイルスを不活化する方法です。エンベロープを持つウイルス及び一部のエンベロープを持たないウイルスにも有効な不活化法です。
本来は、目的とするたん白質を分離・精製するための工程ですが、各種のウイルスも同時に不活化・除去されることが確認されています。
エタノール分画によってもウイルスが不活化・除去されることが確認されています。
PEG分画は分子量の大きさにより分画する方法で、分子量の大きいもの、つまり重合体やウイルスを沈殿画分に集め、除去できます。
マイナス電荷を持つウイルス等はプラスのゼータ電位をもつデプスフィルター表面に吸着し、除去されます。
クロマトグラフィーは目的とするたん白質を吸着あるいは通過させ、それぞれのたん白質の大きさ、イオン荷電、相互作用を利用し、分離・精製する方法で、その過程で目的物以外のもの(ウイルス等を含めて)が除去されます。
製造工程の各種ウイルス不活化・除去能を客観的に評価するために、第三者研究機関においてウイルスクリアランス試験を実施しています。これは、実験室において、実製造を模倣した工程にウイルスを添加し、工程前後でのウイルス減少率を確認する試験で、日本や欧州連合(EU)のガイドラインに従い実施しています。製造工程の変更や、試験方法に係わる技術の進歩にともない、随時再評価されます。
現在までに英国血漿由来血液凝固第Ⅷ因子製剤によるvCJD伝播の可能性のある症例が英国で1例15)、輸血によるvCJD伝播の可能性のある症例が英国で4例報告されています16~19)。
日本血液製剤機構(JB)ではCJDの原因物質である異常プリオンたん白に対する血漿分画製剤の安全性を確認するため、製造工程から異常プリオンたん白を除去する能力を検証するためのプリオン除去実験を行うとともに、この検討結果を含めた血漿分画製剤の製造工程からのプリオン除去の可能性について論文を発表しています20~27)。
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